Nintendo Switch『ペーパーマリオ オリガミキング』中国語版では、「権利」という表現が消えていた。全世界向けにローカライズをする難しさ

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Nintendo Switch向けに今年7月17日に発売された、任天堂の『ペーパーマリオ オリガミキング』。前作から約4年ぶりとなる『ペーパーマリオ』シリーズ最新作は、日米英のニンテンドーeショップのダウンロードランキングにて現在1位となっており、またイギリスではパッケージ版の初週売上にてPS4『Ghost of Tsushima』に次ぐ2位に位置するなど好調のようだ。

このように世界各国で同時発売された本作は、日本語を含め9か国語にローカライズされている。そしてとある同じシーンにて、言語によってセリフに違いがあることが発見され、その内容に注目が集まっている。

TwitterユーザーのShawnTim氏は7月24日、『ペーパーマリオ オリガミキング』の日本語版と英語版、中国語版のスクリーンショットを投稿した。この場面は、オリガミ兵に有無を言わさず折りたたまれてしまったというキノピオを、通りがかりのマリオが助けたシーンだ。このキノピオは、オリガミ兵がキノピオたちを目の敵にしていじめているとし、日本語版では「キノピオに人権を!キノピオに自由を!」と訴えて去っていく。

同じ場面の英語版を見てみると、キノピオは、なぜオリガミ兵はキノピオたちにこのようなことをするのかと述べたあと、「卑怯だよ!キノピオには権利がある!こんなのキノピオいじめだ!」と発言。日本語版と比べると、細かな表現の違いや言葉の順番は異なれど、話している内容としては似ているように感じられる。

Image Credit: ShawnTim


では中国語版ではどうかというと、キノピオはやはり、オリガミ兵はキノピオを目の敵にしていじめているとマリオに伝える。しかしその後、「キノピオの見た目は整っていないとダメなんだ!キノピオには平穏な暮らしが必要なんだ!」と述べている。主に中国本土で使われている簡体字版と、香港や台湾などで使われている繁体字版があるが、内容はほぼ同じである。日本語版や英語版ではキノピオの権利や自由を訴えていたが、セリフの内容がまったく異なるものになっている事が分かるだろう。これを受けてShawnTim氏は、中国語版は検閲(Censored)されていると指摘している。

中国に対しては、たとえば新疆ウイグル自治区や、連日デモが繰り返されていた香港において、政府による人権侵害がおこなわれていると国外から指摘される事が多い。これを根拠に、米国が中国に対する制裁措置をおこなっているほど。言論の自由も認められていない。『ペーパーマリオ オリガミキング』は日本で開発された作品であるため、日本語版が先にあり各国語へとローカライズされたと思われるが、「キノピオに人権を!キノピオに自由を!」をそのまま中国語に翻訳することは許されなかったのでは、というのが検閲されたと考えられている背景だ。

一方で、この表現の変更は必ずしも検閲とは言えないという意見も存在する。中国を含むアジアのゲーム市場に詳しいNiko PartnersのシニアアナリストDaniel Ahmad氏は、そもそも本作は中国本土では発売されていないため、政府機関による検閲、あるいは現地販売パートナーのTencentによるチェックは受けていないと指摘。そのため検閲されたというよりも、任天堂のローカライズチームが独自に判断したことだろうと述べている。もっとも、中国本土で発売する場合には、特に人権を訴える部分の変更は必要になるはずだとしている。

またAhmad氏は、中国語版のセリフ自体にも不正に対する抗議という側面があり、意味合いとしては似たものに翻訳されているとも述べる。そのほか、繁体字版にてキノピオは“平整的”と“平静的”という言葉を使っている点に注目する人も。ここに共通する“平”は、折り紙を広げて平らにすることを想起させ、英語訳のFlatも同様の意味で使われる。単にセリフを書き換えたわけではなく、本作に相応しいシャレを仕込んでいるという見方だ。

Image Credit: Xavi


セリフの内容が変更されているのは中国語版だけではない。英語版のこの場面の直前では、キノピオはオリガミ兵になぜこのようなことをするのか尋ねる暇もなかったと説明している。しかし、スペイン語版では逆に尋ねていたことになっており、オリガミ兵は「黙って我々に従え!」と回答したという。そしてキノピオは「ヒドい話だよ!僕はすごく傷ついたんだ!」とマリオに訴えている。日本語版と似た内容だと先述した英語版に関しても、キノピオは自由については述べておらず、人権(Human rights)という限定した表現も避けていることが分かる。

本作のクレジット画面によると、ローカライズは各地域別のチームがそれぞれを担当していることがうかがえる。中国語版については、簡体字版は中国の江蘇省蘇州市に拠点を置くiQueが、繁体字版はNintendo Hong Kong Localisationが担当したようだ。『ペーパーマリオ オリガミキング』が中国本土では発売されていない状況からすると、問題のセリフが検閲されたというのは誤解で、それぞれのチームが現地の文化などに合わせてアレンジしながら翻訳をおこなったと見るべきだろう。

Daniel Ahmad氏が指摘したように、将来的に中国本土でも発売するならば、問題のセリフは検閲の対象となることが濃厚。中国でのリリースには、政府機関による審査を受けてライセンスを発行してもらう必要がある。任天堂はそうした先を見越して、中国語版のローカライズにおいては自主的に規制をおこなったのかもしれない。非正規ルートにて中国本土に持ち込まれた本作が、問題視されることも避けたいところだっただろう。それでも、セリフの意図するところを大きく外さず、さらにシャレを仕込んでおり、今回の一件はローカライズチームの工夫の跡がうかがえるものとなった。

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