セガ、20年ぶりにプリクラ業界へ降臨。新筐体『fiz』の背後にある四半世紀のプリクラ・クロニクル

株式会社セガは7月7日、最新プリクラ機『fiz(フィズ)』を2020年秋に発売することを発表した。最大の特徴といえるのはプリクラと同時に撮れる3秒動画「モーメント」だ。

株式会社セガは7月7日、最新プリクラ機『fiz(フィズ)』を2020年秋に発売することを発表した。合わせて7月10日から全国で期間限定の先行リリースを実施するという。プレイ料金は1回400円となる。

『fiz』は、セガホールディングス傘下にあるアトラスが生んだ『プリント倶楽部』の25周年を記念する筐体となる。最大の特徴といえるのはプリクラと同時に撮れる3秒動画「モーメント」だ。写真の撮影と同時にごく短いムービーを撮ることができるというもので、iPhoneの「Live Photos」と似た機能といえるだろう。撮影ブースは自然光を意識した明るい空間となっており、眩しい“光盛れ”を実現できる。また内部には23.8インチの大画面が2枚設置されているため、鏡のように見やすく、盛りやすい。

またスマホアプリ「プリクラON」と連動すれば、QR会員証をかざすだけで撮影データのダウンロードが可能。メールアドレスの入力が不要となるほか、有料会員になるとらくがきオフのプリクラもダウンロードできる。このほかシールの中のプリクラが動きだす「ARプリクラ」や特別な演出が可能な「プリもっと」のカスタムなど、多彩なサービスが提供されるという。1プレイで取得可能なデータはプリクラ6枚+モーメント6枚=最大12枚となる。


社会学者・角田隆一氏の共著「映像文化の社会学(有斐閣、2016)」によれば、『プリント倶楽部』が生まれた1995年は家の中にしまわれていた写真が「ミニアルバム」として携帯されるようになった時代だったという。かつて家族写真がメインだった写真撮影の場はすでに、1986年の「写ルンです」の登場により友人・恋人といった関係性の範囲にも広がっていた。さらに90年代に入ると、すでに関係性を築いた相手と記念撮影をするばかりでなく、出会った人と「とりあえずすぐ撮る」というコミュニケーションが実践されるようになる。現在ではとりわけ特別なタイミングでなくとも写真を撮るというのは当たり前に思えるが、当時は「日常写真ブーム」と呼ばれ若者の奇異な行動として受け止められていたそうだ。

こうした中、若い女子の間ではコンパクトサイズのアルバムを持ち歩き、見ず知らずの人に自己紹介として開示することが流行していたという。こうした時代にアトラス(旧社)が産んだのが『プリント倶楽部』だったのだ。当時のテレビ番組「愛ラブSMAP!」にてSMAPがメンバーのプリクラをプレゼントする企画が行われると、『プリント倶楽部』の認知度は爆発的に拡大。他社がプリクラ事業に参入するようになり、そのブームは90年代後半に最初のピークを迎えた。

ゼロ年代に入りプリクラの熱狂は一旦収まったかに思われたが、間もなく次なるセンセーションが巻き起こる。現代のプリクラとは切っても切り離せない「盛り(=現実より良く見せる)」文化である。「顔認識機能・画像加工機能を売りにした「花鳥風月」(ナムコ2003年)という機種のヒットを大きなきっかけとし、他にも“目ヂカラ”が上がると評判になって「美人-プレミアム-」(フリュー2007年)などもたいへん人気を博した」と角田氏は述べている。プリクラといえば現実離れした“盛り”写真、というイメージはこのころにスタンダードとなったのだ。一方、当時は“盛り”具合がもっとも過剰だった時代でもあった。グロテスクなまでに強調された目や細い脚は第三者のみならず、プリクラを楽しむ当人たちの間でも「詐欺プリ」と揶揄されたことが伝えられており、ある程度自虐性をもった文化でもあったようだ。

『美人-プレミアム-』公式サイトより。


そして2010年以降のプリクラには画像転送サービスが加わり、SNSコミュニケーションにプリクラ画像が組み込まれるようになる。角田氏によれば、この時代になると価値観の転換が生じた。不自然に盛ることを敬遠し、新たに“ナチュラル志向”がトレンドとなってきたのだ。2011年に先駆けてヒットしたフリューの『LADY BY TOKYO』がその代表格だという。とはいえこうした志向は必ずしも、盛ることをやめて写実性を求めるようになったとはいえない。むしろ“ナチュラルに盛る”こと、すなわちより不自然でなく、周到に盛ることが現代の潮流といえるだろう。このことはバンダイ・ナムコが2014年にリリースした『PLATINUM BALANCE』のキャッチコピーを借りれば、“「盛る」ではなく「整える」”への変化といっていいだろう。

こうした流れを踏まえて改めて『fiz』を見てみると、その機能は2010年代に勃興した「ナチュラル盛り/整える」の流れを強く汲んでいるように思われる。「自然光」のような撮影空間や、「濃すぎないのに存在感ある理想の目元」「“自分らしさ”を生かした質感が選べるリップ」など自然体を意識した盛り方の売り文句が目立つ。筐体やイメージ画像を見ても、あくまで強調しすぎない目鼻立ちを推していることがわかるだろう。一方で新機能のモーメントは、スマートフォンで持ち歩かれる現代の写真のあり方により適応したかたちといえる。プリクラの元祖であるアトラス擁するセガが、令和のプリクラ界にどのような影響をもたらすか注目したいところだ。


『fiz』は秋のリリースに先駆けて期間限定の先行リリースを実施する。7月10~12日にかけて「ラウンドワン横浜駅西口店」および「ゲーム キングジョイ」(名古屋)、7月16~19日にかけて「楽市楽座イオンモール筑紫野店」(福岡)にて『fiz』を体験することが可能だ。ゲームセンターに出かけるついでに遊んでみると新たな発見があるかもしれない。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

Articles: 1615