翻訳不可能といわれたシュールRPG『Hylics』非公式日本語化Modが登場、難解ワールドがわかりやすく意味不明に

2015年発売のRPG『Hylics』は、その尖った作風からカルト的な支持を集めてきた。そしてリリースから5年目の今、待望の日本語化Modが登場し注目を集めている。

サイケな色彩、うごめく造形、ダウナーで瀟洒なサウンド。あるいは主人公Wayneのダバダバした歩き方。2015年発売のRPG『Hylics』が目を惹くのはこういったビビッドな要素の数々だろう。インディーデベロッパーのMason Lindroth氏が制作したシュルレアリズムな作品は、その尖った作風からカルト的な支持を集めてきた。そしてリリースから5年目の今、待望の非公式日本語化Modが登場し注目を集めている。

『Hylics』は国内でも根強い人気を誇りながら、長らく日本語化が困難な作品と考えられてきた。その原因は作中に登場する独特の文章だ。たとえばプレイヤーがはじめてゲームを立ち上げたとき、次のようにあらすじが語られる。「難解な生物はその脳を贅沢に叩き潰す。科学の内側に皆は悔やむ。」あたかも詩のようで、複雑な隠喩のような語り口だ。次の段落でその例えが解説されるかと思って聞いてみると、そうはこない。「それは響き、ゼリーを除いて。それは気持ち…運命で」。さっぱりプレイヤーを置き去りにしたまま、唐突に本編は開始してしまう。


実は本作に登場する文章は、システムUI以外の大半がランダム生成されたもの。街を歩くモブキャラの台詞からナレーションに至るまで、ことごとく意味をなさない言葉ばかりなのだ。先述の文章も筆者がプレイしたときに偶然出くわしたものであり、他のプレイヤーが遊んだときにはまた異なるストーリーが語られることになる。ナンセンスで詩的な迷文の数々は他にない世界観を醸成する一方、手元で翻訳しながら遊ぶ非英語ユーザーの参入ハードルを高める一因ともなっていた。

そんな本作の非公式日本語化Modを制作してみせたのが、Steamユーザーの薬師寺達哉氏だ。『Hylics』のデータ内にはランダム生成文の原文が存在しており、「動詞/名詞/形容詞」と品詞で分けられた単語リストを組み合わせることで文章がジェネレートされているという。そこで薬師寺氏は、まず原文の構成を英語型(主語→動詞→目的語)から日本語型(主語→目的語→動詞)に変更。そののち単語リストを日本語に置き換え、適宜「てにをは」を加えることで翻訳を完成させたそうだ。

難解な文章のイメージから翻訳の難易度は高いと目されていた『Hylics』。しかしランダム生成のシステムをつかんでいれば「文章量はそこまであるわけじゃないので楽な方」だったとのこと。もっとも翻訳文量が多いキャラクターは、古代のアーティファクト“紙コップ”を探し求める学者Dedusmulnの台詞だったそうだ。彼を仲間に加えるイベントの際、ある装置を使うためのちょっとした説明が挟まれる。その手順を描写するために多少言葉が必要になったのだろう。逆にいえば、固定の具体的な文章が挿入されるのはそうした最低限攻略に必要な部分しかないともいえる。


なお英語から日本語に訳す際、どうしても翻訳しきれない部分があったという。たとえば時制の問題だ。英語なら「単語+’d」とすることですべての動詞を過去形にすることができる。しかし日本語の場合は「〜た」「〜った」「〜んだ」など、動詞によってさまざまな形が生じてしまう。このあたりは統一したシステムで対応できないため、過去形にしない方針で翻訳されているそうだ。また詩の引用からなるランダム文にも苦労させられたことが語られている

では原語を離れたからといって『Hylics』の魅力が削がれているかというと、まったくそんなことはない。訳されてなお意味不明な文章の有り様は冒頭で示したとおりだ。ランダム文で登場するプリセットの単語は「運命」「エルフ」「邪悪」といったRPGらしい体裁を保ったものもあれば「ホムンクルス」「タイヤ」「胎生髄組織」など、どうあがいても文脈を破壊するワードも満載だ。言葉はわかるのに、何を言っているのかわからない。語られる台詞を聞いているだけでは理解できない本作のパワーがいっそう感じやすくなったといえるだろう。


また、日本語ならではのアレンジとしてキャラクター性が際立った部分もある。たとえば仲間のひとり、虫を統べる少女Somsnosaは「あっWayneじゃん」と呼びかけてくるフレンドリーな印象に。一方、血気盛んな騎士であるPongormaという男は、簡潔ながら威圧感のある言葉づかいとなっている。それぞれの個性が際立つかたちになったといえるだろう。

ちなみに薬師寺氏は6月22日に発売された『Hylics 2』もプレイしており、こちらの翻訳も検討を進めているようだ。ただし無印版がRPGツクール製だったのに対し、続編はUnityで制作されていることから少々時間をかけて取り組む必要がある模様。また『2』は台詞がランダムで生成されないこともあり、翻訳の実作業は初代とは異なるものになるだろう。薬師寺氏の今後の活動を応援したいところだ。

なお無印版でも、少数ながらランダムでない台詞を話す住民はいる。しゃべるときにモニョモニョ音がしないキャラは固定台詞だ。


本作の日本語化Modはこちらにて確認してほしい。記載の手順に従ってゲームのファイルにModを組み込めば翻訳された状態でプレイすることが可能だ。ただし非公式である以上、導入については自己責任となるので注意。

現在Steamサマーセールにより、『Hylics』は50%オフの149円で購入することができる。気になっていた人は、まさに今こそがプレイする絶好の機会ではないだろうか。
【UPDATE 2020/7/4 23:59】
Modが非公式のものであることを追記。あわせて、ダウンロードリンクについても調整。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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