PS4『ゴースト オブ ツシマ』開発陣が語る、「日本刀」のために研ぎ澄まされた戦闘デザイン。反応速度の限界に挑み、「斬れ味」と「練度」をいかに実装するか

ソニー・インタラクティブエンタテインメントは6月23日、海外向けPlayStation.BlogにてPS4『Ghost of Tsushima(ゴースト オブ ツシマ)』における戦闘にまつわる情報を公開した。同作における「刀」によるバトルを実現するため、何にこだわられたのか。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントは6月23日、海外向けPlayStation.BlogにてPS4『Ghost of Tsushima(ゴースト オブ ツシマ)』における戦闘にまつわる情報を公開した。同作における「刀」によるバトルを実現するため、開発陣が掲げた3つのポイント「スピード・斬れ味・練度」について詳しく解説が語られている。

『ゴースト オブ ツシマ』は13世紀の日本における蒙古襲来をテーマとしたオープンワールドアクションだ。モンゴル帝国/大元による侵攻を受けた対馬の武士たちは壊滅的な打撃を受けていた。武士団唯一の生き残り・境井仁は、たとえ侍の道に反した邪道に手を染めることになっても対馬の民を守ろうと決意する。冥府から蘇った「冥人(くろうど)」として、あらゆる手段を使って故郷を敵の手から取り戻すべく、仁の戦いが始まるのだ。

本作においてもっとも重視されたのは、いかに「刀」による戦いを再現するかに尽きる。制作にあたっては、古典からモダン作品まで多くの時代劇映画が参照された(2010年公開の『十三人の刺客』リメイクなど)。しかし、映画におけるアクションはインスピレーションを与えこそすれ、そこでの法則はしばしばゲームではうまく作用しないことがある。そこで『ゴースト オブ ツシマ』の開発にあたっては、3つの原則が掲げられた。すなわち「スピード」「斬れ味」「練度」の三大柱である。


まず「スピード(speed )」について、基本的に『ゴースト オブ ツシマ』における戦闘は素早い攻撃が重視されている。というのも実際の日本刀は約0.9〜1.3キログラムと非常に軽量。刀によるアクションを再現しようとすれば、おのずとスピーディな剣戟を叩き込むことが主眼となってくるのだ。本作におけるアクションはすべて屋内のモーションキャプチャーにより制作されている。それゆえ写実的で俊敏な動きを再現することができるのだが、ここでひとつ問題が生じてくる。キャプチャーした動きをそのまま使ったのでは、人間の反応速度に対して速すぎるのだ。

いかに単純な動きであっても人間の反応速度は、視覚刺激を受け取ってから実際の行動を起こすまで0.3秒ほどかかる。これは神経系から脳に伝わるまでの距離がもたらす限界の速度だ。開発陣が内部で繰り返しテストを行った結果、これらの反応速度はほとんど個人による差がないものだとわかっている。したがって『ゴースト オブ ツシマ』における戦闘デザインは、常にこの人間の限界との戦いだった。もちろんプレイヤーの攻撃が素早い分には問題ない。問題はNPCの反応速度をどうするかという点だった。

試しにNPCの反応を実際の人間と同等程度にしてみたところ、からきし鈍い出来栄えになってしまったのだという。これは我々の目が時代劇映画で見る目にも止まらぬ殺陣に慣れてしまっているせいだ。現実にありうる剣戟の速度を再現してみると、「目が肥えて」しまっている現代人にとってはどうにもどん臭く見えてしまうのだ。実際、開発中に本物のチャンバラ試合を観戦したときには、ゲームで再現したいと思えるようなスピードよりかなり遅い刀運びに見えたという。


したがってプレイヤーの攻撃が素早くなる分にはいいのだが、モンゴル兵の攻撃はプレイヤーが反応できる速度の限界を超えてはならないことになる。すると戦闘バランスに歪みが生じた。ただ攻撃ボタンを連打していれば簡単に敵を撃破できてしまい、どうしてもバトルに深みが出てこない。そこでいくつかの方針転換が図られる。大前提として、モンゴル兵の攻撃はプレイヤーの反応速度より速くてはいけない——しかし、その動きが予測可能なものであれば話は別だ。

敵が一連の攻撃を始める際、一撃目だけはプレイヤーが目視してから反応するのに十分な猶予が与えられる。しかし二撃目、三撃目は別だ。初手からつながる敵のコンボは、「見てから」反応する間隙を与えず断続的に加えられる。プレイヤーは最初の攻撃を見切った時点で、次に繋がる連撃を「予想して」対処しなくてはならないのだ。これにより戦闘は、あくまで対応できうる可能性を残しつつも、文字どおり目にも止まらぬスピードで展開することになる。さらに新たな工夫として、「複数の敵が畳み掛けるように斬りつけてくる」というデザインが施された。ひとりの相手に対してはなんとか対処できる猶予が与えられるが、さらにそこへ2人目・3人目の敵が追撃を加えてくる。プレイヤーは時代劇さながら、複数の敵を相手にギリギリの読み合いで相手の剣戟をいなす必要があるのだ。

限界を超えてスピーディな主人公側の攻撃に対し、複数人でコンボを繰り出してくる敵の兵士たち。ターン待ちで突っ立っているモブは存在せず、常にどこから刀が抜かれるかわからない緊張感が戦闘を支配する。この高揚感は、プレイヤーを主人公とシンクロさせるのにうってつけのバランスだった。制御しきれず、生存しがたく、されどともかく前進せざるを得ないシビアな戦場が繰り広げられる。こうした「戦闘におけるスピード問題」は開発陣を大いに悩ませたようで、「小島秀夫監督がスタジオへ試遊しにくる前に解決できればよかったのに」とのコメントがこぼされている。


2つ目の柱は「斬れ味(sharpness )」だ。開発におけるスローガンとして唱えられたのが「刀をリスペクトせよ」という標語だった。時代劇映画では、ほんの一陣の斬撃が頑健たる敵の膝をつかせる。刀を重んじよ、その一振りにて敵を崩落せしめるべし。要するに、敵があまりにもダメージに耐えうる仕様だと、せっかくの日本刀でボコボコ相手を叩かなくてはならない。これではあんまりにも刀の斬れ味が伝わらないだろう。

さすれば、この美的感覚もまたゲームバランスに大きく影響を与える。仁の刀にそれだけ斬れ味があるなら、敵の振るう剣もまたそうでなくてはならないからだ。スピードや攻撃の激しさ、一撃の鋭さ。これらに対処するとき、プレイヤーは攻めにリソースを割くのと同じく守りにも集中しなくてはならない。そしてそこには、さらなる戦術の幅が広がっている。防御、パリィ、回避など、さまざまな立ち回りを使って、ダメージを退けなくてはならないのだ。

凶悪な武器を携えた敵の激しい攻勢は、差し迫った死をもたらす。一瞬の判断ミスが命取りとなる危機感は『ゴースト オブ ツシマ』における要だ。幸いプレイヤーには身を守るための選択肢がふんだんに与えられており、もちろん相手を斬り伏せるための手段はそれ以上に存在する。精神を研ぎ澄まし、集中すれば戦場を生き延びることは可能だろう。ひとたび気を抜けば命はない。刹那の判断で生死が分かれる戦場に立つとき、プレイヤーはまさしく境井仁その人をロールプレイしているのだ。


そして3つ目の柱が「練度(precision )」となる。もっとも正確な瞬間に的確なひと太刀を振るうための、訓練と修練に費やした時間に応える武器、それが刀だ。鍛錬の上で得られる練度の感覚、これをプレイヤーに与えることが重要となった。まず構築されたのは正確なレスポンス性だ。主人公・仁はプレイヤーの入力に応じて瞬時に反応しなくてはならない。基本的にキャラクターのアニメーションは自然な流れを維持するように設計されていたものの、一瞬の判断で入力があった際には、物理を無視して即座に応答するようにデザインされている。仁は動作の大きい強力な一撃を放つこともできるが、そのアクションはとっさの判断でいつでもキャンセルすることができる。モンゴル兵が放った不意の攻勢の声に応じて防御に転じるなど、状況に応じて次の行動に移ることは、ハイレベルなプレイを実現する上で重要な立ち回りとなってくる。

またプレイヤーがアビリティを使用した際の練度の反映にもこだわりが見られる。たとえば相手の攻撃に対して防御を入力したとしよう。もっとも基本的な防御はL1ボタンを押すことで、敵の斬撃を防ぐことができる。しかし、ここからさらに段階があるのだ。相手の攻撃が当たる寸前にL1を押すことで、防御はパリィへと変化する。相手の攻勢を妨害するだけでなく、カウンターアタックを仕掛けることが可能なのだ。さらにこの際、仁は「冥人」の能力として相手から力を吸収することができる。さらに、相手の攻撃が当たるまさにその瞬間にL1を押すことができれば、パーフェクト・パリィとなり痛烈なカウンターを仕掛けることが可能。吸収する力も大いに増大する。

「練度」を念頭に戦闘するとき、正確なタイミングで的確な攻撃を相手に打ち込むことがマストとなってくる。剣戟の中でモンゴル兵を観察し、学習しながら戦術の精度を高めていく必要があるのだ。こうした学びの成果はやがて新たな「スタンス」へと結実する。攻撃のテクニックごとに異なる系統がまとまっており、相手に応じてさまざまなスタンスを切り替えることが重要な立ち回りとなってくる。

*スタンスの切り替えによる立ち回り方の例。はじめ、剣兵と戦うときは「石のスタンス」を使用し、盾兵を相手どる際には素早く「水のスタンス」に切り替えている。

「スピード」「斬れ味」「練度」、これらを組み合わせることで『ゴースト オブ ツシマ』は他にない「刀」のための戦闘を実現している。練度が高まれば、いっそうスピーディな剣戟で斬れ味をお見舞いすることができる。本作のモードにはイージー・ノーマル・ハードの3種類が用意されているが(関連記事)、開発陣としては少々歯応えのある難易度に挑戦して欲しいとのことだ。困難に打ち勝つための修練を積むことは、まさしく境井仁が背負ったものを追体験するゲームプレイとなるからだ。物語だけでなく、戦闘のゲーム性を通じてキャラクターのドラマを味わう新たなゲームプレイが期待できるだろう。

『inFamous』で知られるSucker Punch Productionsが手がける『ゴースト オブ ツシマ』はPlayStation 4用タイトルとして、7月17日に発売される。通常版は6900円(税別)、ゲーム内特典やデジタルアートブックなどが付属したデジタルデラックスエディションは7900円(税別)となっている。またダウンロード版について、デジタルミニサウンドトラックなどを含む早期予約特典の受付は7月16日までとなっている。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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