『あつまれ どうぶつの森』で「葬儀文化」が独自の形で発展していく。墓石を前にして彼らは何を弔う

 

『あつまれ どうぶつの森(あつ森)』は決して可愛いだけのインテリアゲームではない。ちょっとひねくれた、不気味なコーディネイトを楽しみたいプレイヤーにも幅広い選択肢を提供している。直球でガイコツな「こっかくひょうほん」や文化人形のような「おにんぎょう」、あるいはリメイクで化ける「レンガのいど」など。ゴシックから純和風ホラーまで何でもござれの充実ぶりだ。そして、そうした需要に応えるインテリアのひとつが「墓石」シリーズだろう。「わふうのはかいし」と「ようふうのはかいし」が存在し、前者は日本人が見慣れた仏教式の墓石だ。背の高い竿石だけでなく、花立に供えられた仏花や線香を供える香炉、卒塔婆まで再現された逸品である。デフォルトはグレーだが、リメイクで高級感あるクンナム風の黒色や、時の経過を感じる苔むした風合いにすることもできる。

*本職の僧侶の方も唸る出来栄えのようだ。

一方後者は、キリスト式の霊園で見られるタイプの背の低い墓碑となっている。何より目を引くのは碑の前に供えられた萎れた花の存在だろう。こちらもリメイクすることでカラーチェンジが可能なほか、花の種類もそれぞれ異なる仕様となっている。いずれもこだわりのディティールが感じられるインテリアとなっており、ホラー風コーディネイトをたしなむ島民からは御用達のアイテムとして知られる。ところがこれらの品々は、一部ではデコレーション以上の意味合いをもって使われることがあるようだ。墓石に込められる意味、すなわち「葬送」のための弔いコーデである。もはやコーデの枠を超えて、文化になっているのだ。

https://twitter.com/XeroRain/status/1246560784735334401

*「ようふうのはかいし」バリエーション。

引っ越し、それは永遠の別れ

海外掲示板RedditユーザーのBall_Of_Crystal氏は一風変わったロールプレイに興じているようだ。パニエルの島と思しき屋内で一堂に会した住民たち、しかしその表情はみな一様に沈んでいる。それもそのはず、ここで執り行われているのはかつて島にいた住民の「葬式」なのだ。といっても、もちろん『あつ森』で実際にどうぶつが永眠するようなことはない。ここで弔われているのは、引っ越しにより島を立ち去ってしまった住民たちだ。Ball_Of_Crystal氏は葬儀を開くだけでなく、島の一角に丹生込めた墓場を作り出している。設置された墓碑の横には、それぞれ在りし日の住民の肖像が飾られた。

Image Credit : Ball_Of_Crystal / 任天堂

確かにゲーム内で引っ越してしまった住民は二度と戻ってこない。たとえamiiboカードや離島ガチャで再会を果たしても、彼らの記憶は抹消されているという残酷な仕様が待っているのだ。なれば永遠の別れを惜しみ、去った住民の記憶を留めるという意味で「弔い」を行うのは自然な心情といえるだろう。このほかにも「うっかり大切な住民の引っ越しを引き留め損ねてしまった」という悲しい理由で葬式を開き、メモリアルとして「はかいし」を設置するユーザーは少なくない。キャラクターに特別な愛着を抱かせるシステム、そしてこうしたロールプレイまで許容する『あつ森』の自由度があってこそ芽生えた文化といえるだろう。とはいえ、Ball_Of_Crystal氏の場合はちょっと不穏な意図もあるようだ。あるコメントで尋ねられて曰く、「すぐそこに死が約束されているんじゃ、他の子たちは引っ越したがらないだろうね?」「きっとね。それってつまり、みんな永遠にいてくれるってこと。ずっと。ずっと」。

さよなら島民、さよならわたしの島

島を去るのはどうぶつだけではない。ときにちょっとした理由でプレイヤーが『あつ森』の島を離れることもあるだろう。Redditユーザーのlazy_justin氏は、ある日ショックな出来事があった。ずっとNintendo Switchをシェアしていた同氏の奥方が、自分専用のNintendo Switch Liteを購入してしまったのだ。彼女は今や自分ひとりで『あつ森』をプレイできる。それはすなわち、長らくともに時間を過ごしたひとつ島での同居生活が終わりを告げるということだった。妻との別れを悲しんだlazy_justin氏は、すぐさま石材を集めて彼女の墓地を仕立て上げた。そこに植えられた黒いユリの花言葉は「狂おしい恋」そして「呪い」である。ちなみにlazy_justin氏はこの葬儀を奥方に見せたそうだ。曰く、「喜んでくれませんでした」。

Image Credit : lazy_justin / 任天堂

ハード乗り換えによる島との別れは、それほど珍しいケースではない。Redditユーザーrhuffles氏もまた、そうした出立の日を経験したひとりだった。実は『あつ森』をはじめとした「セーブデータがユーザーごとに保存されず、1つのセーブデータを他のユーザーと共有しているソフト」は、別の本体にデータを引っ越しすることができないのだ。年内には『あつ森』独自のかたちでセーブデータ移行の実装が検討されているそうだが、少なくとも今の段階では望むべくもない。旧ハードに残った思い出の島を削除する最後の日、彼は葬式を開いた。消えゆく島、もういなくなる自分の分身のための弔いだ。桜の木々とチューリップに囲まれ、ほしくさのベッドに横たわる。耳に聞こえるのは風のざわめきと、つみきのコンポから流れる「けけさんびか」だ。地面にはこれ以上ないくらい大きく自分の「遺影」を描いた。誕生日にも増して主役級の1日だ。ただ1匹見送りにきたオオゴマダラに別れを告げて、彼とその島はこの日に消えた。

Image Credit : rhuffles / 任天堂


ホントのお墓には行けないけれど

こちらもRedditから、melonspearz氏の投稿だ。同氏もまたある別れを経験した。『あつ森』の中ではなく、リアル世界においてである。現実で祖母を亡くしたmelonspearz氏は、いまだ世にはびこる新型コロナウイルス、そして家族間のちょっとした問題により、彼女の葬式に参列することが叶わなかった。別離からわずか数週間後、melonspearz氏はまたしても喪失を経験する。大切に育てていたペットの魚もまたその命を使い果たしたのだ。わずかな期間に二度の別れを経験したmelonspearz氏は、自らの島に小さな「はかいし」をふたつ建てた。その周りにはキャンドルを、そしてささやかな花と若木の苗を。「自分自身の空間をもつことは、とても大切です」と同氏は語る。デジタル世界の小さなスペースであっても、弔いの思いは確かにそこに込められているのだ。

Image Credit : melonspearz / 任天堂

「はかいし」というアイテムだけで、かくも多様に広がる『あつ森』の葬送文化。さまざまな解釈により、独自の使われ方が広まっている。遊び手の機微を繊細に受け止める、奥行きのあるゲームデザインだからこそ育まれたカルチャーといえる。これからもさまざまなプレイヤーが思い思いの記念碑として、はかいしを設置することだろう。

なお、とある島には本格的な仏寺も建立された模様。バーチャル法事が実現する日も近いかもしれない。