ゲームコミュニティWholesome Gamesは5月27日、Wholesome Directを公開した。Wholesome Direct はオンラインを介してゲームを紹介するイベントだ。Wholesome Gamesはゲームのキュレーションをおこなっているグループ。今回、有望なWholesome(健全な)ゲームにさらに注目してもらうために、オンラインショーケースイベントを実施したという。また、視聴者と開発者に喜びをもたらすことが望みだとも語っている。では実際どのような番組だったのだろうか。ざっくりといえば、穏やかなインディーゲームを数多く紹介する番組であった。
番組内では、『Ooblets』から『SkateBIRD』まで、キュートなインディーゲームが50本以上紹介された。どのような番組だったのかは、実際見ていただくのが手っ取り早いが、改めて構成を説明しよう。同番組内では数多くのインディーゲームが紹介されたが、大きく分けると、ナレーションや開発者コメントをまじえて個々のゲームを紹介していく前半と、流れるようにさまざまなゲームを一気に紹介する後半に分かれている。
同オンラインイベントはサプライズのないゲーム番組であった。大作タイトルの紹介はなく、披露されたタイトルも熱心にインディーゲームを追いかけている方なら知っている作品も多い。また、それらの大きな続報が発表されたわけでもない。新情報といえば、新映像の公開に発売時期の決定程度だろう。それにも関わらず、YouTubeでの動画評価は98%とかなり高評価。SNSなどでも、時間をとって見るに値したという称賛の声があがっている。これから6月にかけて続いていくオンラインゲームイベントの先陣を切り、鮮烈デビューを果たしたのだ。
Wholesome Directの魅力は、ゲームプレイ重視とテーマの統一だ。番組内においては、開発者コメントなどの長さはかなりコンパクトで、ほとんどがゲームプレイ映像で構成されている。オープニングやシネマティックトレイラーが流れることはない。情報を見ろと言わんばかりに、ゲームシーンが流れこんでくる。実際どのようなゲームなのかという点が理解しやすいゲームプレイ映像を次々テンポ良く流すことで、短時間で多くのゲームの魅力が知れるようになっている。
また健全なゲームというテーマが統一されていることで、視聴者は一定の安心感を得られるようになっている。穏やかなゲーム映像の次に暴力ゲームが登場すれば、テンションは上がるものの、ある種の緊張状態を抱くことになる。Wholesome Directではそのような起伏は生まれない。見ている間、ただただ癒やされるのだ。また一挙にゲームを紹介する後半パートを代表に、全体的にキュートで心地よい音楽が採用されている。見ているユーザーは、独特の心地よさに包まれたことだろう。
Wholesome Directの基本的な構成は、Nintendo DirectやIndie Worldに近い。前後半形式やゲームプレイ主義という点。またDirectという名前もおそらく先人から借りたものだろう。一方で、演出とタイトル選びによるテーマ統一という点において個性がもたらされており、安息を感じられるゲーム番組となっている。単純に見ていて心地よいのだ。やたら動物が出てくるタイトルが多かったのは、決して偶然ではないだろう。
重ねて述べるが、同番組内で得られる新情報は少なかった。新発表タイトルはほぼなく、ラストで発表されたサプライズらしき枠の情報も、発表済みのインディーゲームの発売時期発表だ。こうした事実のみを羅列すれば、ハズレイベントであったと考える人が多くてもおかしくはないが、そうではなかった。視聴者の興味を引きながら数多くのインディーゲームを紹介することで、満足度の高い情報番組に仕上がっていたのだ。単純に紹介されたインディーゲームの数が多く、情報量の多さもまた満足度の高さにつながっているだろう。また期待値が低かったことも、要因としてあげられそうだ。
昨今では、ゲーム会社各社がオンラインイベントを放送している。Nintendo DirectにState of Play、そしてXbox Insideのほか、EAやUbisoftもそうした番組放送を予定しており、6月にかけてさまざまな番組が放送されていく予定(関連記事)。これらはゲームの販促を目的としているが、販促にこだわるあまり、やたら尺の長い開発者インタビューやインフルエンサーのプレイ感想に時間が費やされ、視聴者から不満が寄せられる場面も見かけられる。求められているのは、ゲームの情報なのだ。Wholesome Directでは、番組構成レベルから細部まで贅肉が削ぎ落とされており、情報公開に注力。視聴者に寄り添い作られていることがはっきりとわかる。それゆえに、ここまで大きな支持を集められていると筆者は推測する。
新型コロナウイルスの影響を受け、現地系の大型ゲームイベントは中止を余儀なくされたこともあり、各社はオンラインイベントでのPRに精を出すことだろう。しかしながら、ゲーム会社が視聴者に一方的にコンテンツを押し付け、温度差が生まれてしまえば、そのオンラインイベントは販促どころかネガティブなイメージを植え付けることになる。オンラインイベント主催会社が、今回視聴者に寄り添い成功を呼び込んだWholesome Directから学べることは多くありそうだ。またWholesome Directの次回の放送についても、とても楽しみなところ。