発売から4年と5か月。長年にわたり運営され、戦略性の高いFPSとして確固たる立ち位置を築いてきた『レインボーシックス シージ』。明日には、YEAR5シーズン2における新オペレーターの詳細発表が控えている。そんななか、同作と内容が酷似した“クローンゲーム”と思わしき作品が出現。著作権侵害にあたるとして、Ubisoftが訴えを起こしているようだ。海外メディアBloombergなどが報じている。
『レインボーシックス シージ』と何もかもがそっくりなゲーム。その名も『Area F2(軍事地域F2)』。同作は中国最大手企業のひとつ、アリババグループ傘下のEjoy.comが開発するタクティカルシューターである。先月4月16日より、一部地域にてモバイル向けにオープンベータを開始。現在App Store/Google Playの両プラットフォームにて無料配信されている。ストアのゲーム概要欄には、リアルな屋内戦闘が楽しめることや20人以上の特殊部隊員が登場すること、またドローンによる偵察要素についても記載されている。まるで『レインボーシックス シージ』の概要について説明されているかのようだ。
では、作品の中身に『レインボーシックス シージ』との類似性は見られるのか。ここで『Area F2』のルールについて触れておこう。まず試合開始時にプレイヤーは、5対5のチームに別れる。片方のチームが攻撃側、もう一方が防衛側だ。両チームにはモードごとに目標が課せられており、攻撃側はエリアの確保や爆弾の設置を。防衛側は、攻撃側から目標を守り切ることで勝利となる。屋内での戦闘がメインとなっており、運河や日本庭園など特色の異なる4つのマップが存在。地形を活かした戦術を組み立て、チームを勝利に導くのだ。
以上が『Area F2』における大まかな試合ルールとなる。もうお気づきの方も多いことと思われるが、前述のルールは『レインボーシックス シージ』のゲームシステムそのもの。同作には爆弾やエリア確保といったモードが存在するが、『Area F2』にも全く同じと言っても過言ではないモードが搭載されているわけだ。また屋内での戦闘がメインであることや試合人数が5対5であること、さらにマップコンセプトに至るまで『レインボーシックス シージ』からの流用を彷彿とさせる。
そのほか『Area F2』では、試合ごとにエージェントと呼ばれる特殊部隊員の中から操作する1名を選択。各エージェントは固有のアビリティを所有しており、それらを駆使して勝利を目指していくわけであるが、言わずもがなこの部分は『レインボーシックス シージ』におけるオペレーターを想起させる。さらにエージェントの能力も毒ガスの放出や、壁を破壊するハンマーなど、同作でも見られるものがほとんど。極めつけに、シールド付きマシンガンを設置可能な防衛側エージェントも用意されているほどだ。
以上の点を踏まえると、『Area F2』がいかに『レインボーシックス シージ』とそっくりな作品なのか分かることだろう。ほかにも補強壁の設置要素やラペリング操作、フレンドリーファイアシステムなども実装されているうえ、UIまでも似通っている。もはや『Area F2』オリジナルの要素が見当たらないほどだ。こうして同作は、突如現れた『レインボーシックス シージ』のクローンゲームとして一部のストリーマーなどにも取り上げられ、注目を集めつつあった。そんななか、Ubisoftが放っておくわけもなく。今回同社は『Area F2』が『レインボーシックス シージ』の完全なコピー作品にあたるとして、不服の申し立てをおこなったわけだ。
ただし今回Ubisoftが提訴した相手は、『Area F2』の開発元ではないようだ。Bloombergの寄せた報告によると、同社は現在AppleおよびGoogleに対し、『Area F2』の配信元(App Store/Google Play)からの取り下げを要求しているという。つまりコピー作品を開発したとされるEjoy.comではなく、それを配信するプラットフォーム側に訴訟を起こしているわけだ。今回Ubisoftが提出した訴状によると、AppleおよびGoogleに『Area F2』の削除要請をおこなったところ、その要望が拒否されたという。そしてこの対応に不服を感じたUbisoftは5月15日、ロサンゼルス連邦裁判所にてApple/Google両社を提訴するに至ったようだ。
また訴状の中でUbisoftは『Area F2』に対し、同作が“コピー作品”であることは明確であり、そこに異論の余地はない、と強く主張。続けてオペレーターの選択画面からリザルト画面に至るまで、実質的にすべての部分が『レインボーシックス シージ』からコピーされているとも述べている。やはりUbisoftにとって『Area F2』は、看過できない悪質な存在だと認識されているのだろう。さらにEjoy.comに対しては、『レインボーシックス シージ』のコピー作品をモバイル向けにリリースすることで同作のプレイヤーを流入させ、不当にお金を稼ごうとしているとも。Ejoy.comの真意は不明だが、ゲーム内に課金システムがあることや『レインボーシックス シージ』との類似点の多さを踏まえると、その可能性は高そうだ。
そんななか、『Area F2』を開発するEjoy.comからもコメントが寄せられているようだ。ゲームアナリストのDaniel Ahmad氏がTwitterに寄せた報告によると、Ejoy.comは今回のUbisoftの訴えに納得していない様子。具体的には、『Area F2』は独自に開発された作品だということ、また著作権侵害には一切該当しないと主張しており、さらにEjoy.comの法務部はすでにUbisoftのメンバーと話し合いを進めているとも述べている。ただし、もしこの主張が本当なら、UbisoftがAppleおよびGoogleに『Area F2』のストアからの取り下げを要請していることと辻褄が合わない。Ejoy.comの主張には疑いが残る。
なおBloombergは今回の件についてAppleおよびGoogle、そしてアリババグループにコメントを求めたものの、返信は現時点でないという。一方Ubisoftは、海外メディアKotakuに向けて今回の訴訟についてのコメントを寄せている。それによると、係争中の訴訟の詳細については言及できないという。ただし、知的財産の保護に尽力していることは確かだと述べており、『Area F2』の削除要請からは身を引かない構えなのだろう。
今回と似たような事例としては、過去に『PUBG』の開発元が『荒野行動』を開発するNetEaseを訴訟したことが挙げられる(関連記事)。その際にもゲーム内容の強い類似性が争点となっていた。この件について、最終的には両社の和解という形に落ち着いたが、今回Ubisoftが提訴したのはApp Store/Google Playの配信プラットフォーム。さらにAppleとGoogle双方が『Area F2』の削除要請を受け入れない限りは、根本的な解決にはつながらない。今回の訴訟、そして『Area F2』は今後どのような着地を迎えるのか。いずれにせよAppleとGoogle、そしてEjoy.comならびにアリババグループからの早急な公式コメントが待たれるところだ。