【UDPATE 2020/05/21 10:00】
id Softwareのエグゼクティブ・プロデューサーMarty Stratton氏は5月21日、PC版『DOOM Eternal』にて導入したばかりのDenuvo Anti-Cheatを、次回アップデートで削除することを発表した(reddit)。プレイヤーからのフィードバックを受け、チート対策のアプローチ再考を決断。今後アンチチートソフトウェアの導入を検討する際には、少なくとも、シングルプレイキャンペーンだけを遊びたいプレイヤーがアンチチート抜きで遊べるよう考慮しなくてはならないと述べた。またアンチチートの導入時期についても、マルチプレイモードへのランクモード実装とタイミングを合わせるといった、導入の必要性がプレイヤーに伝わるような考慮が必要だと説明している。
Denuvo Anti-Cheat自体に問題があるわけではないことも強調。同ソフトウェアの導入時期にあわせて報告され始めたパフォーマンスや安定性の問題は、Denuvo Anti-Cheatとは無関係であると述べている。問題のいくつかはVRAMの割り当てに変更を加えたことが原因であり、それらは1週間以内に配信される予定の次回PCアップデート(1.1)にて修正されるとのことだ。
Denuvo Anti-Cheatに関して寄せられた、「カーネルレベル」で動作することへの不安についても回答。チート対策においては一般的に、カーネルレベルでの実装がもっとも効果的であるとのこと。そしてDenuvo Anti-Cheatは、id Softwareのセキュリティおよびプライバシー基準を満たすソフトウェアであったと説明している。ソフトウェア導入はid Softwareの判断であり、パブリッシャーかつ親会社であるBethesda Softworksに強制されたわけではないという。
【原文 2020/05/18 19:34】
Steamで販売されているPC版『DOOM Eternal』に、不評レビューが殺到している。レビュー全体としては「非常に好評」を維持しているものの、5月14日にアップデート1が配信されてから4500件以上の不評レビューが集中的に投稿された(Steamストアページ)。不評レビュー投稿の主な理由は、アップデート1配信時に導入されたDenuvo Anti-Cheatソフトウェアである。
アップデート1では、エンパワードデーモンやエシュロンレベリング(いわゆるプレステージ制)、新ゲーム内イベント「PRECIOUS METALS(貴金属)」が追加されたほか、複数の不具合修正・機能改善・バランス調整が適用(パッチノート)。それらを差し置いて注目されているのが、PC版マルチプレイ(バトルモード)のチート対策として導入されたDenuvo Anti-Cheatである。これはPC向けのコピー防止技術Denuvo Anti-Tamperを提供するIrdeto社の新製品だ。レビュー爆撃に至る主な懸念点としては、カーネルレベルで動作すること、そしてパフォーマンスに悪影響を及ぼし得ることが挙げられている。
Denuvoの新製品に警戒するユーザー
Irdeto社は過去3年間にわたり、AAA級タイトルのパブリッシャーやスタジオをDenuvo Anti-Cheatの早期アクセスプログラムに招き、製品テストを進めてきたという。そしてこのたびローンチタイトルとして選ばれたのが『DOOM Eternal』である。パッチノートにて、今回のアップデート適用後、チート防止を目的とする禁止処分が積極的におこなわれるようになるとの記載があるように、チート防止策としての効果が期待されている。
実際の挙動としては、『DOOM Eternal』の最新アップデートを適用すると、PCのプログラムファイルにカーネルモードドライバーがインストールされる。モニタリングをおこなうのはマルチプレイのマッチ中のみだが、シングルプレイ/マルチプレイ問わず、ゲームの起動時からゲームの停止時まで稼働し続ける。そしてゲームをアンインストールすれば、Denuvo Anti-Cheatのファイルも一緒に削除される(Bethesda.net版のユーザーは、PCの「プログラムの追加と削除」から手動でDenuvo Anti-Cheatをアンインストールする必要あり)。
Denuvo Anti-TamperとDenuvo Anti-Cheatは別製品。とはいえ、Denuvo Anti-Tamperの評判の悪さは、Denuvo Anti-Cheatに対するユーザーの反応に少なからず影響しているだろう。Denuvo Anti-Tamperは、ゲームのクラックをできるだけ長く防ぎ、海賊版によりメーカーが被る損失を減らすため、多くのタイトルにて導入されてきた。しかしながらフレームレートやロード時間など、ゲームのパフォーマンス低下を招くとの考えが根強く、一部のPCゲーマーから忌み嫌われている。実際にDenuvo Anti-Tamper有り・無しバージョンでパフォーマンスを比較する動画も出回っており、パフォーマンスに影響を与えるとの意見は支持されている(関連記事)。Denuvoという名を聞いてゲーマーが身構えるだけの下地はできあがっていたのだ。
セキュリティ上の懸念
『DOOM Eternal』のSteamユーザーレビューが爆撃を受けているのは、単にDenuvoが嫌われているからではない。先述したように、Denuvo Anti-Cheatはカーネルレベルで動作する。OSへの高いアクセス権を与えるというセキュリティ上の理由で懸念視されているのだ。ソフトウェア提供元のIrdetoは、スクリーンショットの撮影、ファイルシステムのスキャン、インターネットからのシェルコードのストリーミングはおこなわないと説明している。とはいえ、もしも悪意ある第三者に同プログラムを支配されれば、レベル0という高い特権レベルによりOSの情報を抜き出されるのではないかと、ユーザーからは懸念視されている。
もちろん、カーネルレベルで動作するアンチチートソフトウェアはDenuvo Anti-Cheatだけではない。最近ではRiot Gamesの新作『VALORANT』にてカーネルレベルのアンチチートが使用されていることが話題となった。その際にRiot Gamesは、カーネルレベルで動くからといって同社の監視能力が高まるわけではなく、あくまでもモニタリングにより取得するデータの信頼度を高めることや、チーターによるゲームへの不正干渉を難しくすることを目的とした対応であると説明していた(PC Gamer)。
そのほかにも、『Apex Legends』や『フォートナイト』で使用されているEasy Anti-Cheat、『PUBG』や『レインボーシックス シージ』で使用されているBattleEyeといった主要アンチチートソフトウェアもカーネルレベルで動いている。すでに広く浸透している手法なのだ。Denuvo Anti-Cheatに関しては、ゲーム販売元のBethesda Softworksが「カーネルレベルで動く」とゲームのパッチノートでしっかりと説明したからこそ、その事実が多くのユーザーに知れ渡り、ここまで注目されるようになったのではないだろうか。
パフォーマンス低下報告もあり
またIrdetoは、2019年の発表当時に「ゲームのパフォーマンスにネガティブな影響を与えない」と説明していた(Irdeto公式ブログ)。だがSteamのユーザーレビュー欄やRedditのコメント欄では、アップデート後にパフォーマンスが低下したと主張する声が散見される。Denuvo Anti-Cheatが影響しているのか、それ以外のアップデート内容によるパフォーマンス低下なのか、現状定かではない。だがユーザーから不審がられていることは間違いない。そのほかにも、Denuvo Anti-Cheatの導入により、Protonソフトウェアを使ったLinux上でのプレイが不可能になったという報告が確認できる(reddit)。
Denuvo Anti-Cheatは、マルチプレイモードにおけるチート防止を目的として導入されたもの。ゆえに、せめてシングルプレイ時には無効化できるようにしてほしいというユーザー意見もある。そうしたフィードバックを踏まえ、Denuvo製品の広報担当は「Denuvo Anti-Cheatをインストールしていなくても、オフラインでシングルプレイを遊びたい方がゲームを起動できるよう、対応を進めています」と海外メディアにコメントを寄せている(Destructoid)。シングルプレイだけ遊びたいユーザーにとっては朗報だろう。
さらに同対応を実現すると、Denuvo Anti-Cheat有り・無しのパフォーマンス比較が可能となることを踏まえて、「Denuvo Anti-Cheatが、測定可能な、そして感知可能なパフォーマンスへの影響を及ぼすという噂に終止符を打つでしょう」と強い自信を覗かせている。Denuvo Anti-Cheatに対するパフォーマンス面での懸念に関しては、今後の検証により真偽のほどが明らかになりそうだ。