Steamで発売予定だった「水飲み動画ゲーム」、Valveに販売を止められていた。一時は過去作も削除されるなど開発者は散々な目に

インディースタジオBmc Studioによる新作『Each Sale I Drink a Glass of Water』のSteam販売が、止められているようだ。『Each Sale I Drink a Glass of Water』は「ゲームが1本売れるたびに、1杯の水を飲む」という作品。

インディースタジオBmc Studioによる新作『Each Sale I Drink a Glass of Water』のSteam販売が、止められているようだ。『Each Sale I Drink a Glass of Water』は「ゲームが1本売れるたびに、1杯の水を飲む」という作品。ゲームの売れた本数だけ開発者は水を飲み、飲んでいる様子を撮影。毎週金曜日に、水を飲む映像をゲーム内に投稿するとしていた。開発者自身も「ゲーム/実験(game/experiment)」としているように、かなり実験的な作品として制作されていた本作(関連記事)。5月1日よりSteam早期アクセス販売される予定であったが、Steamストアでは発売された形跡が見られない。Steamストアでは以下の表記が確認できる。

「パブリッシャーからのリクエストにより、Each Sale I Drink a Glass of WaterのSteamでの販売は終了しました。」

しかし実際のところ、これはBmc Studio自身がリクエストしたわけではなく、Steamを運営するValveによって販売が差し止められているようだ。

Bmc Studioは、『Each Sale I Drink a Glass of Water』の販売に向けて準備を進めていた。異変が起こったのは4月24日。Bmc Studioが販売していたすべてのタイトルがSteamから削除されたと、Bmc Studioを運営するAlain Lagacé氏が報告した。スタジオはこれまでにもさまざまなタイトルをSteamにて発売してきており、『Kimulator : Fight for your destiny』を代表に、実写映像とほのかなゲームエッセンスを組み合わせた奇天烈作品を生み出してきた。最新作の“ただ咳をする人間の映像が流れるだけ”という『Coughing Simulator 2020』を含んだ20以上の作品が、突如販売停止されたわけだ。同時に、『Each Sale I Drink a Glass of Water』の販売も差し止められたわけである。最新作の販売だけでなく、過去作の販売もろもとも止められてしまった。

『Each Sale I Drink a Glass of Water』においては、発売前から大きくわけてふたつの問題点が指摘されてきた。ひとつめが、水中毒に関するもの。氏は単に売れたゲーム分水を飲むだけであるが、水分を過剰に摂取することにより発生する「水中毒」なる中毒症状が存在する。たとえば1万本売れてしまえば、1万杯飲まねばならず、生命の危険を脅かす。Steamコミュニティには水中毒を案ずる声があがっており、Lagacé氏は「一度に飲むわけじゃない」「やり方は考える」「俺の健康は心配しなくていい」と懸念を突っぱねてきた。その後も「たくさん売れたら、その時に考える」と明確な答えは示せていなかった。

もうひとつが、本作の概要を見たときに多くの人が考えるであろう、「これはゲームなのか」という疑問。開発者自身は、同作は実験的なインタラクティブアートであると強弁してきた。これまで似たような作品を売ってきただけに、販売までこぎつけられる自信もあったのだろう。しかしこの度Valveから販売を止められてしまった。理由は「ゲームとしてはインタラクティブさに欠けている」とのこと。ゲームとして認められなかったのだ。

突如おこなわれた過去作品の販売停止はValve側の手違いだったようだが、『Each Sale I Drink a Glass of Water』は、ゲームとして認められず引き続き販売差し止め処分となっている。Lagacé氏は、過去作の取り下げ撤回に若干の安堵を見せた。一方で「インタラクティブさに欠く」という曖昧な理由を提示し、「パブリッシャー側の要請による販売終了」とSteamストアに事実ではない表示しているValveに怒り、実写映像のゲームはもう出せないのかと不安をのぞかせている。一方で、『Each Sale I Drink a Glass of Water』をどうすればゲームとして認められるのか、いろいろと策を練っているようでリリースについて諦めていない様子。

ゲームが売れるたびに水を飲むというテーマについては健康面についてかなり賛否ありそうだが、一方で作品を全削除したのち、“パブリッシャー側の販売自粛”と事実とは異なる表示をおこなっているValveの姿勢にも疑問が投げかけられている。Steamでは、荒らし目的や法律に反した作品以外は、原則的にリリースできるルールとなっており、ゲームと呼べるか疑わしいタイトルは氾濫している。なぜ『Each Sale I Drink a Glass of Water』だけが、ゲームとして認められず販売停止となったのか。そしてなぜSteamストアでは、販売元が自粛したという表記がなされているのか。ValveがLagacé氏の水中毒を案じ、「ゲームではない」という名目で販売を差し止めた。そんな突飛な推論ができるほど、ちぐはぐな騒動。いずれにせよ、「ゲームが売れた分だけ、水を飲む」というタイプの企画タイトルは、Steamでは販売できないという前例ができそうだ。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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