日銭ライフシム『Landlord’s Super』Steamで早期アクセス配信開始。80年代イギリスで荒れて酔って排尿

 

イギリスのエンタメ企業The Yogscastは5月1日、パブリッシングを手がける新作ライフシム『Landlord’s Super』をSteamにて早期アクセス配信開始した。定価は2050円。現在スペシャルプロモーション中で、5月8日まで10%のディスカウントが適用され、1845円でゲームが購入できる。本作の舞台となるのは1980年代イギリス中部に位置する架空の都市、West Berklands。ゲームの説明に移る前に、まずはこの時代のイギリスがどのような社会だったか予習しておこう。

各国の工業化が進んだ20世紀、イギリスの国際競争力は目に見えて落ちていた。あらゆる製品が英国産のものより安く生産できるようになり、特に鉱工業は悲惨だった。国産の石炭は時代遅れなほどに高価で、もはや買い取り手はイングランド政府しかいなかったのだ。石炭はオーストラリアから輸入したほうがよっぽど安いのだが、石炭産業は国の主幹だ。国内の炭鉱業が潰えたら何千人もの労働者が職を失う。英国政府は国内の鉱夫を養いながらジリ貧を続けていた。

それでもすべてが引っくり返るときはくる。1970年代の末、マーガレット・サッチャー政権が誕生。彼女は鉱工業をはじめとする旧態依然とした産業構造の改革に着手する。サービス・金融・ハイテク産業への転換を強行し、国の経済立て直しを図った。ところが急激な転換は必ずほころびを産む。

産業移行により、確かにこれまでにない雇用が発生した。しかし新たな仕事が生まれた場所は、必ずしも古き仕事が失われた場所ではなかったのだ。炭鉱を中心に生計を立ててきた小さな街々は、稼業を取り上げられたまま置き去りにされた。鉱山は閉鎖され、失業者があふれた。誰もが途方に暮れた。『Landlord’s Super』でプレイヤーがめでたく肉体を授かるのはそんな世界である。

居住用バンのなかで目を覚ます。簡素な空間のなかで、70年代らしいサイケな布団がだらしなく壁際に押しやられている。まず何より先に、金がない。主人公の手元にあるのは叔父が遺した「家」とその鍵、ついでにきっかり5000ポンドの借金だ。唯一の資産ともいえる家だが、屋根は崩れ、壁はなく、床にも穴が開くしまつ。ここを修繕することが目的のひとつといえる。その第一歩としてまずは、家の扉をこじ開けようとしている知らんおっさんを追い払おう。

おっさんとはその後も懇意にすることになる。しょせん境遇はみな同じだからだ。彼から、生き延びるためのさまざまな知恵を借りよう。たとえばジョブ・センターで求人を得られること。空き家から物品を手に入れてジャンクとして売り払うこと。法に触れるのはやや気がかりだが、おっさんの言葉を借りれば「気がかり」以上の何物でもない。なにせ一文無しである。求人で大工仕事にありつこうにも、ろくな道具もない状態だ。どうせ道ばたにレンガやセメントなんかはゴロゴロ転がっている。もらっていこう。『マインクラフト』でやっていることと何ら変わりはない。

盗んだガラクタを売り払い、ちょっとした食器洗いなんて仕事もすれば、いくばくかの小銭は手元に入るだろう。セメント混ぜ器やハンマーを買い揃えれば立派なクラフトマンになれる。あとは地道に求人で建築業をこなすもよし、叔父の家をもう少し手直ししてみるのもよしだ。仕事の帰り道に拾った粗大ゴミのソファを備えつければ、ずいぶん素敵な物件に見えてくる。

こんな街にも救いはある。パブがあるのだ。工務終わりに飲むビールは最高だろう。しかしあいにく今日は求人がない。そんな日は昼から飲むしかない。杯を重ねるほどに視界は歪み、女給の言っていることも読み取れなくなってくる。ところでこのゲームは生理的にリアリスティックだ。重労働をすれば身体から水分やスタミナが失われ、底を尽きれば野垂れて身ぐるみ剥がされることだってある。逆に水分を取ればどうなるか。尿意である。店の前に出て用を足そう。溜まったものを放出しながら操作してみると、意外と好き勝手に動くことができるようだった。真上に向ければ噴水みたいなシャワーにすることだってできてしまう。すっきりしたので酒場に戻ろうとすると、出禁になっていた。

ガラクタを盗んで、コンクリートを塗り固めて、酒を飲んで、放尿する。だんだん身体にはハエがたかってくる。『Landlord’s Super』はそういうゲームだ。開発元のMinskworksは個人デベロッパーのGreg Pryjmachuk氏によるスタジオで、過去作としてはオンボロ車で泣く泣く東欧諸国を旅するドライブシム『Jalopy』(関連記事)を送り出している。そういえばこの旧作でもやけに細々と車の修理を迫られたが、その遺伝子は『Landlord’s Super』にも受け継がれている。家を直すとき、プレイヤーは釘の1本を打つところから始めなくてはならないのだ。杭を打ち、セメントを混ぜ、流しこむまでを執拗にシミュレートできる点は、本作のユニークな特徴といえるだろう。ちなみにセメントを混ぜる水は小便で代用すると楽。

薄明るいイングランドの日光はすべてを黄ばませて見せる。汗と酒と風化のにおいにまみれたシミュレーション『Landlord’s Super』は、Steamにて早期アクセス配信中だ。5月8日まで10%のディスカウントが適用されるため、身をやつしたい諸氏はお早めに。