エムシーエフが開発を手がけたニンテンドー3DS用ソフト『EYERESH for ニンテンドー3DS(以下、EYERESH)』が100円セール中だ。在宅ワークで普段以上に眼の疲れを感じている人々に向けたセールとのこと。2016年に発売された本作は立体映像を見ることで眼の筋肉のストレッチ効果をもたらす作品。「飛び出し感」にこだわった映像が好評を博し、非ゲームのダウンロードソフトとしては異例の1万ダウンロードを誇るという。セールの反響があってか、4月23日15時時点ではニンテンドー3DSソフトウェア ダウンロードランキングにて第6位まで浮上している。現在はニンテンドーeショップからダウンロード可能で、セール対象期間は5月13日9:59までとのことだ。
パソコンやスマホなど視覚を酷使するシチュエーションが増えた現代で、眼を毎日いたわる「アイケア」の重要性を提唱して生まれたのが『EYERESH』だ。本作は立体画面を見ることで、眼の筋肉をストレッチするトレーニングソフト。監修するのはスポーツ視覚学の第一人者・石垣尚男名誉教授で、同教授は2007年に発売されたニンテンドーDS用ソフト『見る力を実践で鍛えるDS眼力トレーニング』にも携わったアイケア・ゲームの大家だ。
本作の主軸となるメニューのひとつが「トレーニング」。眼球運動(眼球をすばやく動かす能力)や瞬間視(瞬間的に見て多くの情報を得る能力)といった「見るチカラ」を鍛えるミニゲームが12種類収録されており、これらを継続して行うことで効果的に眼の筋肉を大きく動かし、ストレッチを促進することができる。それぞれの能力はスポーツ視覚学の考えにもとづいており、なかには「眼と手の協応動作(眼で捉えたものに、正確に手で反応する能力)」など、より運動能力に直結したトレーニングも存在する。
また本作のもうひとつの売りが、9種類が収録された「アイケア映像」だ。こちらは立体映像作品を眺めることで、眼の筋肉をほぐすことを目的にしたモード。多くのニンテンドー3DS対応ソフトが「奥行き」を感じる表現となっているのに対し、『EYERESH』は「飛び出し感」を重視。その立体表現があまりにも強力だったために、任天堂から修正の要望を受けたほどとのことだ。また時間をかけて行われた立体視検証の結果が認められ、3DSLLの初期ロットにプリインストールされている「3D体験映像」は『EYERESH』のアイケア映像がもとになっているという。
そして本作のセール記念として公開されたのが、開発者の真壁浩氏が任天堂に持ち込んだという企画書だ。現在の仕様とは異なる点が多数見られ、リリースまでの試行錯誤が垣間見られる貴重な資料となっている。
たとえば企画書に記載されていながら実装に至らなかったのが「アクアリウム」の機能だ。当初は3DSの上画面を水槽に見立て、観賞魚を眺めるモードを搭載する予定だったという。トレーニングやアイケア映像で遊ぶと、リワードとして魚の種類やアクセサリーが増えるなどのコレクション要素もあったそうだ。残念ながらアクアリウム自体が開発工程の都合で丸ごとなくなってしまったそうだが、今でも真壁氏の手元には300体ほどの3Dの魚モデルが眠っているとのこと。いずれこちらを再利用した作品も期待したいところだ。
また企画書の公開に合わせて、真壁氏は自身のTwitterで企画書にまつわる解説をツイート。開発の裏話を語っている。たとえばミニゲームの実装については本作ならではの苦労があったという。はじめ8つだったものが12種類まで増えたというミニゲームだが、『EYERESH』の目的はあくまで「眼」を鍛えること。あまりにゲームらしくすると眼よりも脳を使う必要が出てしまうため、通常のゲーム開発とは異なる難易度調整に骨を折ったそうだ。また通常のゲームでは禁じ手とされる、「(模様をつけずに)色の違いだけで別オブジェクトとして扱う」「立体視の前後関係をゲームに使う」といった仕様も実装。さまざまな特殊ケースと格闘するなかで、周囲との軋轢も少なからずあったことが語られている。
真壁氏によれば今回の100円セールは、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の時世にあって、自分にできることは何かと考えた末の結論だったそうだ。自身のFacebookにて詳しい思いが語られている。もともと企画段階から基本無料配信にしたいという強い希望があったという本作。発売当初は諸般の理由で叶わなかったそうだが、この機に改めて関係各所へはたらきかけたという。結果、販売会社や監修・石垣教授からは快諾を受け、最後に任天堂とギリギリまで話し合った結果「最低限の価格によるセール」が実現したという。任天堂からも、セール開始まで本来は時間がかかるところを、事情を鑑みて最速の価格改定日に間に合わせるという歩み寄りがあったそうだ。結果、真壁氏がセールを思い立った先週木曜の夜中から金曜夕方に至るまで20時間足らずでセール企画が決定し、昨日4月22日に無事実施されるはこびとなった。世情を憂う思いが各所を動かした熱意の賜物といえるだろう。
『EYERESH』の企画書が提出されたのは2013年11月。ちょうどブルーライトカットメガネ「JINS PC」が日経トレンディの「2012年ヒット商品ベスト30」にランクインするなど、社会における眼の負担に対する意識が高まり始めた時期だった。それから6年以上が経ち、2019年に慶應義塾大学医学部が実施した調査では中学生727人における近視有病率が94.9%との数字が示されたという。現代人の眼に対する環境がますます過酷になっていくなかで、本作が提唱するアイケアは重要性を増している。ここのところNintendo Switchにかかりきりだった諸氏も、久々に3DSを起動してみるのはいかがだろうか。本作は遊ぶほどミニゲームやアイケア映像がアンロックされる仕様なので、長い巣ごもりをのんびり楽しむのにも向いているだろう。『EYERESH for ニンテンドー3DS』はニンテンドーeショップからダウンロード可能で、100円セールは5月13日9:59まで実施中だ。