『あつまれ どうぶつの森』にて“ゴミ屋敷コーデ”が一部で流行中。オシャレを楽しみ、一周回ったものたちの境地

多彩な家具を組み合わせることで自分だけの住まいを生み出せる『あつまれ どうぶつの森』。今『あつ森』では、バーチャル「ゴミ屋敷」をコーディネイトすることが一部で流行りつつあるのだ。

多彩な家具を組み合わせることで自分だけの住まいを生み出せる『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)』。ゆったりしたソファに観葉植物を添えた素敵なリビングを仕立てる者もいれば、ピザ窯に露天風呂など現実にはありえない豪邸を顕現させる者もいる。どんな家に仕上げるかはまさにプレイヤーの選択しだい。ところがその選択肢の自由さゆえに、なかには反骨精神あふれるハウジングを試みる人々もいる。今『あつ森』では、バーチャル「ゴミ屋敷」をコーディネイトすることが一部で流行りつつあるのだ。

まずはVTuberとして活動する、白銀ノエル氏の部屋だ。見てのとおり足の踏み場がない。床一面をガラクタやジャンクが覆い尽くし、遠くビル街の方までゴミの山が続いている。部屋のあちこちにゴミ袋・タイヤ・空き缶が転がっており、かつての夢の島を彷彿とさせる様相だ。煤けた色合いの部屋にあって、唯一カラフルな光を放っているのが片隅にあるおもちゃ箱。しかしそれすらも「スカベンジャーの子どもがゴミ山から拾い集めた宝物」といった哀愁を漂わせている。およそ室内とは思えないルームコーデだが、左奥に寄せ集められた炊飯器と段ボール机の相乗効果がかろうじて生活感を醸し出す。ただし卓の上にしつらえられた食器はなぜか高級ホテル風のテーブルウェア。どうやら牛丼で生活しているわけではないらしい。

続いてもVTuber、ミーム氏の手によるコーデ。同じくゴミ部屋でもこちらはかなり趣が異なる雰囲気だ。不用品の山ではあるのだが、どちらかというと「ぼくらの秘密基地」といったワクワク感を想起させる。決め手となっているのは「ダイナーなネオンかんばん」のビビッドな光だろう。これだけでガラクタの大地が「地続きの社会問題」ではなく「レトロポップなアメリカの景色」という遠景に変化する。周囲に散りばめられたインテリアも実に的確だ。サカナに地球儀、映写機と、まるで夏休みの少年少女が好き勝手に持ち寄ったコレクションのよう。極めつけが奥にある「ロケット」で、「ジャンクの山で作ったぼくらの宇宙ロケット!」的なジュブナイルが始まる予感を演出している。スピルバーグのアートボードとして提示されてもおかしくない秀逸なゴミだめだ。

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こちらは図鑑愛好家、R.YY.ASD氏の宅。キュートでポップな部屋を生み出すプレイがロマン主義なら、この部屋は確固たる写実主義を貫いている。そこには理想のかけらも存在しない……いや、あるいは部屋の主は、この清貧をこそイデアとする隠遁者なのかもしれない。床面はゴミづくめながら、壁は通常の部屋仕様。日に焼けて黄ばんだ壁紙をセレクトすることで部屋の狭小さ、そして残酷なまでの現実感を浮き彫りにしている。二段ベッドが置いてあることから、何者かと同居している可能性が匂うのも不安を煽る要素だ。そしてどうしても目をそらせないのは、マイデザインによる「何らかの茶ばみ」。固形物が混入していることから、鍋からこぼれてしまったカレーのようにも見える。きっとカレーだろう。それ以外の茶ばみなど存在しない。

Image Credit : Daniel / 任天堂
Image Credit : Daniel / 任天堂

なぜこれほどまでにゴミ屋敷プレイが流行しているのか。それは『あつ森』じたいがゴミ屋敷のお膳立てをしているからに他ならない。本作におけるクラフトの特徴として、ゴミ同様のアイテムも立派なアクセサリーやインテリアの素材にすることができる。釣りをして長靴が集まればリサイクルのレインブーツができるし、タイヤを拾えば公園の遊具を再現することができるのだ。そして特定条件を満たした際に覚えるレシピが「ゴミのやまなかべ」という壁紙、そして「おへやのゆか」。おへや——すなわち“汚部屋”である。これらの壁と床を揃えれば、足下からはるか地平まで続くスモーキー・マウンテンを簡単に再現できるのだ。自然豊かなスローライフを演出する『あつ森』の世界観としてはかなり衝撃的なルームウェアだが、そのエッジーな魅力にかえって取り憑かれるプレイヤーが絶えないらしい。

さらに遡っていえば、こうしたレシピが発見されるほどゴミが集まってしまう原因には「離島ツアー」も関係している。ランダムで貴重なサカナやムシが生息する島を訪ねられる希少な機会だが、旅先にはときおりハズレと称される島が当たることも少なくない。その1つが「ゴミの島」だ。どれほど水辺で釣りをしようと、ゴミしか手に入らないという稀有なガッカリアイランド。2000マイルを費やして得た旅行券がゴミ山を引き当てたとき、人には「せっかくなので」という心理が働く。おそらく類を見ない低みの「せっかく」の機会だが、集められるだけゴミを集めてしまった人々はゴミレシピを解禁するに至るのである。

とはいえいくら活用レシピが盛んであろうと、ゴミインテリアと同居するのをよしとしないプレイヤーもいる。ゴミはゴミらしく、収集所へ。むらびとの中には、知恵を凝らして「ゴミ捨て場」を島内に設置する者もいるようだ。もしあふれるガラクタに悩まされているのなら、こうしたアイデアを借りてみるのもいいだろう。

多少の努力を惜しまなければどんな部屋でも実現できる『あつ森』。「ありえない部屋が実現できる」という自由は人々の望みをエスカレートさせ、一周回って「実現したくないけどありえるかも」という汚部屋を生み出した。絶対住みたくはないけどバーチャルなら……という突き抜けた気の迷いが、こうした多彩なゴミ屋敷を生み出すに至ったのだろう。この現象もまた『あつ森』がいかに自由であるかの証左といえるかもしれない。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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