元BioWareのGMが、EAのゲームエンジンFrostbiteの難点を指摘。F1カーに例え、高性能ながら取り扱いが難しいと語る

 

カナダのアルバータ州で10月30日~11月1日にかけて開催された、ゲーム業界関係者向けのカンファレンス「Reboot Developer Red 2019」。キーノートのひとつでは、BioWareの元ジェネラル・マネージャー(GM)であり、現在はImprobable社のGMであるAaryn Flynn氏が登壇。開発ツールの重要性について話を進めていく中で、BioWare時代に携わった『Dragon Age: Inquisition』『Mass Effect: Andromeda』で採用されたゲームエンジン「Frostbite」に関する話題に触れられた(GamesIndustry.biz)。

FrostbiteはEA DICEが開発した、EAの内製ゲームエンジン。『バトルフィールド』シリーズで導入されたのち、『ニード・フォー・スピード』『FIFA』『Star Wars バトルフロント』シリーズなど、ジャンルを問わず複数のEA傘下スタジオで採用されるようになった。Frostbiteが生まれる前には、EAがパブリッシュする作品では合計20を超えるゲームエンジンが使用されており、ゲームエンジンを作ることにかなりのリソースが費やされていた。そこでゲームエンジンの統合を図るべく作り上げられたのがFrostbiteである。

開発期間の短縮や製品クオリティの向上が期待されているFrostbiteではあるが、もともと一人称視点シューター向けに作られたこともあって、他ジャンルのゲーム開発においてはボトルネックになってしまうことも。BioWareでも、『Dragon Age: Inquisition』『Mass Effect: Andromeda』『Anthem』とFrostbiteが続けて使用されているが、同ゲームエンジンが開発難航の要因のひとつにもなったとも過去に報じられている(関連記事)。

『Mass Effect: Andromeda』

メリットとデメリットの両方が指摘されてきたFrostbite。Flynn氏は上述したキーノートにて、同ゲームエンジンをF1カーに例え、高性能ながら繊細で取り扱いが難しく、最高のパフォーマンスを引き出すには苦労すると語っている。最先端の技術が搭載されているものの、動かすには大人数のピットクルー/専門家が必要。少なくとも、Flynn氏がBioWareを去る前のFrostbiteには、そのような感想を抱いていたようだ。確かに、FrostbiteというF1カーを維持するために必要なピットクルー/専門家の数は限られており、『Anthem』プロジェクトではその数が不足していたと、先述した開発難航記事にて伝えられていた。

Frostbiteはとてつもないポテンシャルを秘めているものの、結果としてFlynn氏が在籍していたころのBioWareは、開発が鈍化していったとのこと。最新の技術に移行する際にはありがちな現象とはいえ、開発ペースはどんどん遅くなっていった。またゲームエンジンと合わせて使用する開発ツールも、Frostbite以前のBioWareタイトルで使われていたものに比べて効果的ではないものが多かったという。それはスタジオのGMであり、プログラマー畑の人間でもあるFlynn氏にとってもどかしい体験だったそうだ。

*今年5月に公開された、Frostbiteの最新レンダリング技術披露映像

今年『Apex Legends』『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』をリリースし、FPSだけのスタジオではないと証明してみせたRespawn Entertainmentのように、EA傘下にはFrostbiteを採用していないスタジオもある。Respawnの『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』(Unreal Engine 4採用)に関しては、2017年にEAに買収される前の段階でゲームエンジンの選択を終えていたという事情は確かにある。ただ、Frostbiteの誕生から10年以上が経過し、汎用ゲームエンジンの普及が進んだ今では、必ずしも内製ゲームエンジンにこだわる必要はないことを示す事例ではあるかもしれない。

なおFlynn氏は現在、Improbable社のGMとして活動中。同社は、大規模なオンラインマルチプレイゲームの開発・運用を実現するための分散オペレーティングシステム「SpatialOS」を提供しているテック企業。大規模かつ複雑なゲーム世界を構築しつつも、開発における素早いイテレーションや軽い動作を強みとしており、比較的小規模なスタジオでもスケールの大きな作品を開発し得る。今年に入ってからSpatialOS採用タイトルの開発中止が相次いでおり、まだ真価を発揮できてはいないが、11月には中国Tencent Cloudとの提携を発表。中国のゲーム開発者向けのSpatialOS展開が図られたりと、今後の行方が気になる企業および技術である。


元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)