『グランド・セフト・オート』シリーズで知られるロックスター・ノース。英北部スコットランドに拠点を置き、メガヒット作品を連発しているゲームスタジオだ。そんなロックスター・ノースについて、莫大な売上を出しているにも関わらず、過去10年間の法人税の納付額が極めて低いとのレポートが話題となっている。会計処理や、同国における税プログラムの活用の結果である。
これは英国の税制や租税回避に関連した記事を多く扱っているTax Watch UKが報じたものだ。ロックスター・ノースの親会社であるTake-Two Interactiveは、2018年時点で『GTAV』および『GTAオンライン』により約6500億円もの売上を生み出してきた。出荷本数1億部超えの大作を開発した業界トップクラスのゲームスタジオは、いかにして課税を免れてきたのだろうか。
まず英国には、クリエイティブ産業優遇税制というものが存在する。法人税を計算する際、映画やアニメーション、ハイエンドのテレビ番組、ビデオゲーム、舞台芸術、オーケストラといったクリエイティブ産業については、製作・開発経費の一部または全額が減免対象(もしくは適正支出の25%相当額の還付)となる優遇措置である(JETRO)。ビデオゲーム分野の企業に適用される「Video Games Development Tax Relief(VGTR)」においては、「英国作品として認定されたもの」「市場への供給を目的として開発されたもの」「ゲームの設計、製作、試験にかかる経費(コア経費)の25%以上がEEA加盟国内で支出されていること」という条件のもと、法人税が控除される。
「英国作品として認定されたもの」というのは、英国映画協会(British Film Institute)のカルチュラルテストをクリアした作品を指す。『GTAV』は米国を舞台とした作品であるため「英国作品」として捉えづらいかもしれないが、カルチュラルテストには開発拠点や従業員の居住地なども項目に含まれている。必ずしも全ての項目に当てはまる必要はなく、総括的に判断して英国作品として認められたのだろう。
ロックスター・ノースは同制度により、過去3年間で約55億円の税控除を受けてきた。TaxWatchの調べによると、同社の税控除額は、VGTRが2014年に誕生してから適用されたVGTR控除額全体の19%に値するという。多額の控除ではあるが、クリエイティブ産業優遇税制の目的は、英国クリエイティブ産業の活性化にあり、同国でのプロダクションへの投資を促すことである。またクリエイティブ産業における技術やインフラを維持するという意図も含まれている。それを踏まえると、ロックスター・ノースは同制度の適用条件と趣旨にかなうゲームスタジオと言えるだろう。
ただ、クリエイティブ産業優遇税制の中でも、ビデオゲーム分野に適用されるVGTRは、もともと中小デベロッパーの支援を想定してつくられたもの。ロックスター・ノースは、同制度を活用し始めたころには『GTAV』によってすでに莫大な利益を生み出しており、このような形で優遇税制が活用されるのはおかしいと、TaxWatch UKは主張している。
『GTA』シリーズを開発したことで莫大な売上を生み出したロックスター・ノースであるが、実際の利益計上は大方、親会社である北米企業Take-Two Interactiveにて行われている。またTaxWatch UKは、北米ロックスター・ゲームスの代表であるサム・ハウザーを含む数人のシニアスタッフに莫大なロイヤリティが支払われていることも指摘。ロックスター・ゲームスとしての、2009年から2019年にかけてのボーナス総額は約3700億円にものぼるという。
ゲームの売上から生まれた利益のほとんどはTake-Twoとして計上され、一部はロイヤリティとして企業トップのシニアスタッフに渡っていく。2009年から2018年にかけてのロックスター・ノース単体での税引前利益は約15億7000万円のみとなっている。それながら、先述したように約55億円もの税控除・還付を受けてきたのだ。Take-Twoは英国子会社の利益を抑えた上で、優遇税制を活用することで英国での納税額を極力低くしている、というわけである。TaxWatch UKは、英国企業であるロックスター・ノースにより生み出された利益でありながら、税金が英国に入ってこない構造に異を唱えているのである。
課税逃れとしてよく話題になるのは、多国籍企業などが利益をタックスヘイブンと呼ばれる国に移す形での租税回避である。6月のG20サミットでも、大手IT企業を想定した国際的な課税ルール改革、とくにデジタル課税ルールが焦点のひとつとなった(REUTERS)。一方、タックスヘイブンではなくとも、グループ企業間での所得移転により、一方の企業が拠点を置く国にて優遇措置をフル活用する、一方の国での納税額を抑えるケースもある。国際税務上、不当な会計処理がなされていないか歳入税関庁に調査してほしい。その説得材料として提起されたのが、今回のTaxWatch UKによるレポートである。