『Wolfenstein: Youngblood』ナチス表現を含む無修正版が、ドイツにて正式にリリースへ。レーティング団体の方針変更により実現

 

Bethesda Softworksは6月26日、『Wolfenstein: Youngblood』および『Wolfenstein: Cyberpilot』のドイツでの販売について、ドイツ語版とインターナショナル版を併売すると発表した。すでにドイツのAmazonなどでは両バージョンの予約受付が開始している。

『Wolfenstein』シリーズというと、ナチスが不変の敵として登場し、これに立ち向かう物語が描かれてきた。当然、ゲーム内においては鉤十字やナチス式の敬礼、さらにはアドルフ・ヒトラーが登場することもあったが、ドイツ国内ではナチスは違憲政党。その表現を頒布・宣伝することは刑法86条で禁じられている。そのため、各国で販売されるバージョンとは別に、ナチス表現を修正したドイツ語版が制作され販売されてきた歴史がある。しかし今回、そうした修正を施していないインターナショナル版が、初めてドイツ国内で正式に販売されるという。

『Wolfenstein: Youngblood』左がドイツ語版で、右がインターナショナル版。ドイツ語版では鉤十字が修正されているほか、鷲の紋章のオブジェが削除されている

この判断に至ったのは、ドイツのゲームレーティング団体USKが、『Wolfenstein: Youngblood』と『Wolfenstein: Cyberpilot』の年齢区分審査において、これまでは法律違反コンテンツであるとして審査を拒否してきたインターナショナル版にレーティング(18歳以上対象)を付与したことにある。つまり、ドイツ国内で販売することにお墨付きを与えたのだ。

USKは昨年8月、ゲームの年齢区分審査における慣行のひとつ、すなわち法律違反コンテンツの取り扱いについて変更をおこなうと発表していた(関連記事)。ナチスについて表現することはドイツでは法律で禁じられていると先述したが、芸術や科学分野での使用、あるいは史実を描く場合は例外として認められており、たとえば映画作品の中でナチス表現を見ることはドイツでも珍しくなかった。USKは、ゲームも芸術作品として、また時事問題を批評するメディアとして認められ、芸術表現の自由を手にする時が来たとして方針の変更を決断。またこれに先立って、関連する青少年保護法の解釈変更がおこなわれたことも後押しした。

この発表があった当時、Bethesdaのマーケティング部門を統括するPete Hines氏は、『Wolfenstein』シリーズの無修正版を今後ドイツで販売していくかどうかは精査する必要があると述べるにとどめていたが、ふたつの新作について具体的にアクションを起こし、レーティングを得ることとなった。

ただ、これをきっかけにドイツ国内にてナチス表現を含むゲームが続々と発売されていくかどうかはまだ不透明である。というのも、USKは法律の例外規定に則っている作品かどうかをケースバイケースで判断して審査するとしており、完全に解禁されたわけではないからだ。その基準については明かされていないが、ゲーム内容によっては認められないこともあるのだろう。

『Wolfenstein: Youngblood』と『Wolfenstein: Cyberpilot』についても、開発完了した最終的な製品において実際に発売できるかどうかを判断されるため、Bethesdaはインターナショナル版と、修正の施されたドイツ語版を同時並行的に開発を進めていくとしている。今後のシリーズ作についても、同様の体制で臨むことになるのかもしれない。ともあれ、ドイツのゲーム業界にとって大きな一歩を踏み出した出来事となった。海外フォーラムResetEraでも、歓迎するゲーマーの声が多く寄せられている。

『Wolfenstein: Youngblood』はPC/PS4/Xbox One/Nintendo Switch向けに、『Wolfenstein: Cyberpilot』はPC/PS4向けに、共に8月8日に国内発売予定だ。ちなみに、日本版ではCEROの規定に基づき、死体切断面の色調を変更する修正がおこなわれる。