『サイバーパンク2077』巨大なペニスを強調したトランスジェンダー描写には、世界観に関わる明確な意図が込められていた
CD PROJEKT REDとNVIDIAは6月11日、『サイバーパンク2077』へのリアルタイムレイトレーシング実装のためパートナーシップを結んだことを発表した。よりリアルな光源効果によって、本作の舞台ナイトシティをより美しく描写できると期待されている。しかし、海外メディアやユーザーの注目は、今回の発表にあわせて公開された新しいスクリーンショットの方に向けられた。
注目されたのは、スクリーンショット上部にある電子広告である。広告で宣伝されているのは「ChroManticore」という、ゲーム内に存在するソフトドリンクだ。キャッチコピーは「混ぜてみたい16種のフレーバー」。そして広告塔のモデルは、パンキッシュなアンダーカットの髪型、ドリンクのイメージカラーである紫と青で統一されたコーディネートで決めている。服装や化粧からフェミニンな印象を与えているが、股間部分には確かなふくらみが確認できる。「ミックスしよう」というフレーズは、商品の「ChroManticore」とモデルの両方に掛けているのだろう。
トランスジェンダーのモデルを性の対象として強調し、宣伝道具として扱うことにどのような意図が込められているのか。悪ふざけでやっているのではないか。海外メディアやユーザーからは、そうした疑問があがっている。注目される背景として、CD PROJEKT REDは過去にトランスフォビアと捉えうる発言やジョークを繰り返してきた経緯がある。たとえば昨年8月、彼/彼女といった代名詞を使い『サイバーパンク2077』の公式ツイッターアカウントに話しかけたユーザに対し、「おい、今お前、性別を勝手に決めつけただろ?」と返信。これはジェンダーの扱いに敏感なセクシャルマイノリティという、ステレオタイプな人物像を揶揄するネットミームである。使い古されたジョークである上に、企業の公式アカウントとしてはデメリットしかない発言であった。多数の批判が寄せられたのち、該当ツイートの削除および謝罪対応にまで至っている。
Sorry to all those offended by one of the responses sent out from our account earlier. Harming anyone was never our intention.
— Cyberpunk 2077 (@CyberpunkGame) August 21, 2018
また2018年10月にも、CD PROJEKT REDのPCゲーム配信プラットフォームGOG.comの公式ツイッターアカウントが、不適切な発言として自身のツイートを削除したことがある。当時、トランプ政権による性別狭義化に向けた動きに対し、トランスジェンダーの人権保護・尊重を唱える「#WontBeErased(私たちは消されない)」というハッシュタグがSNS上で広まっていた。このハッシュタグを大喜利のように使い、「私たちがいる限り、クラシックPCゲームは消え去りません(Classic PC games #WontBeErased)。どうですか、このハッシュタグの応用」と発信し、ユーザーから冷ややかなコメントが寄せられた(Kotaku)。
こうした経緯もあり、CD PROJEKT REDはSNSだけでなくゲーム内でもトランスジェンダーを一種のネタもしくはフェティシズムの対象として、特に意味もなく軽率に扱っているのではないかと、Twitterユーザーや海外メディアから懸念されているのだ。そこで海外メディアのPolygonやEurogamerは、E3 2019にてアートディレクターのKasia Redesiuk氏に、トランスジェンダーのモデルを描いた意図を問いている。
Polygonのインタビューに対してRedesiuk氏は、自身がセクシーだと感じるキャラクターを描いていることには間違いないが、作中ではそうした美しさが、巨大企業により性的な商品や広告素材として利用されていると説明。メガコーポレーションに支配された未来社会の醜い部分を露わにする意図があるのだ。そのため、こうした過度なまでに性を強調した広告は街中で見かけることになる。
人体改造がファッションの一部となった世界では、多様なジェンダーおよび人間関係が形成されており、巨大なマーケットを生み出している。そうしたターゲット層にアピールする広告塔として、民間企業がトランスジェンダーのモデルを採用するというのは、本作の世界観からして自然な流れ。身体を性の対象として商品化しているのは現代社会でも同じであり、そうした傾向を強調した風刺的な設定とも言えるだろう。Redesiuk氏としては、LGBTQコミュニティの人々を傷つける意図はなく、むしろゲーム消費者のLGBTQコミュニティに対する共感を高めるための試みでもあるという。
またEurogamerのインタビューに対しては、具体的にどのような広告が他に存在するのか説明。若者向けのソフトドリンクに限らず、テーブルから椅子、屋根瓦まで、とにかくどんな商品であっても、とりあえず性的なイメージを乗せて宣伝しているという。広告素材となるのはトランスジェンダーモデルに限らない。男性・女性などさまざまなジェンダーが性的モノ化の対象になっているとのことだ。悪びれる様子もなく繰り返される企業活動の酷さを強調しており、今回話題となったスクリーンショットもそうした問題を提起している。よってユーザーがショックを受けるのは自然な反応だとコメント。不快感や嫌悪感を抱いてもらうことが狙いではあるが、想定しているのはトランスジェンダーの人物に対する不快感ではなく、人々の身体が企業の商品を売るために利用されていることに対する不快感だと述べている。
このように、性の対象として強調されたゲーム内広告は、明確な意図があって制作されている。だが先述したようなCD PROJEKT REDとしての失言歴があるため、疑いの眼差しが向けられてしまう。相次ぐ失言が無ければ、世界観の一部として、よりスムーズに受け入れられたのではないだろうか。軽いジョークのつもりでも、SNS/コミュニティマネジメントの不手際によりユーザーやメディアに目をつけられ、後に響く場合がある。今回の事例はそれをよく示しているだろう。
なお本作の世界では人体改造が当たり前。キャラクター作成機能でも、外見や声をカスタマイズし、好みのキャラクターで遊べるという。本作のクエストディレクターであるMateusz Tomaszkiewicz氏もGamasutraのインタビューに回答。同機能はまだ開発段階であるが、身体特徴や声の選択肢を可能な限り多く用意し、プレイヤーが表現したいジェンダーにマッチするキャラクターを作成できるようにしたいと語っている。
※E3 2019で公開された新トレイラー