『Anthem』の反省を活かし、EAは今後のオンラインタイトルにてアジア式ソフトローンチの採用を検討

『Anthem』の反省を活かし、EAは今後リリースする作品にて、モバイルゲームやアジア圏のオンラインゲームで採用されているようなソフトローンチを行っていくと説明。『Anthem』の今後については、長期運営を続けると念を押している。

先日5月7日にElectronic Arts(以下、EA)の2019会計年度第4四半期決算が公開され、あわせて投資家向けの収支報告が行われた(関連記事)。『Apex Legends』が成功をおさめた一方で、同時期に発売された『Anthem』は目標を下回る結果となったと伝えられている。なお同作の売上予測は500~600万本であった。

今回の報告では、『Anthem』が目標未達に終わったと伝えるだけでなく、どこに問題があったのか振り返りが行われている(Seeking Alpha)。まずCEOのAndrew Wilson氏は「これはEAだけでなくゲーム業界全体としての課題でもあります」と前置き。従来のBioWare作品が40~80時間のオフライン体験で完結していたのに対し、『Anthem』のようなライブサービス型タイトルでは、何百万ものプレイヤーがアクセスするオンラインゲームとして、何百時間も遊び続けられるようにつくらなくてはならないと、『Anthem』のようなタイトルを開発する難しさを説明した。本作ローンチ時点でのコンテンツ不足にも触れている。

そして『Anthem』のケーススタディにより、開発やQAプロセスだけでなく、ゲームに関する情報発信や、ユーザーがゲームに寄せる期待の管理、さらにはライブサービス型タイトルのローンチ方法を見直す必要があることを学んだという。具体的には、アジア圏のオンラインゲームやモバイルゲームはアクセス者を限定したソフトローンチや、複数回におよぶコミュニティテストを経てから製品版のリリースに至ると説明。これにより社内テストだけでは把握できない、多数のプレイヤーが参加した際にどう遊ばれるのか、どのような問題が浮上するのかといった点を把握することができる。

しかしながら西洋圏の大手パブリッシャーは、十分なテスト段階を踏まない旧式のマーケティングおよびローンチ計画にとらわれたままでいる。この姿勢を変えるため、今後のEAタイトルではモバイル市場で見られるようなソフトローンチを採用していくという。またWilson氏はプレイヤーとのコミュニケーションの取り方を変える必要があるとも語っている。現在EAのマーケティング部門はゲームを売り込む「プレゼンテーション」を軸としているが、今後はプレイヤーと対話する「コンバセーション」を意識するよう方針を変えていくとのことだ。

このようにゲームの発売に向けたアプローチを変えることで、製品版の品質改善が見込めるほか、どういったゲームなのかプレイヤーがしっかりと事前に把握できるようになるという。「思っていた内容と違う」というのは、誰しもが経験したことがあるだろう。ゲームに対する期待が膨れ上がったのちに経験する未完成感・誇大広告感は、プレイヤーの不満を増幅させる。『No Man’s Sky』『Fallout 76』『Anthem』はこの問題に直面してきたタイトルの代表格と言えよう。そうしたゲームを販売していると、将来的に発売される他作品の品質にも疑念の目が向けられる。Wilson氏が語る再発防止策が実現すれば、「思っていた内容と違う」という感覚は軽減されるだろう。「いずれは私たちが先頭に立ち、他のデベロッパーやパブリッシャーのやり方を変える手助けができるようになりたいと考えています」。Wilson氏はそう語っている。

なお『Anthem』の今後については、このまま長期運営を継続するとコメント。COOのBlake Jorgensen氏も、BioWareの開発チームにより品質改善、新規コンテンツ制作、ゲームシステムおよびゲームメカニックの改善が進められていると述べている。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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