『SEKIRO』スピードラン、ついにAny%で30分切り。決め手となったのは「馬落とし」
フロム・ソフトウェアによる最新作『SEKIRO:SHADOWS DIE TWICE』(以下、SEKIRO)のスピードランが今、最高潮の盛り上がりを見せている。先日、弊誌記事において不死絶ちエンドの1時間切りが達成されたことに触れたが、以降『SEKIRO』スピードランの主戦場は修羅エンドへと移行し、ついに30分切りを成し遂げるプレイヤー達が現れ始めた。初めて30分切りを達成したのは台湾のスピードランナーであるQttsix氏で記録は29分51秒、そして現在の世界記録である29分24秒を叩き出しているのは前述の不死絶ち1時間切りの達成者と同じ、Distortion2氏である。
日本人ランナーの動画が、英語圏コミュニティに衝撃を与える
3日前時点での修羅エンドスピードランの記録は33分前後。まだ縮めることはできるものの、30分を切るにはピースが足りていない……。そんな焦れた雰囲気がランナー達に漂う中、新風を吹き込んだのは日本人スピードランナーであるomega339氏によって投稿された修羅エンドスピードラン動画であった。タイムは32分39秒、当時の世界記録である。氏の動画は「義手忍具なし、スキル習得なし」というチャートを採用しており、特定のボス戦において義手忍具の爆竹を利用した戦術を取るのが当たり前であった英語圏コミュニティはこれに非常に衝撃を受けた。爆竹が特に有効である霊体破戒僧戦にてomega339氏は爆竹の代わりに「発見される前に種鳴らしと握り灰でボスを後ろに動かし、壁蹴りジャンプから落下忍殺を決める」という戦術を使っており、これは英語圏コミュニティではまだ知られていないテクニックであったのだ。
※霊体破戒僧戦は動画の22:15~から
全体的にスピードランコミュニティは英語圏プレイヤーの層が厚い。また、アジア圏のスピードランナーが日本、韓国、中国などで国ごとに小規模なコミュニティを形成しているのに対して、英語圏はアメリカ・ヨーロッパの英語話者が一丸となってコミュニティを形成しているため規模に差がある。そのため、ゲームによって差はあれど、研究は基本的に英語圏コミュニティが最先端であることが多い。そんな背景もあってか、突如アジアコミュニティから未知のチャート・戦術が提示されたことに英語圏スピードランナー達は少なからず動揺を見せていた。Distortion2氏に負けず劣らずソウルシリーズのランナーとして活躍するNemz38氏は、omega339氏の動画を見て自身の配信にて「我々はアジアコミュニティが何をしているのか分からないし、接触する術も持たず、研究成果を動画で確認するしかない。明日にはまたアジアのプレイヤーによって我々の知らないスキップが導入された動画が投稿されるかもしれないと思うと、練習の方針を立てるのも難しい」と戸惑った様子で述べていた。知らぬ間に、海を挟んだ2つのスピードランコミュニティの間に情報共有の非対称性が生まれていたことが伺い知れる一件であった。
30分切りの決め手となった「馬落とし」
Omega339氏による動画投稿以降、修羅ルートは義手忍具なしのチャートが主流となる。細かい部分も最適化が進み、32分前半、31分、30分とタイムも順調に縮んでいく。現行チャートでもほぼ完璧に通せば30分は切れるだろうという認識が生まれつつあった中、30分切りの決め手となる、とあるスキップが発見される。その名はHorse Skip。百聞は一見にしかず、このスキップについては以下のクリップを見てほしい。
「忍殺」の二文字がなんともシュールに感じてしまうが、このようにジャンプを駆使して物見櫓から天井伝いに移動することで鬼形部が落下するように誘導することが可能なのである。鬼形部戦は戦闘時間が比較的乱数に左右されやすいボス戦であったため、安定して高速で撃破が可能なこのスキップが導入されると、瞬く間に2人もの30分切り達成者が生まれた。
Distortion2氏は自身の世界記録動画の投稿コメントで「綺麗に通れば28分切りもありえるだろう」と述べている。事実、氏の動画では何度か回生を使用しており、Bull Skip(『SEKIRO』で使われている既存のスキップについては前回の記事を参照)も一度失敗していて、タイムの伸び代が十分に感じられるものとなっている。また、そのあまりの難易度のために実際のランには導入されていないものの、泳ぎ状態で壁抜けを行うことで自在にエリア間を移動するair swimと呼ばれるテクニックも発見されており、こちらも実用化された時には大幅なタイム短縮となるだろう。
「この記録も明日には抜かれているに違いない」と苦笑交じりに語ったDistortion2氏であるが、大きな節目となる30分切りこそ達成されたものの、修羅ルートのスピードランがまだまだ発展途上であることは間違いなさそうだ。徐々に3Dアクションゲームのスピードラン特有の「歪み」も出てきつつある『SEKIRO』のスピードランは、今後も白熱したものとなるだろう。