任天堂の『F-ZERO』新作を『バーンアウト』開発者に任せるという話は、曖昧な接触のまま消滅していた
さかのぼること2015年、『F-ZERO』シリーズの新作の開発を『バーンアウト』シリーズのCriterion Gamesが手がける直前であったとの噂が流れた。Criterion Gamesの設立者Alex Ward氏はあらためて最近になり、Game Informerのインタビューにて当時を振り返り、曖昧な接触のまま、正式なオファーなく終わった話であると語った。
この噂の発端は、海外メディアNintendo Lifeの報道である。2011年にニンテンドー・オブ・ヨーロッパが、Wii Uの発表にむけて、イギリスに拠点を構えるCriterion Gamesに『F-ZERO』新作開発を依頼。Wii U発表にあたり、E3で同ハードのパワーを感じられる、製品版にむけてのバーティカルスライスのようなものをお願いしていたが、Criterion Gamesは『Need For Speed Most Wanted』の開発に注力しており、リソースが割ける状態ではないという理由で断念していた。それがNintendo Lifeの報道内容だった。
この経緯は部分的には事実であったようだが、Alex Ward氏によるとニュアンスは異なっていたようだ。氏によると、当時ニンテンドー・オブ・ヨーロッパの若手スタッフ(現在は退社)から「やあ、何人かで話し合っていたんだけど……」とメールがきたという。Criterion Games は2004年からEA傘下であったが、とりとめもなくきた連絡なので、この事実を知らないと氏は認識。EAにコンタクトをとってほしいとし、EAのスタッフのメールアドレスを教え返信したそうだ。
しかし結局この若手スタッフはEAに連絡することはなかった。そうした経緯もあり、任天堂がCriterion Gamesに『F-ZERO』の新作開発を懇願しに来たということはなかったとコメントしていた。ただし、Ward氏はこのオファーは正式なものではなかったことも原因であるとし、このスタッフとEA次第では起こり得たことであるとも話している。
結果的には、2004年の『F-ZERO CLIMAX』以降『F-ZERO』新作は作られていない。またWard氏はレースゲームづくりに消極的になったスタジオから離れ、Three Fields Entertainmentを設立し、『バーンアウト』みあふれる『Dangerous Golf』や『Danger Zone』を開発している。おそらく、依頼の意図なども併記されていることから、2015年にNintendo Lifeに情報をたれこんだのはニンテンドー・オブ・ヨーロッパ側の人間であると予想できるだろう。
任天堂がサードパーティーにシリーズIPの新作の制作を依頼することは珍しくなく、『F-ZERO GX』もセガが開発を担当していた。Criterion Gamesに開発を依頼すること自体は、十分に現実味のある話だ。ただしEAが傘下スタジオに他社タイトルを開発させる事例はほとんど存在せず、レースゲームを久しく作らなくなった同スタジオは、最近ではEAのFPS『バトルフィールドV』の「Firestorm」の開発を手がけている。スタジオの貸し出しはしない方針なのだろう。任天堂による本気の依頼があれば何かが動いた可能性もあるが、いずれにせよあまり経験のない任天堂ヨーロッパの若いスタッフにとっては、この打診は難易度が高すぎたかもしれない。
なお、『F-ZERO』シリーズなどに携わった元任天堂のGiles Goddard氏(現ViteiのCEO)は2017年6月のSourceGamingのインタビューにて、『F-ZERO GX』制作は多くのお金がかけられていたことを明かし、(新作をつくるには)それよりも大規模で上回るゲームを作らねばならず、そうしたことにより任天堂はリスクを背負う必要があるのではないかと考察していた。