Valveによる新作カードゲーム『Artifact』本日配信開始。『Dota 2』の世界観で繰り広げられる新たなTCG体験
Valveは日本時間11月29日、デジタルトレーディングカードゲーム『Artifact』の販売を開始した。『Portal』や『Dota2』など、寡作ながらさまざまな名作を作り続けてきたValveの新作は『ハースストーン』の流れをくむデジタルカードゲーム。『マジック:ザ・ギャザリング』の開発者Richard Garfield氏を迎え入れて開発された本作は、手軽さと戦略性を両立させて人気を得たハースストーンに対して、MOBAの要素を取り入れた奥深いゲーム性と、リアルな「トレーディングカードゲーム」らしいコレクションシステムで対抗する注目作である。
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『Artifact』はValve社の看板MOBAである『Dota 2』の世界観を基にデザインされており、それはゲーム性にもはっきりと現れている。なによりまず目を引くのは、クリープ(≒ミニオン)を並べていくレーン(≒ボード)が3つも並んでいることだろう。プレイヤーはMOBAのようにレーンにヒーローやクリープを送り込み、相手とタワーを巡る攻防を行うことになる。レーンごとに1本ずつあるタワーを計2本破壊するか、タワーを破壊したあとに現れる強力な”The Ancient”を倒すことがゲームの勝利条件だ。
ヒーローは現在のところ『Dota 2』に登場する44人が登場しており、その中から5人を選んでデッキを構築する。『Artifact』におけるヒーローとは、『ハースストーン』で例えるならば「ヒーローの特徴を持ったミニオン」のようなものだと言える。ヒーローはクリープと同じく固有の能力とスタッツを持っており、レーン上での戦闘に参加することができる。それに加えて、ヒーローの存在が手札のスペルを使用するための条件になっているというのが特徴だ。『Artifact』には赤、青、緑、黒の4色があり、ヒーローとスペルはいずれかの色を持つ。そしてスペルを使うためには、「スペルと対応した色のヒーローが対象のレーンにいる」ことが必要なのである。
たとえば赤・緑・黒のヒーローを3人揃えたレーンでは、これらの3色のスペルが使用可能になる。しかし、他の2つのレーンでも同様にスペルが使えるわけではなく、ヒーローが誰もいないボードではスペルを使うことが一切できなくなってしまう。ヒーローをレーン間で移動させる手段は限られているため、5人のヒーローをどのレーンに配置させるかは、本作における駆け引きの大きなポイントになる。そして、敵のヒーローをレーンから一掃できれば、大きな優位を築くことができるというわけだ。
一方で、『Artifact』のヒーローは一度倒されても、一定ターン後、ノーコストで任意のレーンに「リスポーン」させられる。そのため、絶対的なアドバンテージが得られるわけではなく、むしろ相手の手助けになってしまう可能性もある。そこで重要になってくるのが「ゴールド」だ。 本作では、クリープやヒーローを倒すことで一定のゴールドを獲得できる。ゴールドは、ターンが始まる前に開かれる「ショップ」で特殊なカードやヒーローの装備を購入するのに用いられる。装備はヒーローが倒されても外れることはないため、ヒーローを恒久的に強化する手段となる。これによって、細かいアドバンテージをヒーローの装備差として確実な有利に変えることができるようになっている。「敵を倒し、ゴールドを獲得し、そのゴールドでさらに強くなって敵を倒す」というMOBAのゲーム性がうまく落とし込まれていると言えるだろう。
このように、奥深いシステムを考慮した戦略や3つのレーン状況の把握が必要とされる本作だが、そんな中でも直感的なプレイができるようにするためのさまざまな工夫が見て取れる。クリープやヒーローが攻撃する際は、いちいち攻撃対象を選択する必要はなく、ターン前に指定された方向にいる敵を自動的に攻撃するようになっており、戦闘フェーズはテンポよく進行する。ターンのフェーズごとにできることとできないことがはっきり分かれているため、ルールを完全に把握できていなくても意外とすんなりプレイできるだろう。しかしその反面として、クリープの攻撃方向など、ルールの根幹にいくつかランダム要素が生じている。
現実のトレーディングカードゲームを意識したカードのコレクションシステムも『Artifact』の特徴だと言える。12枚のカードが入ったパックを購入しカードを集めるという点は他のデジタルカードゲームと同様だが、本作ではSteamコミュニティマーケットを利用して、獲得したカードをリアルマネーで自由に売買することができる。不必要なカードは売ってしまい、どうしても必要なカードは購入する、というデッキの作り方ができるようになっている。また、本作には、集めたカードから事前に作成したデッキで対戦する構築戦だけでなく、ドラフトモードも用意されている。ドラフトとは『マジック:ザ・ギャザリング』でよく用いられている遊び方で、開けたばかりのパックからカードを1枚選び、残りのカードを他のプレイヤーに渡し、自分に回ってきたカードからまた1枚選ぶ……という手順を繰り返してカードを集め、その場でデッキを作る、というルールだ。『Artifact』では、擬似的なものとはいえこのドラフトをうまく再現している。さらにこのドラフト構築は、選び取ったカードを対戦終了後に自分のカードとして獲得できるいわゆる取り切りドラフト方式も選択可能で、カードを手に入れる手段の一つになっているのも面白い。
しかし、カード収集にまつわるシステムは、発売前から大きな議論を巻き起こしていた。デジタルTCGには基本プレイは無料でパック購入に課金要素を設けるものが多いが、『Artifact』は2300円でゲーム本体を購入しなければプレイができない。それにもかかわらず、追加の課金無しにカードを獲得する手段が現在のところ存在しないのである。報酬を獲得できるドラフトを遊ぶためにも有料のイベントチケットが必要であり、しかも勝利報酬で元をとるための条件がやや厳しい。基本有料という料金形態でこのようなリアルなカード入手のシステムを作ってしまった点が批判を受けていると思われる。販売直後の11月29日におけるSteamでの評価は賛否両論となっており、否定的なレビューの多くがこの課金手法に言及している。Valveも発売前からこの問題は把握しており改善の兆しはみられるものの、このマネタイズシステムが今後どのように変わっていくかはまだ不透明だ。
PcgamesNによると 、『Artifact』は発売開始から一時間足らずで、5万6240人の同時接続プレイヤー数を記録。これは長く待ち望まれたValveの新作として考えればそこまで大きな数字ではないものの、順調な走り出しではあると言えるだろう。本作はSteamにて2300円のパッケージ(構築済みデッキ2種とカードパック10個)が販売中。ゲーム内のコンテンツは全て日本語に対応している。モバイル版(iOS/Android)の配信も告知されており、こちらは2019年のリリースになるとのこと。