「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」の改善を目的とするゲームが開発中。薬と同様にゲームを“処方”として位置づける

ボストンのゲーム開発会社が、大手薬品会社とともに注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療を目的としたiOS向けゲームを開発中だ。FDA(米食品医薬品局)に承認されれば、従来の薬と同じようにゲームを患者に処方することが可能になる。ゲームを使った新たな試みである。

ボストンのゲーム開発会社Akili Interactive Lab(以下、Akili)は、アメリカ大手薬品会社Pfizerと共同で、注意欠陥・多動性障害(以下、ADHD)の改善を目的としたiOS向けゲームの開発を進めている。現在は試験的運用も実施できるレベルであり、FDA(米食品医薬品局)に承認されれば、従来の薬と同じようにゲームを患者に処方することが可能になる。これは障害治療法としては、珍しい試みである。

ADHDとは、不注意・多動性・衝動性の3つを中心とした日常生活に支障をきたす特性のことであり、いわゆる発達障害と呼ばれている症状である。最近では国内でもADHDを取り扱うテレビ番組・関連書籍が増加傾向にあり、国民の関心が高まりつつある。厚生労働省によれば、日本人で発達障害と診断された人の数は約48万1000人といわれており、その数からADHDは決して珍しい症状ではないことが分かる。

ゲームプレイを通して症状を診断する

同社が開発を進めるゲームのタイトルは『AKL-T01』と呼ばれている。詳しいゲームの内容は明かされていないが、簡単に要約すると以下のようなものになるようだ。

・プレイヤーは主人公であるエイリアンアバターを操る
・モバイル端末を前後左右に傾けることで、凹凸のあるコースを移動する「ラン&ジャンプ型」のアクションゲーム
・アバターを操作している間、プレイヤーは襲いかかる敵をタップすることで対処したり、アイテムを獲得、不要なものはパスするなどの判断も必要

と、ここまでの説明だとよくあるアクションゲームと代わり映えはしない。しかし、そのゲームシステムは、ADHDの症状改善に特化している。特記すべき事項は、標的が出てくるスピード・コースの難易度などが、タップする反応速度などを計測し変化する仕様だ。これは前頭前皮質を活性化させるためであり、感覚刺激を与えることが目的だという。

ゲームを使った治療法

同社は、ゲームを用いた治療を「デジタル治療」と呼び、ヘルスケアのありように変化を起こすべく2011年から活動を続けてきた。2016年頃、アルツハイマー治療を目的としたゲーム開発プロジェクト『Project Evo』を筆頭に、ASD(自閉症スペクトラム障害)、MDD(大うつ病性障害)などの疾患への臨床研究をこれまでに進めてきている。

発達障害の治療方法は主に2つある。ひとつは心理的アプローチによる治療、ふたつは薬物治療で、患者の特性に合わせて医師が決定する。そんな中、米国では発達障害の治療にあたり、「実行機能」改善を目指す認知トレーニングに効果があることに注目が集まり始めた。同社はこの「実行機能」に目をつけ、ゲームでその能力を獲得し、その後実生活に落とし込むことを促すことはできないかと考えたのだ。Akiliは現在までに、『AKL-T01』において348名以上もの小児患者に対し臨床試験を実施したことを発表している。実験結果によると、同作で遊んだ子供は他のゲームで遊んだ子供と比べ、注意力を測定するテストではるかに良い結果を出したという。

ヘルスケアに新たなアプローチを

また、ビジネスニュースサイトXconomyによれば、Akiliは2011年にボストンで創業以降、これまでに総額1億2000万ドル以上もの資金調達をしているというから驚きだ。これだけの援助を受けることは、理解を得るのが難しい新しい領域においては簡単なことではない。このことからも、ヘルスケアのありように新たな風が起こるのではないかと期待されているのだ。

『AKL-T01』は現在、FDA(米食品医薬品局)に申請済みであり、もし承認がおりた場合、同作は初のゲームによる小児ADHDに対する治療法となる。つまり、薬と同じようにゲームを患者に処方するというわけだ。近い将来、国内においても「ゲーム療法」が発達系の課題をもつ人への支援となる時代がくるかもしれない。

【UPDATE 2018/11/13 23:00】
文中の表現を変更しました。

Yu Naganeo
Yu Naganeo

野生のグラフィックデザイナー。ゲームをプレイすることを「ゲームを食べる」と言う。

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