Steamで販売されているアクションゲームに対し、ブラジル政府から販売停止要請。実在極右政治家を模した主人公が、左翼系市民をなぎ倒す
インディースタジオBS STUDIOSが10月6日にSteamにてリリースした『BOLSOMITO 2K18』について、ブラジルの政府機関が調査に乗り出し、Valveに対して販売を中止するよう求めていることが判明した。地元紙Correio Brazilienseなどが報じている。
『BOLSOMITO 2K18』は、現在のブラジルの政治情勢から影響を受けて制作されたベルトスクロール・アクションゲームだ。主人公の“とある善良な市民”が、価値観を転換させ社会を腐敗させた勢力に戦いを挑むという内容で、ゲームとしてはごくシンプルな作りである。
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主人公の男は、開発元からは明言されていないが、その風貌やゲームタイトルから、現在ブラジルでおこなわれている大統領選挙の候補者のひとりジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)氏をイメージしていることは間違いないだろう。キーアートで見せるポーズ(本稿のヘッダー画像参照)も、同氏がかつておこなったことで知られるポーズと同じである。ちなみに、ジャイル・ボルソナロ氏は選挙にて最多票を獲得し、最有力候補として決選投票に臨こととなっている。
そして、ゲーム内で主人公が戦う相手は、女性や黒人、LGBTQ、あるいは左翼的な人間たちとなっており、主人公はそうした人々をパンチやキックで倒してはとぐろを巻いた大便に変え、ステージを進んでいく。極右候補であるボルソナロ氏は、女性蔑視や人種差別、同性愛差別的な発言を繰り返す歯に衣着せぬスタンスで知られ、そうした要素を本作にも取り入れているようだ。
こうした内容の本作に対して、ブラジルのMinistério Público do Distrito Federal e Territórios(連邦直轄区・地域検察局。以下、MPDFT)は10月10日、開発元のBS STUDIOSおよび配信の場を提供したValveへの調査を法律に基づいておこなっていることを公表(リンク先はPDF)。先述したように、ブラジルでは任期満了に伴う大統領選挙中で、その投開票は日本時間10月8日におこなわれた。MPDFTは、その直前に配信開始された本作は、ブラジル連邦共和国の大統領職のイメージを毀損していることは明白で、今回の選挙に混乱をもたらす目的があると指摘。さらに社会運動をおこなうゲイやフェミニストらに精神的損害を与えているとも述べている。また、主人公をボルソナロ候補に似せ、イデオロギーを異にする人々を殺していくゲーム内容にも言及。そしてValveに対して、『BOLSOMITO 2K18』のSteamでの販売中止を求めると同時に、BS STUDIOSの責任者の情報を明らかにするよう求めるとしている。
本稿執筆時点では、本作のSteamでの販売は継続している。開発元BS STUDIOSは公式サイトを持っていない様子で、最近公開されたとみられる公式Facebookページはすでに削除済みとなっている。ただ、Google検索にていまも確認できる公式Facebookページの概要の一部には、ポリティカル・コレクトネスを追求する団体からの激しい非難と発売中止要求を受けながらも、Steamにて本作をリリースする予定である旨の記載がある。本作は一見すると、ジャイル・ボルソナロ氏の姿勢を支持するゲーム内容にも思えるが、逆にゲームを通じて同氏への批判を誘おうとした可能性もあり、どういった意図を持って本作を制作したのかは不明である。なお、Steamでのレビューでは現時点で86パーセントが好評とする「非常に好評」となっているが、中には差別を肯定するかのようなゲーム内容を激しく非難するレビュアーも存在する。
Valveは今年6月、違法なものや荒らし行為でない限り、原則としてすべてのゲームをSteamで販売することを容認する方針を示した(関連記事)。暴力的あるいは性的なゲームに関してはフィルターを設けるなどし、今後もさらなるオプションを追加していくとしており、ゲームの表現内容を受け入れるかどうかをユーザーに委ねた形だ。一方で、国によって法律が異なることを前提に、ケースバイケースで対応することもあるとも述べている。ブラジルMPDFTは、本作はアメリカのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に違反しているとも主張しており、今後Valveがブラジル当局の求めに応じて販売を差し止めるのかどうかが注目される。