約18年続く海外の海賊サイトが、任天堂タイトルの配布を中止。立て続けに起こる海賊サイト閉鎖の余波大きく
海外サイトEMUPARADISEの管理人であるMasJ氏は8月8日、公式サイトにて“運営方針を変更する”ことを発表した。最近のエミュレーター事情を考慮して、運営方針の変更を決断したという。はっきりとは言及していないものの、「最近のエミュレーター事情」という文言、そして任天堂から発売されているタイトル(ROMやWeb上のエミュレーター)がサイトから削除されていることを踏まえると、運営方針の変更とは任天堂タイトルの削除を意味しているようだ。なお、削除されたのはゲームタイトルのみ。ニンテンドーDSといった任天堂のハードウェアは削除の対象とはなっておらず、他社タイトルのROMなどは配布されている。
EMUPARADISEは、2000年につくられたエミュレーター運営サイトだ。MasJ氏はインドに生まれ、大人になるまですばらしいレトロゲームをプレイする機会に恵まれなかったことにより、そうした機会を提供するために、同志を募りエミュレーターサイトを始めたという。それにより世界中の人々に“情熱を伝えること”に成功してきたように感じていると語っている。また氏はチームとレトロゲームに関する問題を解決するために尽力してきたといい、数えきれない感謝のメールを受け取ってきたことも明かしている。
幼少時代に親しんだレトロゲームを自分の子供たちの世代に伝えられる喜びを伝える親や、戦場での苦しい日々を乗り越えられたのは子供のころに遊んだレトロゲームに没頭できたからだという戦時中の兵士たち、親族を失った悲しみの中で慰めを見つけることができたと語る兄弟など、氏のもとには多くの人々から感謝のメールが送られてきたという。氏はEMUPARADISEが多くの人々を救ってきたことを強調し、起伏は激しいながらも美しい旅路だったとこれまでの道のりを振り返る。
しかし現状を考えると、リスクをとることはできないともコメント。チームメンバーを危険に晒すことはできず、今後もレトロゲームを愛する人々のためにEMUPARADISEを引き続き運営していくために、決断を下したと理由を説明している。同サイトはこれまでにも多くの警告を受け取ってきており、ホスト(運営者)によるサーバーのシャットダウンを受けてきたという。これまでは、こうした問題に対処してきたが、今回はこれまでと異なる解決法を選択したようだ。
MasJ氏の説明する「最近のエミュレーター事情」とは、「LoveROMS.com」と「LoveRETRO.co」を運営するJacob Mathias氏が任天堂から訴訟を受け、同サイトを閉鎖したことを指しているだろう(関連記事)。任天堂は同氏に対し、著作権侵害、商標権侵害、そして不正競争を訴えている。そして、両サイトの閉鎖とドメインの引き渡し、そして侵害されたゲームごとに15万ドル(1600万円)、各商標の侵害にあたり最高200万ドル(2億2000万円)の賠償金を求めていた。EMUPARADISEは、両サイトよりもさらに規模の大きなWebサイトだ。「rom emulator」で検索すると一番上に出てくると説明すれば、そのサイトの規模を察することができるだろう。18年続けられてきた海賊サイトの運営方針を変えるほど、「LoveROMS.com」と「LoveRETRO.co」の閉鎖は、その界隈の人々にとっても衝撃的な出来事だったようだ。
MasJ氏は何度もしつこく美しい言葉を並べているが、アフィリエイトを導入しているほか、広告主の募集や募金にも熱心。サイトの運営のためであると説明しているものの、収益化の一環である点は疑いない。企業としては、あらゆる点で見過ごすことはできないはずだ。任天堂に限らず、企業のゲームタイトルを無断で配布することを正当化する理由には全くならないだろう。9月から正式に開始される定額サービスNintendo Switch Onlineに加入すれば、ファミリーコンピュータの特定のゲームが「いつでもどこでも誰とでも」遊べるようになる。セガゲームスやSNKなども、最近はこれまで以上に旧作の復刻に熱心だ。レトロゲームを遊ぶ手段が公式から提供されれば、多くの人々が幸せになっていくだろう。いずれにせよ、海賊サイト閉鎖事件の余波は、まだまだ他サイトにも及んでいきそうだ。