映画「メタルギアソリッド」では、小島監督が構築した“メタルギアらしさ”を大切にするため「R指定」も厭わない。ロバーツ監督が熱い想いを語る
『メタルギアソリッド』の実写ハリウッド映画化プロジェクトが最初にアナウンスされたのは2006年のこと(GameSpot)。当時の映画化の話はいつの間にか消えてしまったが、2012年になってから企画が再浮上し、2014年にはSony Picturesよりジョーダン・ボート=ロバーツ氏が監督候補に挙がっていることが判明した(Deadline)。その後しばらくの間は進展が見られなかったが、ロバーツ氏が監督を務めた「キングコング: 髑髏島の巨神」が2017年に公開されてからというもの、映画化プロジェクト絡みでのロバーツ氏のメディア露出が増え、脚本づくりに本腰を入れていることが明らかとなっていった。そして今回、エンターテインメント系ニュースを扱う海外メディアColliderのインタビューに応じたロバーツ氏が、改めて『メタルギアソリッド』に対する熱い想いを語っている。
「キングコング: 髑髏島の巨神」の公開によりその名が広く知れ渡ったロバーツ氏は、1984年生まれの若手映画監督。自身もゲームおよび『メタルギアソリッド』シリーズの大ファンであり、学生時代から同シリーズを遊んできたと公言している。小島秀夫監督とも親交があり、脚本づくりにおいては小島氏からアドバイスを送ってもらったという。SNS上で二人のミーティング中の写真を投稿したり、「E3 2017」「E3 2018」の2年連続で共同パネルセッションに登壇したりと、意思疎通を図りながら脚本を練っていたことがうかがえる(関連記事)。
2018年7月に開催された「Comic-Con International 2018」では、原作ファンの期待に応えながらも、特定のシリーズ作品のシナリオにそのまま沿うのではなく、これまで見られなかった新しいアプローチで『メタルギアソリッド』の歴史に踏み込んでいくことや、ハリウッド映画の基本となる三幕構成から外れる描き方に挑戦することなど、野心的なアイデアが伝えられていた(関連記事)。とはいえ、本プロジェクトはようやく脚本が出来上がった段階であり、まだSony Picturesのゴーサインが出たわけではない。予算もキャスティングも未定であり、ロバーツ氏が思い描いた「メタルギアソリッド」を実現するための道のりはまだまだ長い。
DAY 1 of #METALGEAR31st
There’s many beautiful+insane+iconic images to come…but I want to start with this piece by Nick Foreman.
The bond we formed via mechs reinforced that we should be loud w/ our love of this franchise as we may find friends & collaborators in the process. pic.twitter.com/5Zj4vRsu5T
— Jordan Vogt-Roberts (@VogtRoberts) July 13, 2018
※ロバーツ氏がTwitter上に投稿しているコンセプトアート
今回のColliderインタビューでは、映画化プロジェクトの進捗状況がより具体的に示されている。「キングコング: 髑髏島の巨神」「ジュラシック・ワールド/炎の王国」などの脚本制作に携わったDerek Connolly氏による脚本の第一稿は完成済みで、現在は改定段階にあるという。またゲーム原作の映画化プロジェクトにおいては、より多くの観客に足を運んでもらえるよう、レーティングを低めに抑えるのが通例だが、ロバーツ氏としてはこのプロジェクトを「G.I.ジョー」「ミッション・インポッシブル」「007」のようなアクション大作に仕上げることは本望ではないとのこと。理想としては、リスクを取り、原作の残酷な側面やキャラクターの思想を適格に捉えるため、R指定(17歳未満の観賞には保護者の同伴が必要となる)になってもいいという覚悟で製作に挑みたいという。ロバーツ氏が語る「小島秀夫版(Kojima-san version)」の「メタルギアソリッド」映画として企画を通してもらうには、ある程度予算を抑えることでリスクを緩和する必要があるとも述べている。
MSX2時代にまでさかのぼる『メタルギアシリーズ』の歴史は膨大であり、複数の主人公・複数の時系列を通じて数十年規模の入り組んだ物語が紡がれる。映画化する上で真っ先に浮かぶ手法は、全体の一部だけを切り取って見せることだが、ロバーツ氏はより広範な物語を描く方法を見つけ出したという。また、ロバーツ氏が語る『メタルギアソリッド』らしさとは、何か特定のフレーズに落とし込めるような代物ではない。そもそも同シリーズはひとつの作品の中でも、シリアスな展開からユーモラスな演出、本筋から脱線していく会話劇など、物語のトーンは次々と切り替わっていく。その点、ロバーツ氏はどれかひとつの側面だけに着目するのではなく、『メタルギア』らしさを構成する全てのエッセンスをうまく取り入れたいと答えている。
DAY 24 of #METALGEAR31st
In honor of today’s codec transmission, I have one more piece capturing the iconic Sniper Wolf. @eddiedelrio_art blew me away with here.
I wanted to explore pushing the magic realism and stylization. Letting her be the bloody, wounded angel she was. pic.twitter.com/wSxV0HpVDB
— Jordan Vogt-Roberts (@VogtRoberts) August 6, 2018
またロバーツ氏はソリッド・スネークとビッグ・ボスの二人がシリーズの主要人物であるとしながらも、彼らの魅力は他キャラクターとの関係性の中で形成されていくことにも理解を示している。同シリーズにおいてはキャラクターの悲劇が描かれる機会が多く、ロバーツ氏は「ボス戦でプレイヤーが感じるのは達成感ではなく喪失感」であるとも述べている。そうしたメタルギアらしさを描くために、どのキャラクターを、何人のキャラクターを登場させればよいのか、というのも映画化の重要なポイントであるという。
ロバーツ氏は先述した「Comic-Con 2018」開催前後、自身のツイッターアカウントにて映画「メタルギアソリッド」用のコンセプトアートを複数枚公開している。特にロバーツ氏の個人的なお気に入りであるサイボーグ忍者のアートワークは多めに投稿されている。また『メタルギアソリッド』の名を語る上では核搭載二足歩行型戦車「メタルギア」の存在も忘れてはならず、映画化においては特にこの2つをうまく描きたいと述べている。もちろん、新川洋司氏のデザインを汲み取ることも重要だとしている。
「人々は相互確証破壊という概念を忘れてしまいました。核拡散や、核兵器の脅威についても。そうした現代においてメタルギアの物語が時代遅れにならないよう、いろいろと工夫しています」。そう語るロバーツ氏の目標は、氏が子供のころ『メタルギアソリッド』をプレイして受けた衝撃と同等の体験を、映画を通じて届けることである。だがネットを使うことで世界中のコンテンツに簡単にアクセスできる現代においては、ゲームであろうと映画であろうと、当時の子供たちが『メタルギアソリッド』から受けたような衝撃を再現することは難しい。人々を特定の作品の虜にするには、先人以上の努力が必要となる。ハードルは極めて高いが、映画の文法が、そしてその文法に対する観客の理解力が高まった今ならば、同シリーズのファンではない大多数の人々にも『メタルギアソリッド』の物語と独特の世界観を受け入れてもらえるはず。ロバーツ氏はそう信じ、本プロジェクトにありったけの情熱を注いでいる。