PS Vitaを支えるのは激安・お手軽トロフィー解除ゲーム。プラチナトロフィーを格安で提供する開発者が成功譚を語る


わずか数十分でプラチナトロフィーを解除できるPlayStation 4/PlayStation Vita対応ソフト『Little Adventure on the Prairie』の開発者が海外メディアKotakuのインタビューに応じ、本作の成功譚を語った。

『Little Adventure on the Prairie』は2018年2月に海外リリースされたPlayStation 4/PlayStation Vita対応ソフト(海外PlayStationストア)。もともとは開発元のInfinite MadaaがAndroid向けのアプリとして2017年に発売した作品を、PlayStationプラットフォームに移植したものだ(Google Play)。内容としては画面の左から右へと、モンスターを倒しながら一本道をひたすら突き進む2D横スクロール・アクションゲームである。やる気を感じさせない低クオリティのアニメーションと、道なりに進んで剣を振るだけの単調なゲームプレイ。中身だけで判断した場合、オススメのしようがない作品だ。同作プログラマーのSalem Al-Ghanim氏にインタビューしたKotakuも、冒頭から「It’s not good」と直球で感想を述べている。

だが、このゲームを売るのに品質の高さは重要ではなかった。Al-Ghanim氏は、AndroidからPlayStation 4/PlayStation Vita向けにゲームを移植するにあたり、トロフィー収集家向けの作品として注目されるよう、ゲーム外の部分で工夫することを友人から勧められたという。Al-Ghanim氏はカタールに住む24歳のプログラマー。スタジオの資金繰りに苦しんでおり、次のプロジェクトを円滑に進めるための資金を確保したいという思いがあった。そして友人の提案を採用した結果、販売価格1.99ドルという安さ、わずか15分~20分でプラチナトロフィーを解除できるという手軽さにより、「トロフィー解除ゲーム」というくくりでセールスを伸ばすことに成功した。PlayStation 4/PlayStation Vitaのクロスバイに対応させたのは、それぞれ別のトロフィーリストを提供することで、1作品で2つのプラチナトロフィーを獲得できるという付加価値を添えるためだ。

Al-Ghanim氏によると、SIEからプラチナトロフィー実装の許可をもらうには、ブロンズ・シルバー・ゴールドトロフィーを一定数揃える必要がある。本作では条件を満たすため計22個のトロフィーが用意されている。いずれもクリアまでの15~20分間で容易にコンプリートできるものだ。Al-Ghanim氏によると、トロフィー効果のおかげで十分な開発資金を確保することができたという。ちなみに次回作は『Chromia』というターンベースRPGとなるようだ。

PSNユーザーのトロフィー情報をトラッキングしているTrueTrophiesの調べによると、PlayStation Vitaが海外で本格展開された2012年と比べて、トロフィーコンプリート率は大幅に上昇し、トロフィー解除までにかかる平均時間は格段に短くなっているという。また2012年当時PlayStation Vitaで最も遊ばれたゲームは『Uncharted: Golden Abyss』『GRAVITY DAZE』といった有名フランチャイズ作品が多かったが、2018年にはモバイルから移植されたインディーゲームが上位に並んでいる。そのトップに君臨しているのが『Little Adventure on the Prairie』だ。トロフィーコンプリート率も90%を超えている。

こうしたトロフィーデータが示すように、トロフィー解除ゲームには一定の需要がある。Petite Gamesというデベロッパーも、『Midnight Deluxe』『Inksplosion』『Super Destronaut DX』といったトロフィー解除ゲームを量産することで、PlayStation Vitaユーザーに訴求することに成功している。PlayStation Vitaは決して活気づいているとは言えない。そんな中、トロフィー解除ゲームは同プラットフォームの生命線となりつつある。先述したTrueTrophiesも、日本のビジュアルノベルとトロフィー解除ゲームの2つがPlayStation Vitaを支えていると分析している。

Image Credit: TrueTrophies

2017年には、『★★★★★ 1000 Top Rated』というゲームが米国PlayStationストアから削除されたことが話題になった(関連記事)。「プラチナトロフィー世界最速解除ゲーム(The World’s Fastest Platinum Trophy Game)」という謳い文句と共に0.98ドルで販売されていたゲームだ。こちらは短時間でプラチナトロフィーを解除できるという点をとことん押し出した作品であったが、その露骨な宣伝内容をSIEから指摘され、「ゲームタイトルの変更」「ストアに掲載するトレイラー映像ではトロフィーに言及しないこと」という再掲載条件とあわせてストアから削除された。問題視されていたのは、数十分でプラチナトロフィーを解除できること自体ではなく、「プラチナトロフィーを解除するためのゲーム」という売り出し方である。

『★★★★★ 1000 Top Rated』

今回の『Little Adventure on the Prairie』に関しては、ストアページの説明文・動画・画像など表向きにはトロフィー解除ゲームとして宣伝していない。自ら宣伝しなくとも、トロフィー収集家の方から見つけてもらえるのだ。そうしたゲーム以外の部分を売りにした作品が増えることがプラットフォームにとって健全なのかは意見が分かれるところだろう。だが、モバイルゲームの移植先やカジュアルゲームの配信先としてPlayStation Vitaに目をつけるのは、ビジネス的には決して悪くないチョイスなのかもしれない。

なおPCゲーム配信プラットフォームのSteamにおいては、トレーディングカードや実績といったゲーム外のコンテンツだけでユーザーを獲得する「フェイクゲーム」の粗製乱造を緩和するため、新規タイトルの一部に実績機能の利用制限が設けられている(関連記事)。コンソールプラットフォームにおいても、トロフィー解除ゲームがあまりに増加した場合には、何かしらの対策が練られることだろう。