『大乱闘スマッシュブラザーズ』の誕生は“嬉しい偶然”ではなかった。当時の状況を知る米任天堂スタッフが、ネットに出回る説を否定


ニンテンドー・オブ・アメリカのシニア・プロダクト・マーケティング・マネージャーを務めるBill Trinen氏は、初代『大乱闘スマッシュブラザーズ』の誕生は“嬉しい偶然(Happy Accident)”ではなかったとNintendo Lifeに対して語っている。『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズは、言わずとしれた人気シリーズだ。しかし初代『大乱闘スマッシュブラザーズ』のリリースにおいては、現在ほど知名度はなく、また現在ほど任天堂がプロモーションなどでプッシュしていなかったことから、同社が『スマブラ』に期待していなかったと考える人々も存在する。そういった背景を踏まえ、海外のコミュニティの一部のユーザーは、“たまたま生まれた”というニュアンスで『スマブラ』を「Happy Accident(嬉しい偶然)」と表現することもある。Trinen氏はそういった説を、否定した。

*宮本茂氏と、Bill Trinen氏

Bill Trinen氏は、現在はニンテンドー・オブ・アメリカで働いており、ローカライズを中心に幅広い職務を担当する。宮本茂氏など任天堂スタッフが海外で講演やインタビューを受ける際の通訳もメディアの場に出るこもとあるので、その顔や声をご存知の方もいるだろう。氏はもともと日本に留学しており、1990年代に『時のオカリナ』のバグレポートの翻訳者としてキャリアをスタートさせていた。つまり『大乱闘スマッシュブラザーズ』開発当時の任天堂の状況を知るスタッフのひとりであるというわけだ。Trien氏は当時を知る者として、任天堂はスマブラが秘めている可能性に気づいていなかったという意見を強く否定し、さらに「偶然」という言葉による、シリーズのディレクターを務める桜井政博氏がゲームづくりを知らないかのような表現に不快感を示している。

ちなみに、「Happy Accident(嬉しい偶然)」は、『大乱闘スマッシュブラザーズ』だけでなく、『大乱闘スマッシュブラザーズDX』について指すこともある。ゲームキューブ向けに発売された『大乱闘スマッシュブラザーズDX』では、ゲームスピードが著しく速く、数多くのテクニックが導入され、競技性の強い作品としてファンの間で根強い支持を得ている。同作はシリーズの中で特に奥深い対戦を実現していることから、例外として“嬉しい偶然”と表現するファンも存在する。このニュアンスでの「Happy Accident(嬉しい偶然)」という言葉もTrinen氏はさらに否定する。

確かに『スマブラDX』を嬉しい偶然と指摘する書き込みはインターネット上に散見される

氏は、桜井政博氏は当時から緻密な計算に基づいてゲームを作っており、多くのレイヤーを重ねて奥深いゲームを作り出してきたとコメント。すべて調整・計算され尽くしたものであり、偶然によりゲームが生まれたわけではないと強調している。氏は「Happy Accident(嬉しい偶然)」は、むしろゲームがプレイヤーにうまく発見してもらったことであるとも語る。幸運にも、プレイヤーに見つけてもらったことにより、互いに誘い合いって遊ぶようになり、コミュニティ形成につながったという。

つまり、Trinen氏は『スマブラ』の誕生は偶然ではなかったと強調しつつ、ヒットしたこと自体は偶然が絡んだものであることを含ませている。「Happy Accident(嬉しい偶然)」という言葉は、あくまでコミュニティの一部で使われている言葉であり、発信者によって意図が異なる言葉であるが、ゲームの誕生という点では、いずれの意味でも否定されたことになる。シリーズを通じて、緻密な計算に基づいて『スマブラ』は作られてきたというのが、誕生当時からシリーズを見つめてきた氏の主張だ。

最新作『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』は、3DS/Wii U版と比べてもゲームスピードが向上しており、競技者の支持される『大乱闘スマッシュブラザーズDX』に近い調整がされているとの報告がプロプレイヤーからもあがっている(Red Bull)。最新作においてもカジュアルプレイヤーとトーナメントプレイヤーの両方を歓迎する、任天堂と桜井氏が見せる熟練の調整に注目が集まる。