モーションコントロール時代初期が生んだ影。PS3で発売された大作ゲームの開発者が「6軸操作」導入の苦悩を振り返る

今となっては家庭用ゲーム機のコントローラーに限らず、モーションコントロールは普遍的なものになりつつある。が、当時としては新しい操作体系として注目されており、ハードウェアの特性を活かすために積極的にこれらの操作を取り入れるタイトルも多かった。しかし、その裏でモーションコントロールの存在にひどく悩まされた開発者もいたようだ。

今から約12年前の2006年に家庭用ゲーム機PlayStation 3とWiiが発売された。それぞれ特徴の異なるゲームコンソールであったが、ともにコントローラーにはモーションセンサーを搭載されていた。Wiiリモコンには3軸加速度センサが、SIXAXISには6軸検出システムが実装されており、ボタン押したりスティックを傾ける以外の「コントローラーの動き」を使った入力が可能となった。

今となっては家庭用ゲーム機のコントローラーに限らず、モーションコントロールは普遍的なものになりつつあるが、当時としては新しい操作体系として注目されており、ハードウェアの特性を活かすために積極的にこれらの操作を取り入れるタイトルも多かった。しかし、その裏でモーションコントロールの存在にひどく悩まされた開発者もいたようだ。2007年にPlayStation 3向けに発売された『RISE FROM LAIR』を手がけたFactor 5の共同設立者Julian Eggebrecht氏を含めた元スタッフらがPolygonに対して当時の苦悩を明かしている。

振り返るは、PlayStation 3が発売された2006年。E3のソニーのプレスカンファレンスを見ていたFactor 5のスタッフは価格発表など一連の流れを微笑ましく見ていたというが、モーションコントロールを使い『WARHAWK』をプレイする映像を見た瞬間雰囲気が激変。自分たちのタイトルでもこれをしなければいけないことに、恐怖を抱き始めた。

そしてその予想は当たり、『RISE FROM LAIR』はモーションコントロールを導入しなければいけなくなった。同作のモーションコントロールはドラゴンそのものを操作するものだったが、その調整にひどく苦労したという。下降させているつもりが上昇するなど思ったことと逆に入力してしまうことも多かったようだ。しかしながら、ある程度の操作に希望が見えたことで『RISE FROM LAIR』はSIXAXISのモーションコントロールのショーケースとなることに決まった。しかしながら内部のスタッフはモーションコントロールを誰一人好んでなかったようで、間違った方法であると考えていたという。

開発している間は通常の操作に加えてオプションとしてモーションコントロールが用意されていたが、ソニーの決定により通常操作は排除されたとEggebrecht氏は語っている。『WARHAWK』についてはモーションコントロールがオプションであったが、『RISE FROM LAIR』では強い圧力により半ば強制的に導入が決まったとEggebrecht氏は語気を強める。ただ一方で2007年にはSony EuropeのバイスプレジデントであるPhil Harrison氏がモーションコントロールの導入を強いたことを否定しており、真相は闇の中だ(Kotaku)。このモーションコントロールは、低fpsが生じたりFOVが狭すぎたりといった技術的な問題と絡みあい、Factor 5を強く悩ませたという。

そした最終的に『RISE FROM LAIR』は2007年に発売された。同作をプレイしたことがあるプレイヤーなら作品の良さと課題ともにすぐに感じられるだろう。竜に乗るという野心的なコンセプトを実現し、PlayStation 3のスペックを引き出したビジュアル。特に水の表現に関しては抜きん出ていた。一方でモーションコントロールを強要する操作に慣れるまで時間がかかる。このポイントに批判が多く集まっており、スティックで操作できればと遊びながら嘆いたプレイヤーも少なくないだろう。この賛否両論を呼んだ6軸操作には開発スタッフの苦悩が詰まっていたようだ。

『Flowery』

『RISE FROM LAIR』はあくまで例のひとつだろう。当時はPS3だけでなく、Wiiでもモーションコントロールを採用したタイトルが多く世に生まれた。振りやモーション操作をやたらと導入したタイトルがリリースされ、プレイヤーに新たな操作という興奮とモーションを強要される苛立ちをもたらした。ただ、すべてのモーションコントロールが苛立ちをもたらしたわけではない。PS3向け『Flowery』はモーションコントロール専用ながら、むしろその独自の操作感がゲームの魅力となった。モーションコントロールありきでゲームデザインされたタイトルならば、また話は違ってきたのだろう。

そのほか、モーションコントロールを「オプション」として採用したタイトルの多くはマイナスポイントになることは少なかった。通常の操作を想定していたタイトルをモーションコントロールに変更し、さらには専用にもしてしまったことが悲劇を呼んでしまったわけだ。冒頭に述べたようにモーションコントロールはもはや新しい操作体系ではなく、文化としても円熟した。通常操作のゲームに導入される際も、より効果的かつピンポイントに用いられるようになった。『RISE FROM LAIR』を作る上でFactor 5スタッフがもがいた過去が、モーションコントロールの文化の円熟に貢献したことを願いたい。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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