インディースタジオMutant Entertainment Studiosは12月12日、『I Can’t Believe It’s Not Gambling』をSteamにて発売した。価格は100円。12月19日までは1%オフの99円でゲームを購入できる。本作は以前弊誌で紹介したタイトルである(関連記事)。
『I Can’t Believe It’s Not Gambling』は、今海外で議論を呼んでいる「ルートボックス」を題材にしたシミュレーションゲームだ。ルートボックスとは、開けたプレイヤーに対してランダムにアイテムを提供する、日本ではガチャと呼ばれるものに近い形式のモデルだ。海外ではこうしたモデルを採用するタイトルは古くからあったものの、最近ではフルプライスタイトルにもゲーム内課金を絡めたルートボックスを導入されており、大きな議論を呼んでいる(関連記事)。
ゲームプレイを楽しむために多額のお金を費やさなければならないという問題だけでなく、そのランダム性の高さからギャンブル要素が強いのではないかと追求されており、低年齢のユーザーを保護するためにルートボックスをギャンブルに認定する声が高まっている。本作の『I Can’t Believe It’s Not Gambling(ルートボックスがギャンブルじゃないなんて信じられない)』というタイトルは、こうした諸問題を風刺しているのだろう。
ゲーム内容はというと、プレイヤーは何かに取り憑かれたかのように一心不乱にルートボックスを開け続け、よりグレードの高いルートボックスを開けることを目指す。5つほどドロップされるアイテムにはレアリティが設定されており、「コモン」「アンコモン」「レア」「エピック」「レジェンダリー」などが存在する。出たアイテムをコレクションにするか売るかはプレイヤーによって選ぶことができ、売却するならばドロップしたアイテムのレアリティに応じて売却額が上がる。高いレアリティのアイテムを入手できればどんどんお金が貯まっていくだろう。ドロップしたアイテムは「スキン」と「ハット」の2種類に分けられる。これらを売らずにコレクションして変更を適用すれば、開けるルートボックス自体の見た目が変わる。ありがたいかどうかはともかく、外見は一応変更できるということだ。
ルートボックスにはランクが存在しており、最初は「Actual Trash(ただのゴミ)」に10ドル(ゲーム内貨幣)支払って開けなければいけないが、お金が貯まれば次々に上のランクのルートボックスがアンロックされる。『Team Fortress 2』で見かけた木箱やドラゴンボールを彷彿とさせる珠玉など、パロティにも富んでいる。ちなみにルートボックスを開ける演出は完全に『オーバーウォッチ』のそれ。
ただ、常にレアを引き当てられるほどこの世界は甘くない。時にコモンにしか出会えられなくなり、涙を飲むこともある。本作はコモンアイテムもそれなりの額で売ることができるので、お金が足りなくなることはそうそうないが、資金不足に陥った際には左下のアイコンをクリックすれば遊べるミニゲーム「Not BF2」をプレイしよう。自動で進むキャラクターをWASDキーで制御してスポーンするアイテムを集めていく。集めた量によって金額が決まり、その資金を得ることでまた元気にルートボックスを開ける作業に戻ることができる。ミニゲームはタイトルこそルートボックス問題を各地に広げた『Star Wars バトルフロントII』を示唆しているが、内容は「背景が宇宙っぽい」程度にしか共通点はない。
本作の魅力は、ルートボックスを開けるという体験を突き詰めていること。本作をプレイしているうちの9割の時間は、耐え難い虚無感に包まれることだろう。最初は威勢よくルートボックスを開けていても、次第に「レアリティ」という偶然性や「コレクション」という収集物に魅力を感じなくなり、「レジェンド」が出てもただの高価なアイテムとしか思えなくなる。ルートボックスを開けるまでのプロセスを省略化することで、その体験の核にある部分が見えてくるというわけだ。しかしながら、ルートボックスを開けた時に出る光、特にレアを引き当てた時に見える光には魅力がある。そのアイテム自体に価値を見出していないにもかかわらず、その輝きを見た時の一瞬には言語化できない高揚感が心のなかに浮かぶ。その瞬間をもう一度味わいたいと身体が求めてしまうのだ。こうした体験の中に、まさしくギャンブルと似通う中毒性があることは否定できない。
前述したように、本作のタイトルは『I Can’t Believe It’s Not Gambling(ルートボックスがギャンブルじゃないなんて信じられない)』。ルートボックスがギャンブルであるかどうかを究明したい方は、99円としばしの時間を対価に虚しさを受け取り、自らその答えを見つけてほしい。