イスラム諸国からの入国を禁止した米大統領令にゲイブがコメント、「従業員の足枷にしたくない」


アメリカのトランプ大統領がイスラム教徒の多い中東・アフリカ7か国からの渡米を一時的に禁止した大統領令について、Steamを運営するValve Corporation(以下、Valve)の代表Gabe Newell氏がコメントし、一部の従業員が出国を制限されていることに加えて、『Dota 2』のトーナメントをはじめとしたe-Sportsの国際イベントに与える影響について懸念を表明した。現在、ワシントン州の連邦地方裁判所が下した仮処分により大統領令は一時的に差し止められているが、米政府は連邦最高裁判所へ控訴する意向を示しており、今後の判決次第では業界内に蔓延している懸念が現実になる可能性も否めない。

 

e-Sportsと従業員への影響を懸念

先月27日、アメリカ合衆国のトランプ大統領は、テロ対策の強化を理由に難民の受け入れや外国人の入国を制限する大統領令(米大統領が議会の承認を得ることなく連邦政府や軍に対して行政権を直接行使できる行政命令のこと)に署名。シリア難民の受け入れを無期限停止、その他の難民受け入れを120日間停止したほか、イスラム教徒が多いイラク・イラン・シリア・スーダン・リビア・ソマリア・イエメンの7か国を“懸念地域”と定めた上で、該当国の出身者がアメリカへ入国することを90日間禁止した。国内外で批判や懸念が高まる中、世界中から技術者やクリエイターを起用しているゲーム業界の大手各社からも米政府に抗議する声が相次いだ。また今月2日には、インディーレーベルDevolver Digitalが「GDC 2017」に出席できないゲーム開発者のためにデモ展示を代行すると発表した。

これを受けてワシントン州は、トランプ大統領による入国禁止命令を憲法違反と判断し、米政府の提訴に踏み切った。その後、トランプ政権の弁護を拒否したサリー・イエーツ前司法長官代行が更迭される騒動に発展するも、今月3日に連邦地方裁判所が原告の主張を認め、大統領令の即時停止を命じる仮処分を決定。これに対しトランプ政権側は、高等裁判所にあたる連邦控訴裁判所へ直ちに不服を申し立てた。結果、米政府が仮処分の決定を取り消す必要性を証明できないことに加えて、該当7か国の出身者が米国内でテロに加担した証拠はないとして、裁判所は9日に政権側の不服申し立てを退けた。これにより現状では上記7か国からの入国が引き続き認められている。なお、本件に関してトランプ大統領は、制度に則って連邦最高裁判所まで争う姿勢を示している。

現在、大統領令の執行が一時差し止められているとはいえ、トランプ政権の移民政策に募る各業界の懸念は絶えないようだ。Steamを運営するValveは現地時間10日、ワシントン州ベルビューにある本社にて業界メディアやジャーナリストを招いた討論会を実施した。PC Gamerによると、その中で同社CEOのGabe Newell氏と従業員のErik Johnson氏が、大統領令がビジネスに与える影響についてコメントしている。その一つがe-Sports業界に広がる波紋だ。人気MOBAタイトル『Dota 2』を運営するValveは国際トーナメントを毎年開催しており、外国選手へのビザ発行に少しでも悪影響がおよびかねないことを懸念している。事実、2014年に中国と東南アジアのチームがビザの発行を拒否され、大会への出場に影響がおよんだ事例が実際に起きているからだ。

右がGabe Newell氏
Image Credit: PC Gamer

e-Sportsの歴史はまだ浅く、産業として政府から十分に認知されているとは言えない。特にプロ選手の多くは未成年者であり、出身国によっては渡米手続きの際にビザの発行を却下されるケースも皆無ではない。この問題についてNewell氏は、「もしあなたがオペラ歌手だったらビザは容易に下りるでしょう。どういう人間か国務省も分かってくれるでしょうから。もしあなたがノーベル賞の受賞者だったら何者かなんて明白です」とコメントしている。ただでさえビザ問題による障壁が常に付きまとうe-Sports産業に、新たな大統領令は目の上の瘤にしかならないというわけだ。場合によってはアメリカ国外でイベントを開催する必要が生じる可能性も考慮していると、Johnson氏は付け加えた。

このほか、先日から大手各社の代表者が挙って社内メールを送信している外国人従業員への懸念に関しては、Valveも一部の従業員がすでに影響を被っていることを明らかにした。Newell氏は、「Valveで働く人間の中にも祖国へ帰れなくなった者がいます。彼らはここで何年も生活し税金を払い、スーパーボウルでニューイングランドを応援しています。それを彼らの足枷にしたくはありません。しかし、彼らが出国できないのが現状です。国外でイベントがある時も、“再入国できなくなるから行っちゃダメだ”なんて言わなくちゃいけない日がきてしまうかもしれない。この問題は決して仮想未来の従業員に関することではなくて、現在Valveで働いている実際の従業員の話なんですよ。そりゃあ心配になるでしょう」とコメント。連邦地裁の判決により一時的に効力が停止しているとはいえ、前代未聞の事態に各界の懸念が尽きることはなさそうだ。