Mobile of the Weekは、ここ数日の間に発売されたモバイルゲームのなかから光る何かを・際立つ要素を・特筆すべきものを(・場合によっては目に余るデキを)持つタイトルを紹介する週刊連載。第21回は、リャマを追いかけて雪山を滑走する『Alto's Adventure』、150もの難解なパズルに挑戦する物理アクション『iO』、終わりのないリズムゲーム『Planet Quest』。
リャマを追いかけ雪山滑走『Alto's Adventure』
『Alto's Adventure』は、素晴らしいトレイラーを披露した。Jon Thor "Jonsi" Birgisson氏(Sigur Ros)の「Kolnidur」をBGM(トレイラーのみ)にしたことで、ゲーマー以外のハートもつかんだのではないだろうか。2015年2月19日にiOS向けにリリースされた本作の価格は200円。デベロッパーは、カナダに拠点を構えるSnowman。
『Alto's Adventure』は、モバイルで人気の"エンドレスランナー"である。ステージクリアというゴールはなく、ただひたすら雪山をスノーボードで滑り続けるのだ。プレイヤーは逃げ出したリャマを捕まえてスコアを稼ぎ、点在するコインを集めながら、複数用意されているチャレンジミッションの達成を目指す。操作はとてもシンプルで、タップすればジャンプし、そのままホールドすると後方宙返りを繰り出す。この回転トリックと、三角旗をつなぐロープなどを利用したグラインドトリックを成功させることで、進行速度が上昇していく仕組みである。
『Alto's Adventure』の魅力は、なんといってもビジュアルの美しさだろう。ここ数年の間に登場したインディーゲームでよく見かけるアートスタイルではあるのだが、ゲーム内では時間が流れており、日が沈めば辺りは暗くなり、夜明けが訪れれば朝焼けを目にすることができる。また、雨や雪といった天候の変化もある。これらの変化は、障害物である岩や焚き火を見えにくくし、ほどよく難度を上げる役割も果たしている。
それでもただ滑り続けるだけでは退屈なのだが、もちろんステージ中にはプレイヤーに襲いかかる敵が登場する。そこでプレイヤーはトリックを繰り出してスピードを上げ、障害物を避けながら逃げ切らなければならない。何かに追われて焦りを感じるというのは、エンドレスランナーの定番といったところである。
チャレンジミッションを達成していくと、プレイヤーレベルが上がる。特定のレベルに達すると、異なる特徴を持ったキャラクターがアンロックされる。たとえば最初にアンロックできる女の子は、体重が軽いためスピードが出にくいものの、宙返りしやすいといった特徴がある。集めたコインはWorkshopで使い、特殊なアイテムのアップグレードなどをおこなえる。
『Alto's Adventure』は、『Tony Hawk's Pro Skater』に影響を受けた作品だ、と開発を手がけたSnowmanは説明している。たしかに、トリックを連続で繰り出せばコンボが発生しスコアは伸びていくのだが、まったく別のゲームだと思ったほうがいいだろう。トリックの種類は少なく、どちらかといえば失敗しないことに徹する作品である。ビジュアル以外は2012年に発売された『Ski Safari』に酷似しており、そこに『OlliOlli』風のグラインドトリックを加えたといったところだろうか。
幻想的なビジュアルは見事なので、『Ski Safari』を遊びつくしたという方でも、新鮮な気持ちでプレイできるだろう。
物理アクションパズル『iO』
ボールを出口まで転がせばステージクリア。このシンプルなルールに、いくつかのアイデアを加えることで、難解なパズルゲームに仕上がっているのが『iO』である。「Ouroboros」をテーマに開催された2012年のGlobal Game Jamで誕生した『Size Matters』に、より磨きをかけた本作がiOSにも登場した。価格は300円。開発を手がけたのはGamious。トレイラーには映っていないのだが、iOS版は半透明の4つのボタンを使って操作する。
プレイヤーが操るボールは、前後への移動だけでなく、拡大と縮小も可能である。ボールのサイズが大きくなれば重量が増し、坂道を下るスピードが上昇する。逆に小さくなれば軽くなり、登り斜面でも速度が安定する。トレイラーの56秒あたりのように、段差を上ることも可能。大きさと重さの変更をうまく活用し、150ものパズルを解いていくのだ。また、ボールのサイズが大きいうちはステージ全体を見渡せるのだが、小さくなればカメラがズームアップし視野が狭くなる工夫が凝らされている。単純な構造のステージでも、プレイし始めると全体が見えにくいため、そう簡単にはクリアできないのだ。
『iO』は最初から好きなステージを選んでプレイできる。クリアするたびにアンロックされていくタイプではない。どれを選んでも難しいことに変わりはないのだが、思わず「なるほど」とつぶやいてしまうような仕掛けがいくつも登場する。ほんの一部ではあるが、それらユニークなステージはトレイラーからも確認できる。
パズルゲームが得意だという方でも、全ステージ制覇は簡単ではないだろう。ボールの大きさや重さ、そしてタイミングも重視されるアクション要素が強いからだ。ときには運良くクリアできるということもあるだろう。たとえ実力であっても運であっても、困難を乗り越えたときの喜びは大きい。挑戦が好きならば、『iO』は適任かもしれない。まずはPCブラウザから無料デモをプレイしてみてはいかがだろう。ちなみに、Windows/Mac/Linux版はBundle Starsで販売中の「Trinity Bundle」にもふくまれている。
終わらない興奮『Planet Quest』
恋人と過ごす週末、仲間との食事、誰だって楽しい時間はずっと続いてほしいものだ。おそらく『Planet Quest』のデザイナーは、よほど『リズム天国』や『パタポン』のことが好きなのだろう。リズムゲームを、エンドレスにしたのだから。
『Planet Quest』は、イギリスに拠点を構えるインディースタジオOutoftheBitが開発を手がけた、エンドレスリズムゲームである。iOS版のみ配信されており、App Storeから無料でダウンロードできる。ゲームプレイの邪魔になるようなタイミングで表示されることはないのだが、広告を取り除くアドオンは100円で販売されている。
プレイヤーはUFOに乗ったエイリアン。レゲエの星やヘヴィメタルの星に訪れ、その惑星の動物を連れ去ることが目的である。1つの星で遊び続けるのではなく、曲が終われば別のジャンルの音楽の星に自動で移動する。とてもシンプルなつくりであり、ボタン一つでゲームがスタートする。
プレイヤーが守るべきルールは、動物だけを連れ去ることである。植物には触れてはいけない。タイミングが合えば「Perfect」となり、コンボが発生しスコアが伸びていく。多少ずれても失敗とはならず得点が加算される。このとき、動物の着ぐるみが脱げ、中の人が登場するという細かい演出はとてもかわいらしい。
本作から得られる興奮は、『Super Hexagon』や『Velocibox』のものに近い。ギリギリのタイミングでの入力を連続で成功させると、極度の緊張が続き、脳内物質の分泌を感じることがあるだろう。ただ、そういったミニマルデザインのアクションゲームは、「ただ難しいだけ」のものが多いのも事実。計算されていない作品を、App StoreやGoogle Playで目にすることも多い。
『Planet Quest』は、緊張と弛緩をうまく混ぜ合わせている。たとえばプレイヤーがレゲエの星に訪れると、独特のゆったりしたリズムが気持ちを落ち着かせてくれる。タイミングもとりやすく、コンボも狙いやすい。逆にドラムンベースの星の場合、リズムは速く複雑であり、タイミングを合わせにくいのはもちろん、うっかり植物を連れ去ってしまう事故も起こりやすくなる。ひたすらプレイヤーを苦しめ続け、クリア時のみに安堵を感じさせるのではなく、ほどよく混ぜられているのだ。また、1回のミスでゲームオーバーにならない点も良い。
『リズム天国』や『パタポン』が大好きな方はもちろん、それらを未経験だという方も挑戦してみてはいかがだろう。有料のゲームと比べると、見た目の派手さや、やりこみ要素は薄く感じられるかもしれないが、重要なのは遊んでいて楽しいかどうかだろう。
第21回Mobile of the Weekの最優秀作品には『Planet Quest』を選ぶ。ローンチトレイラーを見たとき、奇をてらっただけの作品かと思ったのだが、実際にプレイすると、よく計算された作品だと感じた。『塊魂』にインスパイアされたというキャラクターデザインはかわいらしく、動きを見ているだけでも笑顔になれる。現時点でAndroidスマートフォン向けには配信されていない。しかし、同スタジオの過去作はGoogle Playで入手できるので、いずれ遊べるようになるだろう。独自性が高い作品というわけではないのだが、iPhoneに入れておけば最高の暇つぶしパートナーになってくれるはずだ。