いま注目するインディーゲーム企画5選

お気にいりたちを紹介してきたIndie of the Weekも、スタートしてそろそろ1年が経とうとしている。一度歩みの方向を反転して、いままで目星をつけてきた作品たちがどうなったのか見てみよう。

Indie DBやSteam Greenlightをチェックするのはもともと趣味だった。Indie of the Weekが始まった2013年10月からはさらに多く、星の数ほどのインディーゲームを見てきた。毎週数十本が登場しては消えていくインディーゲームのカタログは、思わずうなるような作品から奇想天外なものまでよりどりみどりで、見ているだけで楽しい。延々とつづく河原を歩き、お気にいりの形の岩や素敵な泳ぎ方の魚を見つけ、それをひとりでにやにやとながめている感覚だ。

そんなお気にいりたちを紹介してきたIndie of the Weekも、スタートしてそろそろ1年が経とうとしている。一度歩みの方向を反転して、いままで目星をつけてきた作品たちがどうなったのか見てみよう。

 


 

紹介してきたインディーゲームのなかに成功した作品はいくつかあるが、もっともかがやかしい未来を手中におさめようとしているゲームをあげるなら、第1回目の『Hyper Light Drifter』だ。2013年10月に進行中だったKickstarterでは約64万ドルもの資金を獲得し、ソニーとの協議がうまく進んでPS4とVitaでの発売も正式に発表されている。海外の大手メディアでも何度も取りあげられており、いまもっとも注目を集めているインディーゲームのひとつだ。

正直にいえば、この作品は開発陣が挙げている『Diablo』や『ゼルダの伝説』のひな形をほぼそのまま使っている。アクション面で斬新な点はとくに確認できないの。だが、そんなことを忘れさせてしまう圧倒的な世界描写がゲーマーたちをノックアウトしたのは間違いない。はるか遠い昔に失われた奇妙な技術や知識の数々をちりばめたワールドと、それをあつめる孤独なコレクターの哀愁を紹介するこのトレイラーを見て、心を撃ちぬかれない者はそうそういないだろう。予定通りであれば今年中に、プレイヤーはこの魅力的なピクセルワールドに触れることができる。

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『Hyper Light Drifter』のような"メジャーなインディー作品"どころでみると、『No Man's Sky』はここ1年で絶対に外せないマストチェックのゲームだ。

これをインディーゲームとして紹介するとき、そのあまりにも規模の大きなゲームデザインのせいで違和感を覚えてしまうのだが、開発のHello Gamesのメインメンバーはたった4人であることをさきに指摘しておきたい。同作は「神」のような自動生成を中心にそえたSFワールド探索ゲームで、海のなかに住むちいさな海洋生物や巨大な恐竜から地域の生態系に始まり、その星の地形や天候や、惑星が集まってできる星系も、さらには宇宙全体を作りだしてしまう。しかも惑星から大気圏に突入し宇宙へ移行するときにロードはない。シームレスな宇宙なのだ。

開発陣はこの『No Man's Sky』の宇宙が本物の宇宙ほどに広がっていくとも、すべて探索するのに何十億年もかかるともアピールしている。そんな同作を見た『Gears of War』のCliff Bleszinskiは海外メディアEurogamerのインタビューで「彼らはゲームを完成させるのに血の涙を流すことになるよ」と発言しているが、まさしくそのとおりであると思う。しかし、それは裏を返せばたった4人のインディーデベロッパーがこんな巨大なゲームをつくるという構図自体に夢があり、魅力的に感じてしまうということだ。

betelgeuse_boss

とにかく好きなのだが、その理由をうまく説明できないゲームを紹介するのはむずかしい。かつて『Stealer』を発表し注目を集めたWinged Doomスタジオが『Betelgeuse』とよばれる新作を開発しており、その『Stealer』とおなじくむせかえるほど濃厚なサイバーパンクを描いている。

同作が『Binding of Isaac』のようなシステムを採用している点にはさほど興味をひかれなかったものの、掲載されていたメカメカしいgifイメージや映像をみると心がおどった。子供のころ、『クロノトリガー』の「黒の夢」や『大貝獣物語』の「バイオベース」を体験したせいか、あるいは映画『エイリアン2』のギーガー味たっぷりなエイリアンハウスとか伊藤潤二の「黴 かび」にでてくるへんなパイプだらけの部屋を見たせいか(後者はマシンじゃなくて胞子なのだが)、とにかく不気味でごちゃとしたSFダンジョンや場所が大好きだ。

そしてそういった場所が謎の生命体の血なんかでベッタリと汚れてしまう様子にも興奮する。『Rage』では間延びした構成でせっかくの素材を台無しにしてはいたが、デッドシティにある謎の肉体であふれかえった研究施設の一室など、idらしさをかんじさせてくれるグロテスク表現がプレイのモチベーションを高めてくれた。『Wolfenstein: The New Order』の宇宙ステージはあまりにも馬鹿らしい設定なのに物語や展開はシリアスでヒロイックな調子が寒かったが、映画『2001年 宇宙の旅』のようなどこかのっぺりとした月面基地と、白く無機質な壁や床に飛翔する血にはうっとりした。『Betelgeuse』のトレイラーでもそんな私のツボにはまる一場面をみることができる。

第33回目では、本当にそれだけの理由で同作を紹介してしまった。ただFacebookでの進捗をみるかぎりでは開発は順調に進んでいるようだ。いつの日か発売されプレイしても楽しい作品であることを期待したい。

 

 

対照的に、残念ながらなかなか開発が進まないインディーゲームもある。『The Hong Kong Massacre』は、Indie of the Weekにて紹介してきたなかで個人的に一番のタイトルだが、続報がない。本作をありていにいってしまうならば香港ノワール版の『Hotline Miami』、あるいはトップダウンビュー型の『男たちの挽歌』アクションシューティングだ。プレイヤーは地元ギャングにたった1人で抵抗する男をとおして血みどろの銃撃戦をくりひろげていく。

過激なゴア表現がありつつもどこか淡々としている暴力描写と哀愁のあるBGMからはノワール感がにじみ出ており、『Hotline Miami』に続くバイオレンスを探し求めていた筆者の琴線に強くふれた。このスピーディーでアグレッシブなガンアクションにさわりたくてうずうずしているのだが、同作は4月に待望のトレイラーを披露して以降、1枚のスクリーンショットしか公開していない。発売はもう当分さきのこととなりそうだ。

sunset

Indie of the Weekは基本的に発売前のゲームを紹介することが多く、実際に遊べないのでプレイ感覚がわからない作品はよくあり、中にはどのように遊べるのかまったくわからないゲームすらある。

Sunset』は『The Graveyard』の開発であるTale of Talesの作品でなければ、まず間違いなくKickstarterで6万ドルもあつめられなかっただろう。革命戦争のさなか、1時間だけ高級マンションへ働きにゆくハウスキーパーが主役の一人称視点アドベンチャーゲームだ。が、実際のプレイ映像どころか、彼女を通して具体的になにをするのかすらも現時点であきらかにされていない。『The Graveyard』に始まり『The Path』や『Fatale』なんかを生みだしたTale of Talesなのだから、きっとなにかとんでもない仕掛けがあるにちがいない、そんな好奇心を世界中から集結させKickstarterを成功させてしまったのである。

第35回目で同作を紹介した筆者も"釣られた"ひとりだ。だが実際のところ、英雄でなければ特殊部隊の隊員でもなく、ただの部屋掃除をする女性が、マンションの一室から戦争をながめる絵はそれだけで興味深い。Tale of Talesが「人と人の争いは悲しい。戦争はやめよう」みたいなお決まりの定型をもちいるはずもないので、どのようなサプライズやギミックが待ちうけているのか期待している。

 


実際にプレイしたゲームたちも多々ある。

今年春のBitSummit 2014特集で紹介した『野犬のロデム』はPS Vita版を購入して風呂に入るときのんびり遊んでいるし。『タロティカブードゥー』はたまに引っ張りだしてそのミニマルでありながら豊かという二律背反的感触を楽しんでいる。いまだにMSX1をどこかで買ってもいいとすら思っているくらいだ。まだあまりプレイできていない『Darkwood』や『The Fall』もある。一方で思ったよりもこじんまりとしてしまった『FarSky』には「期待しすぎだった」と結論した。

Indie of the WeekはAUTOMATONとなった現在ではインディーゲームニュースとゲームラインナップの紹介をする内容へとシフトしている。上掲のゲームたちに出会えたのがこの週間連載があったからなのかはわからないが、今後も"河原でみつけたお気に入り"を紹介しつづけ、そしてニヤリと笑っていたい。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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