『Hatred』 アンモラル主義全開の問題児アクション

一昔前の無秩序で暴力的な洋モノゲームをプレイしていたゲーマーにとって、『Hatred』はどこか懐かしいにおいがする作品だ。だがその過激すぎる内容が大きな注目を集めてしまい、海外では炎上に近い形で論争が巻きおこっている。

筆者がチェックした最前線のインディーゲームをピックアップしてゆく週刊連載Indie of the Week。今週は海外にて正式発表された『Hatred』を紹介する。一昔前の無秩序で暴力的な洋モノゲームをプレイしていたゲーマーにとって、『Hatred』はどこか懐かしいにおいがする作品だ。だがその過激すぎる内容が大きな注目を集めてしまい、海外では炎上に近い形で論争が巻きおこっている。

 


強烈なアンモラル

 

『Hatred』はポーランドのグリヴィツェに位置するインディーデベロッパーDestructive Creationsが先週発表したタイトル。斜め見下ろし型のアクションシューターで、一見すると白黒のモノクロビジュアル以外に特筆すべき点はないように見える。だが同作最大の特徴であり問題なのが、主人公が銃口を向ける相手が「一般市民」である点だ。

『Hatred』では、プレイヤーは文字通り一般市民の大量虐殺を経験する。現代の人類社会に絶望した名もない男が主人公であり、ニューヨーク郊外をうろつきながら罪のない市民へ向け憎悪の銃撃をくりかえすのだ。公式サイトでは彼がヴィラン(悪役)であること、戦う相手が一般市民や警察組織であることが明記されている。物語の鍵となりそうなのは、現時点で伏せられているが彼がいかにしてこのような憎悪をいだいたのかだ。

トレイラーも非常にショッキングな内容だ。「俺の名前なんかは重要じゃない。俺が今からなにをやるかが重要だ」と語る長髪の男が、大量の武器を装備して外にいる住民たちを突如撃ち殺しはじめる。許しをこう一般市民から無慈悲に命を奪う処刑シーンは、Rockstar Gamesの『Manhunt』シリーズに通ずるものがあるが、『Hatred』の相手はギャングなどではなくただの一般市民だ。道徳的には決して許されぬアンモラルな感覚が視聴者の胸を深くつらぬく。映像中には登場せず詳細ははっきりとしていないが、一般市民を盾とする非道な手段ヒューマンシールドに関する記述も公式サイトにはある。

 

 

予想通り海外では大きな論争が巻き起こっている。無名のインディーデベロッパーが投稿したゲームプレイトレイラーは、すでにYouTubeで100万回再生を突破しており、コメントも賛否両論だ。(10月21日追記 既存のトレイラーは削除され、新バージョンのものに差し替えられた。無断使用されたUnreal Engine 4のロゴがカット、さらに問いあわせがあったというニューヨーク警察のロゴにモザイク処理がかけられている)一般市民の大量虐殺という過激な内容を非道徳的だと指摘する人もいれば、これはゲームでありフィクションなのだからと考える人、冷静にテーマは置いておいてゲームの内容自体が面白いのかと問う人もいる。対して開発チームはこれはゲームであり、単に「大量殺戮のような病的なことを実行する男」をテーマにした作品であるとしている。また公式サイトでは以下のように説明している。

ここ最近、多くのゲームが上品で色鮮やか、政治的に正しい内容へと向かっている。単なるエンターテイメントというよりも高尚なアートのようなものを目指しているんだ。我々はこのトレンドとは反するものを作りたい。プレイヤーにピュアなゲーミングの楽しさを伝えたい

実を言うと筆者もこの手の残虐ゲームや映画作品は大好きであり、今作についてもフィクションと現実を分けて遊ぶことができれば問題はないと思う。だが"そうできない一部の人たち"に悪影響を与える可能性は否定できないし、『Hatred』が不謹慎なものかと問われれば答えは「YES」だ。シリアスに虐殺を描く『Hatred』は、この手のジャンルが好きなゲーマーでも手放しには賞賛できないのではないだろうか。アンモラルゲームの歴史にあらたな1ページが刻まれそうである。

『Hatred』を説明する上でもっとも例として挙げられているゲームは1997年発売の初代『Postal』だろう。コメディバイオレンスな『Postal 2』とは異なり、ひたすら一般市民を虐殺してゆく内容で、ゲームジャンルも『Hatred』とよく似たゲームだった。海外メディアPolygonのインタビューを受けたDestructive Creationsも「いまだに同ジャンルにおけるキングだ」と初代『Postal』について伝えている。

 


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毒々しいタコと歩くパン

 

Octopus City Blues』の体験版が配信された。同作は2013年9月にKickstarterで2万ドルの獲得に成功したプロジェクトだ。開発をクウェートのデベロッパーGhost in a Bottleが担当している。さえない中年男性Kaf Kafkaryanを主人公としたミニゲームありのアドベンチャーゲームで、Kafを通して舞台となるタコの町「Octopus City」を探索する。ゲームデザインに突飛な点はないのだが、筆者は同作の強烈な世界観とビジュアルにやみつきである。クトゥルフ神話とスチームパンクを融合させ、サイケデリックに仕上げている。主人公が"疲労回復およびリラックス効果"のあるというタコの血をキメる設定もいい。現在10ドルで予約販売されているが、ひとまず無料で手に入る体験版をダウンロードしてこの毒々しい2Dドットワールドを体験してみてほしい。

今週のインディーゲームを振り返るなら『I am Bread』にも触れないわけにはいかないだろう。手術シミュレーター『Surgeon Simulator』を開発したBossa Studiosがゲームジャムにて開発したタイトルで、またも馬鹿馬鹿しく笑えそうだ。パンを操作して部屋の中を暴れまくるという内容で、壁に張り付いたりジャムやバターを身にまとったりと、インタラクティブな遊びが豊富に用意されている点が面白い。3Dモデルと物理演算を設定しただけのような駄作シミュレーターが乱造されてから少し過ぎたが、あらためて面白い馬鹿シミュレーターとはなにかを王者が知らしめてくれそうである。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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