筆者の心に突き刺さったインディーゲームを毎週ピックアップしてゆくIndie of the Week。今週は"コンセプトだけ"なら非常に興味深い『Blood Bank』を紹介する。『ストリートファイター』や『StarCraft』、『Dota2』や『League of Legends』などのe-Sportsゲームでは、プロの選手やチームが磨いた腕を競い合い、勝者が賞金を手に入れる。だが『Blood Bank』はより直接的だ。野良のプレイヤーたちが敵を殺し金を奪い合う、荒くれ者の闘技場を目指している。端的に言えば、『Blood Bank』にてプレイヤーは敵をキルする毎にリアルマネーを手に入れ、キルされるごとに失うのだ。
キルデス崇拝のマネーゲーム
『Blood Bank』は、FPSおよびTPSスタイルでプレイすることができる対戦マルチプレイヤーゲームである。RPGのデザインを導入しており、限定製の武器やアーマー、トレーディングにアイテムドロップといった要素が盛り込まれている。トレイラーやスクリーンショットを見る限りでは、あまりクオリティに期待できない作品だが、最大の特徴が1キルごとにリアルマネーを獲得できる制度だ。
まず初めにプレイヤーは1ドルを支払い、インゲーム通貨となる1000クレジットを手に入れる。ゲーム内には1キル1セント、1キル1ドルなど異なるTireのサーバーが並んでおり、マッチ内でキルするたびにTireに沿ったクレジットを入手することができる。逆にキルされた場合、クレジットを失ってゆく。
チームプレイや仲間のためなどといった、生やさしい言葉は『Blood Bank』にはない。キルデス率がすべてであり、敵を殺さなければ勝利、すなわち金を手に入れることはできない。清々しいまでにキルのみに主眼を置いたゲームデザインである。ただしクレジットの取引が発生しないサーバーも設置されており、ゲームをプレイする者すべてがリアルマネーを賭して戦うわけではないようだ。
クオリティには大きな疑問が残る
キルごとにリアルマネーを手に入れる。非常に興味深いデザインを掲げた『Blood Bank』だが、クオリティ面には疑問が残る。ゲームエンジンはUnityを採用しており、広大なマップ内には車両や戦車、ヘリコプターまでもが登場するという。Steam Greenlightを通過した際には、弾丸の壁貫通や距離による減衰、カバーアクションも盛り込む。さらにSteam Workshopやマーケットプレイスの導入も予定されている。コンセプト過剰の予感がひしひしと感じられる。
またリアルマネーを賭して戦うゲームとなる以上、チーターの存在は大きな問題だ。『Blood Bank』では対策として、Valveのアンチチートシステム「VAC」の導入が挙げられている。1週間以内に5回の通報を受けると、チートしていないと証明するまでアカウントが凍結され、リアルマネーの取引も停止されるという。「現実的に考えて、どんなゲームにもハッカーは居る」との開発チームの前置きが、どうにも心許ない。
そもそも同作のゲームデザインの肝であるリアルマネー取引が、法律的に可能であるのかどうか明記されていない。Steam Greenlight上では、ユーザーから法律に関する質問のスレッドが立てられている。スレッド内での質疑応答によれば、『Blood Bank』の開発チームにはゲーム関係の法律家が付いており、18歳以下のプレイヤーも親の同意があればプレイできる環境が目指されているという。敵を撃ち殺すたびに現金を手に入れることができるゲームを子供がプレイする、しかも親が同意している……となれば、それこそ大きな倫理問題へと発展しそうである。
意欲あるコンセプトを見せている『Blood Bank』だが、夢想の産物に終わりそうな予感がするのは筆者だけだろうか。同作は2015年から2016年にリリース予定となっている。