『Yes, Your Grace』人民の要求を捌く 王の政務シミュレーションゲーム

もし王になったのなら、人々の願いをどこまで受けいれ、どこから切りすてるべきなのだろうか。4人の開発者チームBrave At Nightが開発中の同作は、市民たちの願いが殺到する、多忙な王の政務を描いた作品となっている。

最新インディーゲームを紹介してゆく週刊連載Indie of the Week。今週は『Yes, Your Grace』をピックアップする。古代であろうと現代であろうと、国を率いる身分になれば、人民の願いに耳を傾けることは大きな仕事の1つとなる。もし王になったのなら、人々の願いをどこまで受けいれ、どこから切りすてるべきなのだろうか。4人の開発者チームBrave At Nightが開発中の同作は、市民たちの願いが殺到する、多忙な王の政務を描いた作品となっている。

 


人民の願いを寛大に聞くか?非情になるか?

 

ゲームの舞台となるのは、飢饉と疫病が蔓延し、崩壊の危機を迎えつつある王国Davernだ。プレイヤーはDavernの寛大なる王「Eryk」となり、この暗黒期を乗りこえなければならない。ゲームはテキストアドベンチャーとストラテジー要素が融合した内容だ。Lucas Pope氏の入国管理官ゲーム『Papers, Please』の影響を受けており、ビジュアルやゲームデザインで似ている部分がある。世界観は中世スラヴ文化に影響を受けており、CD Projekt REDの『The Witcher』の名も挙げられている。リードゲームデザイナーは、同作の小説シリーズのファンだという。

ゲームは2つのスクリーンを軸にして進行する。玉座がある部屋「The Throne Room」では、毎日陳情にやってくる人民たちが待ちかまえている。入国待ちの人々ではなく人民が長蛇の列をなしており、彼らを次々と捌いていくわけだ。「The Map」はDavernの領土が表示され、それぞれの村の資源を管理したり、兵士を徴用したり、軍隊を目的地へ進軍させる。人民たちの要求を聞きいれ、それにあわせて資源を上手く管理し、時にはクエストをクリアしてゆく。これが同作の一連の流れとなる。

王様は大忙し。ほかにも魔獣を発見し倒す、大戦争に参加する、同盟国を裏切るなど、ゲーム中にはさまざまなクエストが登場し、時にシネマティックに描写される。また、発生したクエストは、王の日誌「The King's Tome」に記録され、ことの顛末を確認することができる
王様は大忙し。ほかにも魔獣を発見し倒す、大戦争に参加する、同盟国を裏切るなど、ゲーム中にはさまざまなクエストが登場し、時にシネマティックに描写される。また、発生したクエストは、王の日誌「The King's Tome」に記録され、ことの顛末を確認することができる

『Yes, Your Grace』のハイライトの1つが、人民たちの要求を聞きいれるか、聞きいれないかを決断するパートだ。村がモンスターから攻撃を受けている。食料が底を尽きかけている。疫病で家族が死にかけている。玉座に就くErykは、彼らの要求に、できうるかぎり公平な決断を下さなければならない。だが限られた資源と兵力で、すべての願いを聞きいれることは不可能だ。資源を無理に徴収すれば、その村の生産力は低下し、最終的には一揆が発生してしまう。時に寛大に、時に非情に。プレイヤーは人民たちの要求に、絶妙なバランスで対処する必要がある。

また王の決断を難しくするのが、ゲームに導入される予定の「Dynamic Perception System」である。これはプレイヤーの行動や対処によって、村人などキャラクターたちの"感じ方"が変動するシステムだ。たとえば、現在まで食料が豊富に供給されていた村があったとする。ほかの飢饉が広がりつつある村に輸送したり、あるいは軍の強化のため、彼らの食料を取りあげるとしよう。食料が豊富にあった村の民は、単純に食料が少ないとき以上に怒るのだという。大量に食料があった時代を、贅沢を忘れられなくなるのだ。

 


資源をベースにした王国運営シミュレーション

 

気高き野獣の王国Atanaや、魔法使いの国Coaril、屈強な民が住む極寒の国Berravia。ゲーム内にはDavern以外にも、さまざまな王国が登場する。キャラクターの種類も多数用意されているようだ。
気高き野獣の王国Atanaや、魔法使いの国Coaril、屈強な民が住む極寒の国Berravia。ゲーム内にはDavern以外にも、さまざまな王国が登場する。キャラクターの種類も多数用意されているようだ。

「The Map」から資源を管理することも、本作の要素の1つだ。城や町や村、鉱山や製木所や牧場は、それぞれ特定の資源を生産し、消費する。たとえば、牧場はもっとも重要な資源である食料を生産する。この食料の不足は、各施設の生産力の低下を招く。生産力の低下だけでなく、食料が乏しくなれば、突発的な飢饉に対処することも難しくなる。

もし自国の生産量だけで足りないのならば、他国の王や商人と資源を取りひきする手段もある。魔法使いを使役して収穫力を増強するといった、ファンタジックな要素も登場する。魔法で家畜を病気から守ったり、儀式で人々を災害から守ることも可能だという。

軍隊同士の戦闘は『Yes, Your Grace』の中心要素ではないが、自国の民を守り、時に侵略し資源を奪うために必要な手段だ。モンスターハンターを雇って化け物から村を守ったり、敵国の軍隊と戦ったりすることができる。逆に敵国の牧場や村を占拠することも可能だ。町をアップグレードし鉄工場を開設すれば、強力な兵士を徴用できるようになり、敵との戦いで優位に立つことができる。

Brave At Knightは現在、Kickstarterにて開発資金6000ポンド(約110万円)の獲得を目指すクラウドファンディングを実施中だ。Steam Greenlightにも登録されているが、それほどの注目は集めていないようである。一見地味なゲームだが、『Papers, Please』などに影響を受けたデザインと、波乱に満ちた王の日常は興味深い。同作は2015年8月にPC、Mac、Linuxで発売予定となっている。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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