最前線のインディーゲームをピックアップする週間連載Indie of the Week。今週は開発中のタイトル『The Legacy』を紹介する。人気を博した『Arma 2』のMod「DayZ」から始まり、ここ数年で数えきれないほど登場したサバイバルゲーム。同ジャンルの舞台設定といえば、ゾンビやアポカリプスものが定番だが、『The Legacy』の設定はそのどちらでもない。同作は1人の人間が再び立ちあがりつつある人類をひきいる、「ヒトの歴史の始まり」を描くサバイバルゲームだ。
史上初の人類社会の生誕を描くサバイバルゲーム
『The Legacy』の主人公は、暗闇のなかで目覚めた1人の人間だ。なんの事前説明もないまま自然のなかに放りこまれた主人公は、ひとまず飢え死にしないよう、魚を捕るなどしてサバイバル生活を始めることになる。そうしていると、主人公は言葉の通じない人間の一族と出会い、交流するうちに彼らの一員となる。家族を持ち、発言力のある地位につくようになり、一族をひきいて繁栄させ、そして死んでゆく。開発陣の記した概要を読みとるかぎり、これが『The Legacy』のおおまかな流れだ。プレイヤーの目的は、1人の人間として生をまっとうしつつ、一族を繁栄させることにある。
ほかのサバイバルゲームと比較すると、本作の舞台設定はかなり曖昧だ。概要を読んでみると、おそらくゾンビが闊歩しているわけでも、核戦争で倒壊したビル群があるわけでもない。しかし主人公ですら、ゲームの舞台がどこで、いったい自分が何者であるのかを知らない。「もう空腹は感じない。動くのをやめて考えてみる。君はどこにいるんだ?君はなにがしたいんだ?君はだれなんだ?」と、プレイヤーに語りかける。
『The Legacy』は、そんな何も持たない白紙の人間が「人類の始祖」となるゲームだ。暗闇のなかから生まれた個人であった主人公が、1つの社会を形成する。ゲームプレイの積み重ねによって、プレイヤーは自分が何者であるのかを知るのである。いや、みずから刻むというべきだろうか。
君は自分がどこにいるのかを理解した、君はヒトの歴史の始まりにいる。史上初の人類だ。史上初のヒトの集合体だ。歴史には記されている。君が人類を構築し、形づくった可能性が。君は自分が誰であるかを理解した。君は始まりだ(『The Legacy』 Indie DB Summaryページより)
「遺伝子プール」も考慮に入れる一族のサバイバル
ゲームにはスタミナの概念が存在しており、走るなどのアクションによって消費される。食料と水分を十分に取り、また衣類を着て寒さをしのぐなど、環境に対応することで、スタミナの浪費を抑えることができる。より詳しく記すと、主人公をふくめ各キャラクターが固有の「DNA数値」を持っており、これと環境ごとに発生している「環境数値」によって、スタミナへの影響度が決定される。
この「DNAシステム」が、その名の通り遺伝的な要素を持っている点は興味深い。たとえば、現在の居住地では将来的に資源が不足する見通しのなか、寒冷地方にまだ豊富な食料や木材が残っているとしよう。移住せず徐々に資源を食いつぶしてゆくのか、いまある資源を消費して寒さに耐える衣服を作るのか。開発陣が提示しているもう1つの手段は、"寒さに弱い一族の者たちを見捨てる"ことだ。数世代先の一族の移住を見越して、一族のなかで寒さに弱い者を殺し、寒さに強くなる遺伝子プールを目指すのである。移住は本作における最大のシーンであり、どうすれば一族が生きながらえるかを、プレイヤーは考えなければならない。
このほかゲーム内では、一族と交流するなかで彼らの言語を覚えるスキルシステムや、伝染病や火山噴火、気温や水位の上昇といった、自然災害が用意されている。UI非表示のゲームを目指しており、スクリーンショットを見るかぎりグラフィックは上々だ。ゲームエンジンには、Unreal Engine 4を採用している。
『The Legacy』の発売日は未定となっている。巨大なテーマである「人類の始祖」や複雑なDNAシステムを、ゲーム上で実現できるのかが『The Legacy』最大の鍵となりそうだ。同様のテーマの作品といえば、恐竜たちが生きる時代に部族を形成する『The Stomping Land』を思いおこす。同作や有象無象のサバイバルゲームと同様に、『The Legacy』がこのまま埋もれて歴史の影に消えないことを願いたい。