他人のスマホを覗いて失踪した持ち主の行方を追うホラーADV『Sara is Missing』無料デモ公開中

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第324回目は『Sara is Missing』を紹介する。

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第324回目は『Sara is Missing』を紹介する。

見知らぬ他人のスマートフォンを拾うと、中を覗いてみたくなる衝動に駆られはしないだろうか。ロックが掛かっていなければなおさらだ。ちょっとした好奇心から写真やビデオを覗いていくうちに持ち主の趣味や交流関係が見えてきたりして、なんだか持ち主の人柄を知れたような気になる。そしてさらに情報を漁っていくと思わぬ秘密に行き当たり、思わずぞっとしてしまう。こうした覗き趣味的な体験を与えてくれるのがホラーアドベンチャー『Sara is Missing』だ。

『Sara is Missing』の開発を担当しているのはマレーシアのデベロッパーであるMonsoon Lab。今年11月にはInternational Mobile Gaming Awards Southeast Asia 2016でBest Upcoming Game賞を受賞した期待作だ。現在Windows/MacおよびAndroid向けの無料デモ版が公開されており、製品版のリリースは2017年初旬を予定している。本稿執筆時点ではSteam Greenlight にも登録中。デモ版はPCとモバイルの両方でプレイできるが、スマートフォンのインターフェイスを使ったゲームという設計上、モバイル版でプレイした方がはるかに臨場感が出る。

プレイヤーが拾った持ち主不明のスマートフォンにはロックが掛かっておらず、持ち主と思わしき女性と猫を背景にしたホーム画面が映る。通知を見ると「Welcome back, Sara」というメッセージが入っている。なるほどサラが持ち主の名前なのだろう。メッセージの送信元を見ると、この端末のAIであるIRISからであった。IRISはSiriやCortanaのようなアシスタント機能であるが、明確な意志を持って発言しているようだ。このAIは持ち主であるサラの行方を追っており、プレイヤーに協力を乞う。プレイヤーはIRISと協力し、端末内のSMS、メール、写真、ビデオ、コンタクトリスト、メモ帳などからサラのプライバシーに踏み込んでいく。

彼女の交友関係を調べると、仕事を優先するあまり愛想を尽かした元彼、破局したばかりのサラを心配してくれる親友、下ネタしか言わない陽気な男友達、娘の進路を案ずる母など、どれも現実にいそうな人物ばかりの存在が明らかに。彼女のフォトギャラリーからは元彼との思い出やサラの嗜好が見えてくる。その中には不自然な情報も含まれており、そこからサラの行方を追うことができそうだ。

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デベロッパーのMonsoon Labは同じスマートフォン・シミュレーターの『Replica』からインスパイアされたことを明言している。『Replica』と似て、手がかりとなる文章や写真を長押しすることでストーリーが前に進む。ただし『Replica』がテロの容疑者の端末を調べる推理物であったのに対し、『Sara is Missing』はホラーアドベンチャーとなっている。またピクセル調のビジュアルであった『Replica』に対し『Sara is Missing』のビジュアルは本物のスマートフォンのインターフェイスに近く、端末内の写真や動画はすべて実写だ。本物のスマートフォンを操作しているような感覚から生まれる「日常と変わらない設定の中に現れる異常な存在」というホラー設定に現実味をもたらすためにも、FMV(full motion video)の導入は不可欠だったのだろう。

『Replica』には映画作品へのオマージュが含まれており、物語を理解するには元ネタの知識が必要とされていた。『Sara is Missing』にも呪われたサイトや動画といった「リング」からの派生ネタが含まれているが、少なくともメインストーリーを理解する上では元ネタの知識は問われない。デモをプレイした限りにおいて、惜しむらくは作中の動画に使われている映像の多くが「どこかで見たことのある」素材ばかりで、怖がるよりも先に「どこで見たんだっけ」の方に気が取られてしまう可能性がある点か。

テキストチャット形式で物語を進めるゲームとしては『Emily is Away』や『Lifeline』シリーズとも比較できる。特に話し相手が何を考えているのか分からない不安感は『Emily is Away』から着想を得たのであろう。こちらも開発陣が影響を受けている旨を明示している。日本では知名度が低いが、Telltale Gamesがパブリッシュした『Mr. Robot:1.51exfiltrati0n』とも雰囲気が似ている。

他人に見られたくないポエムも。そしてサラはかなり無理のある姿勢でプレイするゲーマーのようだ
他人に見られたくないポエムも。そしてサラはかなり無理のある姿勢でプレイするゲーマーのようだ

同じくデベロッパーのMonsoon Labが影響を受けた『Her Story』のように、実写のFMVシーンでは役者を起用している。これはホラー演出にリアリティをもたらす上でも役立つだろう。また実写を導入することで「The Blair Witch Project」や「Paranormal Activity」といったファウンド・フッテージ物の雰囲気を作品に加えている。なお作中には惨忍なシーンが含まれているため、暴力描写が苦手な方は注意が必要だ。

『Replica』『Emily is Away』『Lifeline』『Her Story』、そして和製ホラーやファウンド・フッテージ物の映画。『Sara is Missing』は既存作品のミクスチャーとして新しいホラー体験を目指す意欲作であることが分かる。特に呪いのビデオやカルト教団といった古風なホラーと、「何を考えているのか分からないAI」という近未来SF風のホラー対象を同時に描いている点は新鮮である。だが「他人のスマホを覗く」という設定上、登場するキャラクターたちはプレイヤーと接点がない人たちばかり。「彼らの身に危険が及んで欲しくない」と思わせるだけのキャラクター描写が出来るのか、それともあくまでプレイヤー自身に及ぶ危害に焦点が置かれるのか、製品版での展開が楽しみだ。

音楽リストに一曲しか入っていないのは不自然に感じるが、ここは「端末のデータが85%近く破損している」という設定で解消している
音楽リストに一曲しか入っていないのは不自然に感じるが、ここは「端末のデータが85%近く破損している」という設定で解消している

本作は複数のエンディングが用意されており、公開されているデモ版では分岐の途中までを体験できる。デモ版は丁度良いところで終わるため、製品版で描かれるであろう続きが気になるところ。『Replica』『Emily is Away』『Lifeline』といった先駆者たちが切り開いたジャンルをどこまで進化させられるのか、製品版の完成が待ち遠しい。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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