エイリアンか、NASAの陰謀か。失踪した兄弟を追うミステリーアドベンチャー『To Azimuth』が開発再開

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第305回目は『To Azimuth』を紹介する。

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第305回目は『To Azimuth』を紹介する。

『To Azimuth』は1970年代の米国アラバマ州を舞台に、エイリアンに誘拐された疑いのある兄弟の行方を追うミステリーアドベンチャーだ。目や口のないローポリゴンで10頭身のキャラクターがミステリアスな作風を際立てる。

ベトナム帰還兵であるイーライは、3年間の戦場生活がもたらしたトラウマにより薬とアルコールに頼る日々を送っていた。不安定な精神状態により警察の世話になることも多い彼だが、兄妹スザーナの支援もあり、工場での仕事につき回復の兆しを見せていた。そんな彼がある日忽然と姿を消す。捜索をはじめる様子のない警察に痺れを切らしたスザーナは、もう1人の兄であるネイトと共にイーライを追う中で、イーライが地球外生命体にさらわれたとする手がかりを見つけ出す。

本作のゲームデザインおよび脚本を担当したZach Sanford氏は幼いころからSFモノに愛着をもっていた。とくに宇宙人による誘拐劇についてはテレビドラマの「X-ファイル」に影響を受けている。ただしSanford氏は本作を単なる誘拐物で終わらせる気はなく、NASAなどの宇宙機関、情報操作、陰謀論といった壮大な物語要素から、家族との絆や精神疾患といったプライベートなテーマまで幅広く盛り込まれている。

プレイヤーが操作するのはネイトとスザーナの二人。それぞれ独立しているが、途中で交差し合う物語となっている。ネイト編で下した決断はスザーナ編に影響し、その逆もまた然り。捜査にあたりさまざまなロケーションを探索し、パズルを解きながらイーライの情報や手がかりを探し出す。ゲームをクリアする上ですべての手がかりを見つけ出す必要はないが、得られた情報量によって物語が変動するとのこと。また、プレイヤーは会話中に提示される選択肢のほか、ドアを「蹴りあける」か「鍵であける」かといった会話外での行動も選択していくことで物語に介入できる。

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本作の舞台となる町「Musgrove」はアラバマ州に実在するSand Mountainという地域をベースにしている。脚本担当Sanford氏の母方の親族がその地域で暮らしており、幼少期には夏の多くの時間をそこで過ごしたという。家族との思い出の場であると同時に、差別や偏見がはこびる地域でもあり、同性愛者であることをカミングアウトしている彼にとっては複雑な想いが巡る場所となっている。インスピレーションになったのは、Sand MountainとSanford氏の個人的なつながりだけではない。Sand Mountainでは過去に畜牛の変死体がなんども見つかっており、一部SFファンの間ではエイリアンの仕業だと推測されてきた。また、近くにはNASA関連施設が存在することも、本作の舞台として選んだきっかけとなっている。

開発を担当している[bracket]gamesは、Zach Sanford氏と、彼の兄弟でありミュージシャンのNeutrino Effectによる2人チーム。過去作『Letters To Babylon』『[out]』では極めてプライベートな「個人」の物語を、そして前作『Three Fourth Home』では「家族」にテーマを広げたストーリーを展開した。個人のトラウマや家族との関わりというのは、つねに彼の作品の中心にあったが、本作はそこからさらにスケールを拡大させた作品になるだろう。

『To Azimuth』は2014年にKickstarterでのクラウドファンディングを実施したものの、目標資金額に達せず開発を一時中断していたが、前作『Three Fourth Home』でパブリッシャーを担当したDigerati Distributionのサポートを得てプロジェクトを復活させた。対象プラットフォームはPC。発売時期は2017年初旬を予定している。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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