玉と玉による玉取り合戦。ミニマルデザインの1vs1対戦『BOTOLO』が開発中

第295回目のIndie Pickで紹介する『BOTOLO』は、心理戦を醍醐味とした1vs1のマルチプレイ対戦ゲーム。一見地味に思えるが、万華鏡のようなカラフルなアートワークのおかげで視覚的な退屈さは感じない。

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第295回目は『BOTOLO』を紹介する。

『BOTOLO』は心理戦を醍醐味とした1vs1のマルチプレイ対戦ゲーム。『Rocket League』のように、シンプルなゲームプレイと奥深さの両立を目指したタイトルとなっている。プレイヤーが操作するのはボール、奪い合うのもボールという「玉と玉による玉取り合戦」で一見地味に思えるが、万華鏡のようなカラフルなアートワークのおかげで視覚的な退屈さは感じない。

「旗取り」と「陣取り」のミックスルール

ルールは簡単で、各プレイヤーはフィールド上にある小さなボールを奪いあって自分の陣地まで運ぶ。そのまま自陣内で一定時間ボールをキープするか、ボールを取り返そうとする相手をブロックすれば得点。先に陣地の過半数を手に入れた方が勝利となる。FPSのマルチプレイで例えると、キャプチャー・ザ・フラッグ(旗取り合戦)とドミネーション(陣取り合戦)のミックスルールのようなもの。

ボールを奪う攻撃側は、相手に近づいてアクションボタンを押すとボールを盗むことができる。防衛側はタイミングよくシールドを展開してブロックすることが可能。ただし、連続してブロックできる回数は限られており、むやみにブロックしているとシールドがなくなって簡単にボールを奪われてしまう。「フェイントしてシールドを消耗させる」「ボールは取らせておいて相手の陣地内に先回りする」といった心理戦がカギとなる。操作方法はアナログスティックでの移動とボタン2つのみ。操作がシンプルだからこそ、駆け引きに集中できる。操作スキルではなく、観察力が勝敗を分ける。開発者のIan Snyder氏いわく「イメージできることは全てアウトプットできるべき」。プレイヤーが取りたいアクションを直感操作で実現できるゲーム性を目指しているのだ。

画面中央でプレイヤー同士がボールを奪い合っている様子。
画面中央でプレイヤー同士がボールを奪い合っている様子。

初心者から熟練者まで同じ土俵で競い合う

Snyder氏のこだわりが生まれた背景には、オンラインマルチプレイゲーム特有の「高いハードル」が関係している。FPSマルチプレイでは、反射神経、相手に照準を合わせるエイム力、空間認識力、操作そのものの反復トレーニング。RTSでは戦略以前に最低限のAPM(1分間の操作量を示す指標)が求められるなど、心の読み合いで勝負できるレベルに辿りつくには多くの時間を費やす必要がある。これでは時間のないプレイヤーはゲームのフルポテンシャルを体験することができない。この現実を受けてSnyder氏は「フィジカルなスキルを磨くのに必要な時間を減らして、すぐに心理戦を楽しめるようにしたい」と語っている。

また、公式ページのブログ上では、マルチプレイゲームに必要なスキルを「言語」に例え、下記のように述べている。

マルチプレイゲームを遊ぶのに必要なスキルは言語のようなものだとイメージしてほしい。そして他のプレイヤーと遊ぶとき我々はゲームのスキルを使って会話している。たとえばあなたの大好きなゲームを一緒にプレイするとしよう。あなたはすでに何か月もかけてゲームの言語を学び、操作の文法を操り、美しいポエムのように流れるようなプレイができる。
それに対して僕は初心者だ。まだ発音もおぼつかないし、単語の意味もわからない。いつ使えばよいかも定かではない。支離滅裂の片言でつぶやく僕が上達するのを、辛抱づよく待ってもらうことになる。僕が負けても、あなたの方が圧倒的にうまかったから、というザックリとした要因しかわからないだろう。あなたが何を言っているのかも理解していないのだから。

このような思いをせずに、初心者から熟練者まで同じ土俵で戦えるようなゲームにしたい。Snyder氏はインスピレーションを受けた作品として『ストリートファイター』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズを挙げているが、ゲームデザインへの思想は大きく異なる。『BOTOLO』が目指しているのは、プレイヤーが自分を表現するための豊かさを残しつつも、単語や文法は簡単に覚えられる言語なのだ。

Ian Snyder氏のトレードマーク

Ian Snyder氏は個人開発のゲームデベロッパーで、これまでにもシンプルな操作のフリーゲームを10作以上公開してきた。遠心力と重力を利用したジャンプアクションで球体を飛び移っていく『Sun Hop』、『BOTOLO』のビジュアルの原点とも思える迷路脱出ゲームの『Thirteen Gates』。そして2014年には初の有料タイトルとなる『The Floor is Jelly』。こちらも移動とジャンプだけのシンプルな2Dアクションで、その絵本のようなやさしい色づかいとアンビエントなサウンドトラックは、本作にも通ずるSnyder氏のトレードマークといえよう。

ミニマルデザインでシンプルかつ奥深いゲーム性を追い求めた作品としては、Action Button Entertainmentの『Videoball』がある。プレイヤーは動く矢印から弾を発射し、ボールに当ててゴールまで運ぶというもの。『BOTOLO』のように「誰でもプレイできるマルチプレイ」を目指したタイトルだ。残念ながら、オンラインとローカル対戦両方に対応した『Videoball』と異なり『BOTOLO』はローカル対戦のみ。1人プレイの際はCPUとの対戦になる。Snyder氏によると、1人プレイ時にも相手との駆け引きを楽しめるよう、AIはプレイヤーの動作を学習していくという。また、プレイヤーが操作するボールには11種類のクラスが用意される予定で、クラスごとの戦略を編み出す楽しみもありそうだ。リリース時期は2016年内を予定しており、対象プラットフォームはPC(Windows/Mac)となる。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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