ロシア産のアイドル管理シミュレーション『Idol Manager』は、日本アイドル界の“裏側”をシビアに描く

発売前や発表されたばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第266回目は『Idol Manager』をピックアップする。

発売前や発表されたばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第266回目は『Idol Manager』をピックアップする。

『Idol Manager』は、日本のアイドル業界をモチーフとしたシミュレーションゲームだ。プレイヤーは小さな事務所のマネージャーとなり、新たな時代を担うスターの原石を見つけ、プロダクションを大きくしていく。日本で発売されているアイドルゲームといえば、アイドルを育成しつつ信頼関係を築き、ステージで成長した姿を見るという二人三脚シンデレラストーリー型のコンセプトのものが多いが、本作はあくまでアイドルをビジネスライクに“管理する”のが目的だ。アイドルの輝かしい部分のみならず、生々しい部分や暗い部分といった“裏側”も描かれた作品となる。開発者のMax Rogozin氏によれば、本作はそういった要素をはっきりと描くため「対象年齢18歳以上」を想定し開発されているという。Rogozin氏にうかがった話をまじえつつ、ロシアで生まれた興味深いアイドルゲーム『Idol Manager』のゲーム内容を紹介していく。

『Idol Manager』では、週始めにアイドルたちのスケジュールを決めなければならず、これがゲームプレイの基本軸となっている。仕事をこなしてお金を稼いだり、トレーニングで能力を鍛えたり、あるいはプロモーション活動を通じてファンを増やしたり。スケジュールを決めると、その予定に沿って1日1日が展開される。1日の始まりにはアイドルとの会話があり、昼にはスケジュールをこなし、夜には経営の仕事をする。最終的な目標は管理しているアイドルを「Buzz(話題)」のステータスに導くこと。すべてのファン層に好かれる必要はないが、戦略的な展開を進め、できるだけ多くの利益を集め、Buzzのポジションまでアイドルを押し上げることが求められる。

朝の会話ではさまざまなイベントが発生する。挨拶のような軽い内容のものから、悩みを抱えるアイドルの進路相談といった重い話まで。プレイヤーは彼女たちの話に耳を傾け、どう答えるのかを決定しなければならない。重い会話での選択肢が今後の活動に影響を及ぼすのはもちろん、軽い会話の中でも「君は次のシングルでセンターにするね」と軽はずみな発言をし約束を破るようなことをすれば、アイドルは不信感を抱くこととになる。

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朝の会話の開始時のステータスによって、イベント内容は多岐にわたり変化する。プレイヤーのこれまでの言動やアイドルのコンディションが低い状態の時は、スキャンダル報道が出回ることもある。スキャンダルを通じてファンとの絆が深まることもあるが、企業とCM契約を結んでいると多大な賠償金を請求されることもあり、また基本的にはアイドルの評価を下げるため避けておきたいイベントのひとつだ。ちなみにプレイヤーはアイドルと個人的な関係になることも可能だが、こういった行動もスキャンダルを生むことにつながる。関係を結んだ際に、グループ内にプレイヤーと関係が良くないアイドルがいると、週刊誌へリークに走ってしまうこともある。個人的な幸せを追求し事務所を破滅へと導くか、あくまでビジネスとしてアイドルにかかわっていくか、すべてはプレイヤーの手に委ねられる。

アイドルのコンディションが悪く、ファンが熱狂的かつファンの信頼度が低い状態だと、ストーカーが出現するといったイベントも発生する。このストーカーに対する対処もプレイヤーが選ぶことになり、その選択肢によって結末は大きく変化する。ほかにもグループ内派閥の対立や、グループ内のいじめといったイベントも。こういったイベントは、アイドル同士の関係悪化状態を放置したり、下積みのない女の子を突如グループに入れセンターにするなどアイドルを平等に扱わなかったりすると発生する。アイドル間の人間関係のケアは特に注意すべきポイントだ。仲違いのみならず、アイドル同士が恋愛関係に発展してしまうこともあり、慎重にパラメータをチェックする必要がある。問題が発生せずとも、グループの成熟度はCDのクオリティにも影響が出る。

昼の仕事パートのオファーは、単に受けるのみならず、プレイヤーが企業と交渉することも必要となる。オファーの条件を丸呑みし続けイメージに合わない仕事を振ればアイドルのブランドは下がることになるし、逆に高望みをすると企業からは嫌われ仕事を失うことになる。良好な関係を築きながら良い条件を引き出すという、交渉人としての能力が試されることになる。また、受ける仕事によってアイドルのブランドイメージは左右される。肌の露出が多い仕事を受ければ、収入は良くないが認知度は手っ取り早く向上する。一方で“そういったアイドル”というイメージが根付いてしまい、今後の仕事の方向性が狭められることになる。かといって仕事がなければ事務所の運営は続けられない。どのアイドルをどういった路線で売っていきたいのかという戦略を、一貫して持つことが重要になりそうだ。

ここまでは仕事のマネジメントに言及してきたが、アイドルのサポートをしていくこともマネージャーの重要な仕事だ。アイドルの「スタミナ」は体力的なものと精神的なものとに分かれており、その両方をサポートしていくことが肝心となる。当たり前だが、体調を崩してしまうと何も行動はできなくなる。大きな仕事にはその分体力も必要となるので、そういった点も踏まえながらスケジュールを組んでいく必要があるということだ。精神的なスタミナは体力よりも慎重に管理すべきパラメータとなるようで、悪化した場合は悲惨な事態に陥ってしまう。また、アイドルごとに適性があり、それらを考慮しなければならない。露出に抵抗のあるアイドルにグラビアの仕事をさせていくと、消耗も激しいということだ。

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夜の経営パートでは、さまざまな計画を練ることができる。施設のアップグレード、スタッフの整理、オーディションの開催、CDやライブ、コンサートの企画をおこなう。これらの計画はかなり細かい部分まで設定が可能だ。例えばシングルCDをリリースする際には、曲の方向性を決めるのはもちろん、プロモーション費用の規模、アイドルの能力に適したフォーメーションを考える必要がある。プロモーションの方法も多岐にわたり、握手会を開くものから、あえてスキャンダルをおこして注目を集めるといったものまである。

ここまで色々な要素を紹介してきたが、一貫して言えるのは、プレイヤーがどのようなアイドルを生み出したいかを常にイメージすること、アイドルのプロデュースをあくまでビジネスとして考えられるシビアさが求められる。本作の趣旨は育成ではなく、あくまでマネジメントなのだから。

開発を手がけるのはGlitch Pitch。ディレクターでありプログラマーでもあるMax Rogozin氏はロシア在住の“アイドル研究家”だ。開発のきっかけは、日本のアイドルのシーンを追いかける中で、日本で描かれるアイドル像があまりにもクリーンで美しすぎることに違和感を抱いたこと。もっとリアルなアイドル像を描けるゲームを作りたいという想いから、本作が生まれたという。ちなみにRogozin氏のイチオシはHKT48だそうだ。

ゲームはデザイナーのJustin Kuiper氏やアーティストのAiwa氏とともに少人数体制で開発中。近いうちにKickstarterのキャンペーンも開始予定だという。話を聞いた限りでは、すでにいくつものアイディアがシステムやデザインにうまく落とし込められており、「単にファンが考案したアイディア」に留まらないクオリティで制作が進行されている印象を受ける。ロシアのアイドルファンが描く日本のアイドルはどのようなものなのか。ぜひ続報に期待したい。

【UPDATE 2016/7/22 9:30】 開発者のMax Rogozin氏は、「約束はできないが、日本語のリリースは絶対にやりたい」と伝えている。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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