レベルが上がるのではなく”年を取りレベルが下がっていく”老後RPG『To Ash』が開発中、「死」を受け入れるか?それとも恐怖するか?

発売前や発表されたばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第201回目は『To Ash』をピックアップする。

発売前や発表されたばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第201回目は『To Ash』をピックアップする。本作は「RPGツクールMV」を使用して開発されているオーソドックスなロールプレイングゲームだ。デフォルトの素材を多用したよくあるRPGツクール作品に見えるが、本作は主人公のレベルが年と共に下がっていくユニークな”老後RPG”として開発が進められている。

開発者のKyle Ballentine氏によれば、『To Ash』の主人公「ディミトリ(Dimitri)」は、ゲーム序盤からすでに強力なステータスと様々なスキルを有している勇猛な戦士だという。しかしディミトリは死期が迫りつつある老齢の人物でもあり、彼はゲームの進行と共に年を取ってスキルを失い、徐々に”弱体化”していく。まさに「灰へ(To Ash)」。若者が旅に出て経験値を集め強くなっていく通常のRPGとは真逆の構造だ。キャラクターの能力が年齢と共に変化する作品が少なくないが、『To Ash』のような老後だけにテーマをしぼった作品は珍しいといえるだろう。

海外メディアPolygonの取材やトレイラーによれば、Ballentine氏は生粋のゲーム開発者ではなく、心療内科で働くセラピストであるそうだ。普段は統合失調症やうつ病および躁うつ病の患者、自殺傾向のある人物や不安神経症を患っている人たちに対処している。本作『To Ash』は死を間近にした人の心情を描く作品であり、Ballentine氏は人生の目的や余生について考えるのは誰にとっても重要だと伝えている。「正しい選択なんて無い。でも死の恐怖に脅かされず生きていけるのなら、より現実にとどまることができる」。

徐々に弱りゆくディミトリは敵と戦うために”他人の助け”を借りなければならない。限られた時間のなかでプレイヤーはフィールド上を探索し、一緒に戦ってくれる数少ない仲間を見つけなければならないという。このデザインは、他人の助け無しには生きていけない老後の人生を映しだしているようにも思える。

『To Ash』は6時間から10時間でクリアできる作品として開発が続けられており、戦闘要素が存在しないアドベンチャー版も用意されているという。ビジュアルやサウンドがハイクオリティな作品となる気配はいまのところ感じないが、老後というユニークなテーマに気を惹かれたのならプレイしてみてもよさそうだ。PC/Mac向けに2016年2月リリース予定となっている。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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