『The Town of Light』主人公は精神病患者、選択によって“病気”が変化。精神病院の闇をえぐりだすサイコホラーアドベンチャー

先週末の開催に合わせIndie Pickは「BitSummi 2015特集」とし、編集部がプレイした興味深いタイトルたちをピックアップしてゆこう。第6回目は『Samorost』を取りあげる。

発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆくIndie Pick。7月11日から7月12日にかけて、京都でインディーゲームの祭典「BitSummit 2015」が開催された。それに併せ当分のあいだIndie Pickは「BitSummi 2015特集」とし、編集部がプレイした興味深いタイトルたちをピックアップしてゆこう。第6回目は『The Town of Light』を取りあげる。

実在する精神病院で描かれる物語

『The Town of Light』は、イタリアのトスカーナ州フィレンツェに拠点を置くインディーデベロッパー「LKA.it」によって開発が進められているタイトルだ。ゲームの舞台となるのは、欧州に実在するという巨大精神病院で、ストーリーも実際に起きた出来事をテーマにしている。LKA.itは、何度かこの精神病院に足を運び、ゲームのために現地取材もしてきたのだという。

LKA.itはどこの病院が舞台なのかを明らかにしていないが、ゲーム中に登場する建物の構造や風景から、恐らくフィレンツェに位置する「Ospedale Psichiatrico di Volterra(オスペダーレ・シキアトリコ・ディ・ヴォルテーラ)」が舞台であると見られる。この精神病院はかつて6000人以上の精神病患者を収容していたが、「入れば二度と戻れない場所」と呼ばれるほど患者への対処は劣悪で、事故や事件が絶えず1978年には閉鎖された。なお当時のイタリアでは、精神病院の劣悪な環境が問題となり、同じく1978年に「バザーリア法」と呼ばれる精神病院への新規入院を禁じる法律が制定されている。

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『The Town of Light』は、そういった「根本治療ではなく患者を隔離するのための精神病院」が存在した時代、暴力やロボトミー手術、不当な薬物投与といった地獄の苦しみが存在した時代を描く作品である。精神病が題材の作品といえば、鬱病などを患う開発者が自らの悪夢を描いた『Neverending Nightmares』があるが、『The Town of Light』はより社会派の作品であると捉えてよいだろう。

選択肢によって主人公の病気が変化

『The Town of Light』の主人公は、統合失調症を患っている16歳の少女「レネー」だ。レネーは記憶をほとんど失っており、自分が今いる場所がどこなのか、なぜここにいるのか、そして自分が何者なのかすらわからない。プレイヤーはレネーを通じて目の前に見える”巨大な精神病院”を探索し、そこで彼女の暗い過去を垣間見つつ、物語の真相を突きとめることになる。

本作はシンプルな一人称視点ホラーアドベンチャーゲームであり、特に特殊なメカニックが登場するわけではない。一方で本作の特徴の1つが、レネーが自身の心の声をナレーションとして伝えてくるという点だ。そして彼女は統合失調症であるため、時として悪夢にとらわれるのだが、その錯乱する生の心の声をプレイヤーは直接聞くことになる。たとえばゲーム中、レネーは赤ん坊の人形を見ると記憶のフラッシュバックを起こし、「赤ちゃんが寒そうだわ」とつぶやきつつ人形を温めようとする。プレイヤーは彼女の声に従い、赤ん坊の人形を車いすに乗せ、ライトが照らされている一室に連れて行かなければならない。

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またBitSummit 2015にて展示されたプレイアブルデモには搭載されていなかったものの、本作の最大の特徴が「プレイヤーの選択によってレネーの病気が変化する」という点だ。開発者の1人であるFabio Viola氏によれば、『The Town of Light』のストーリー自体は基本的に一本道ではあるものの、プレイヤーの選択肢によってレネーの患っている病気が変化するのだという。たとえば前述した統合失調症ではなく、躁うつ病にかかることもあり、それによってゲーム内でのイベント展開なども変わってくる。

筆者がプレイしたデモは昼間の精神病院が舞台だったのだが、ときおり挟まれる陰惨なレネーの過去を描くカットシーンと、震える声で伝えられる彼女の心情に、どこかほかのゲームにはないリアリティに富んだ恐怖を感じた。ゲーム中には、レネーが男性の看護師にその身をもてあそばれるという強烈なカットシーンも登場する。間違いなく『The Town of Light』は、プレイヤーの心を恐怖だけでなく陰鬱な気分で満たすことになるだろう。

日本語字幕・吹き替えに対応へ

なお本作はゲームエンジン「Unity」にて開発が進められている。VRヘッドセット「Oculus Rift」にも対応することが明らかにされており、より陰鬱な精神病院の世界に没入することができそうだ。現在はPC/Mac/Linux向けに2015年秋リリース予定。Viola氏によれば日本語字幕に加え、吹き替えにも対応するとのことで、日本のホラーゲーム好きの方も楽しみに待つといいだろう。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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