元「人喰いの大鷲トリコ」メンバーたちが手がける『Vane』は”謎”の探索ゲーム、テーマは「子供の頃に感じたなぜ?」


発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆくIndie Pick。7月11日から7月12日にかけて、京都でインディーゲームの祭典「BitSummit 2015」が開催されている。それに併せIndie Pickは「BitSummi 2015特集」とし、編集部がプレイした興味深いタイトルたちをピックアップしてゆく。第1回目は『Vane』を取りあげる。

『Vane』は2014年9月の東京ゲームショウにて正式発表されたタイトルだ。開発を担当するスタジオFriend & Foeは、『人喰いの大鷲トリコ』や『Battlefield 3』、『バイオニックコマンドー』や『KILLZONE』などを手がけてきたスタッフにて構成されており、特に当時は音沙汰が途絶えていた『人喰いの大鷲トリコ』の元スタッフが開発に参加しているとのことで注目を浴びた。当時公開されたティーザートレイラーは、明らかにTeam ICOや上田文人氏のエッセンスを感じる内容だったが、『人喰いの大鷲トリコ』が今年のE3 2015にて再起を果たしたなか、『Vane』はどこを目指すのだろうか。

ゲームを貫く「謎」というテーマ

開発者いわく、BitSummit 2015にて公開されたビルドは今回のために急造で用意されたデモであり、「このゲームでいったい何を表現したいのか?」を描くコンセプト的な存在であるという。ちょっとした段差を登るアニメーションすらも用意されておらず、主人公キャラクターのテクスチャも貼られていない状態だ。今回公開されたレベルは、恐らく製品版では異なる内容になるという。一方で、開発者の話を聞きながら今回のビルドをプレイすると、Friend & Foeが目指す方向性が見えてくる。

プレイヤーはまず広大な砂漠の上空を飛ぶ鳥を操作することになる。ボタンをタイミングよく押し羽ばたいたり、滑空したりして移動しつつ、砂漠に何箇所か点在する風車のようなオブジェクトに到達することを目指す。オブジェクトは光っており、これを目指せばいいのかということはなんとなくわかるが、なぜ風車を目指すのかといった説明や、世界観の解説などは一切存在しない。この砂漠の世界は周囲が砂嵐に囲まれているし、ほかの生物も見当たらないし、そもそもここは地球なのだろうかと疑問ばかりが湧く。

すべての風車に鳥を立ち止まらせ、風車にある装置を起動させると、ある洞窟の入り口への道標が表示される。入り口付近の地面へと降り立つと、鳥だったキャラクターは小さな子どもの姿へと変化する。そのまま洞窟内へ入ると、中には巨大な金色の鐘がぶらさがっており、ひとりでにけたたましい音を鳴り響かせてきた。なぜ鳥が人間になったのか、なぜ洞窟のなかで巨大な鐘が鳴っているのか。その理由がゲーム内で一切解説されることはないし、『Uncharted』や『God of War』のような意味深な視点フォーカスがあるわけでもない。

広大な砂漠のオープンワールドにいきなりポツンと放たれるプレイヤー
広大な砂漠のオープンワールドにいきなりポツンと放たれるプレイヤー

Friend & Foeの数人の開発者たちに、「なぜ鳥が人間になるのか」、あるいは「この世界はどこなのか」と聞くと、彼らは心の中でニヤリと笑ったように感じた。開発陣によれば、「なぜなのだろう」というその感情こそが、本作『Vane』の根底のテーマなのであるという。ゲーム中にテキストは存在せず、ガイド表示も必要最低限。物語や世界観、主人公が誰かということすら直接的に解説されることはない。そういった「謎」をゲームプレイを通じて解き明かすことが、本作のメインテーマになるという。

特に興味深ったのが、Rasmus Deguchi氏の解説だ。「最近のゲームはガイドだらけで、子供のころにあった謎を感じることがなくなった」。『Vane』では、ゲームとしての最低限のガイダンスを残しつつも、そういった謎の感覚を復活させることが目的なのだという。「たとえば子供のころには、山の向こうになにがあるんだろうと思っていた」。そういった感覚が、『Vane』では最重要なエモーションなのである。この辺りは、どことなく『ICO』や『ワンダと巨像』の思わせるゲームデザインともいえるだろう。

「謎の金属」をメインとしたゲームプレイ

とはいえ、『Vane』は謎だらけでゲームのプレイ方法もわからないというタイトルではなく、ある程度の骨子と世界観が存在する。まずこの砂漠の世界は、およそ1000年単位でサイクルしているのだという。今回のデモにて登場する鳥は、この世界に唯一存在する生物のようなものである。この鳥は、砂漠の世界に存在する謎の金属の音を聞くことによって、人間の子供の姿へと変化する。プレイヤーの意思では鳥と人間のフォームを変更することはできず、たとえばボタンを押して姿を切り替えるといったことはできない。

BitSummit 2015にて公開されているデモは、この謎の金属でできた鐘から発せられる音を洞窟内に響かせ、先へ進むというメカニックが披露された。洞窟内は巨大な扉によって仕切られており、扉にさえぎられて音が隅々まで響き渡っていない。これらの扉を開いて音を隅々まで響かせ、人間の姿へと変身して、鳥の姿のままでは進めない場所へ進むというわけである。

デモの最終目的は、この場所で扉を開き次のエリアへ進むこと。ただし人間状態でなければ扉は開けないため、なんとかしてこのエリアまで鐘の音を響かせなければならない
デモの最終目的は、この場所で扉を開き次のエリアへ進むこと。ただし人間状態でなければ扉は開けないため、なんとかしてこのエリアまで鐘の音を響かせなければならない

鳥の姿をした生物らしき操作キャラクターは、この金属のパワーをさまざまな方法で得て姿を変化させ、先へと進むことを目指すという。デモには収録されていないが、金属の鳴り響く音だけでなく、金属が反射する光を浴びたり、金属に一部触れたりすることで操作キャラクターの姿は変化する。今回登場した鳥や人間だけでなく、数種類の姿へと操作キャラクターは変身することができるという。

「このゲームはとても開発が難しいのではないですか?」と率直に聞くと、Rasmus Deguchi氏やMatt Smith氏は困り笑いのような表情で肯定した。まずプレイヤーのガイドに関しては、強調しすぎれば彼らが目指す謎ではなくなってしまうし、逆にあまりにガイドが無ければプレイヤーが迷ってしまう。さらにそういった謎を解き明かした時に、プレイヤーが感じるカタルシスは十分なものにする必要があるだろう。でなければ、謎は単純にうざったい障壁としてしか記憶に残らない。

とはいえ、デモ段階で描写されている砂漠の世界はとても美しく、『風ノ旅ビト』や『ICO』にて感じたようなただならぬゲームの気配は『Vane』から感じることができた。Friend & Foeが、本作を傑作へと導いてくれることに願うばかりだ。『Vane』はまだ開発が始まったばかりの状況で、PC向けに2016年リリース予定とされている。各コンソールでの販売も現在検討しているという。