発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆくIndie Pick。第116回目は『We Happy Few』を紹介する。レトロタッチの奇妙なアートワークが目を引く本作は、カナダのモントリオールに位置するCompulsion Gamesによって開発が進められている。現在コアメンバー7人が所属するCopulsion Gamesは、影絵をテーマにした『Contrast』を2013年にリリースしており、今作でも同様の独特な世界観が楽しめるようだ。
喜びの麻薬「Joy」に汚染された街
『We Happy Few』の舞台となるのは、架空の歴史をたどったイングランドに位置する街「Wellington Wells(ウェリントン・ウェルズ)」だ。本作の世界では、第二次世界大戦中の1933年にナチス・ドイツがイングランドを占拠しており、国内の各都市は瓦礫の山と化した。
ところが、占拠が進められていたウェリントン・ウェルズでは、なんらかの“最悪の事態”が発生したのだという。ウェルズの人々は、その苦悩と罪の意識から逃れるため、奇跡を起こす喜びの麻薬「Joy」を発明し、そして全てを忘れた。1964年現在、ウェルズではJoyを服用する人々「Wellies(ウェリーズ)」が住む街となり、ほとんどの住民たちは悲しみも苦しみも感じず、つらい記憶をすべて忘れて生活している。
一方で、Joyの服用に疑問を感じ、ウェルズで唯一“しらふ”で生活しているのが、「Downers(ダウナーズ)」と呼ばれる人々だ。Joyを服用しているウェリーズは、ダウナーズを異分子として忌み嫌っている。警察だけでなく一般市民すらもがダウナーズを迫害し、時にはその手を真っ赤に染めてでも排除しようとする。プレイヤーはそのダウナーズの一人となり、異分子狩りから逃れつつ、幸せの街ウェルズからの脱出を目指さなければならない。
一般市民の振りをして物資を集めろ
『We Happy Few』はストーリーベースのアドベンチャーゲームではなく、何度も死んで周回プレイを楽しむようなローグライクに近いサバイバルアクションゲームだ。街からの脱出に成功するか、あるいは失敗して死に至ると、そのプレイセッションの進行度はリセットされ、また新たなゲームがスタートする。能力の異なるプレイアブルキャラクターたちが登場するほか、舞台となるウェリントン・ウェルズの街も自動生成されるため、毎回新しいゲームプレイを楽しむことができる。
ウェルズの街は、NPCの警察や住民たちが闊歩しており、不自然な行動をすれば即座に“嫌疑”がかけられてしまう。プレイヤーは、ダウナーズだとバレて嫌疑をかけられないよう立ち振る舞う。何をすればウェリーズに気に入られるのか、何をすれば嫌疑をかけられるのかは、何度もプレイして彼らの動向や行動パターンを覚えてゆく。時には周囲の視線をそらすためJoyを服用することも可能。だが薬が切れた際に、スタミナゲージ(食事で回復)や水分ゲージ(水を飲むと回復)が大きく低下してしまう。
さらにゲーム中には体力自慢の「Bobby」や、脅威の嗅覚でプレイヤーの位置を突き止める「Nosey Old Lady」、Joyを服用しているかどうかを確かめる「The Doctor」など、さまざまな特殊NPCたちも登場しプレイヤーの行く手を阻む。 またプレイヤーはダウナーズとして立ち振る舞うだけではなく、日々を生き延びるために食料や水も摂取しなければならない。そしてさらに街を脱出するという最終目標のため、物資を集めてデバイスや武器をクラフトするのだ。
どこか『BioShock』を思い起こさせるようなアートワークとビジュアル、世界観も本作の魅力だろう。都市は麻薬漬けになった市民であふれ、街角の白黒テレビからは奇妙なプロパガンダ番組が流れ続け、異分子たちには警察の棍棒が振り下ろされ、周囲には見るに耐えない貧民街が広がる。60年代SFテーマの見事なディストピア都市だ。プレイヤーは“周回プレイ”をすることで、この街のバックストーリーも徐々に知ってゆくことができるのだという。
『We Happy Few』はPC向けに早期アクセスにて2016年リリース予定。後にLinuxとMacでの配信も想定されている。現在はKickstarterにて25万ドルの獲得を目指すクラウドファンディングを実施しており、大きな成功を納めれば早期アクセスをスキップして販売するつもりのようだ。