発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第444回目は『My Little Blacksmith Shop』を紹介する。
本作は2017年1月にitch.ioにて無料アルファ版が公開された一人称視点の鍛冶屋シミュレーションゲームである。プレイヤーは小さな鍛冶屋を営む職人として、日中に訪れる冒険者からオーダーを受け、武器を製造しては売りさばいていく。カナダのインディーデベロッパー「Noble Games Studio」によるUnreal Engine 4製のタイトルであり、対象プラットフォームはPCとなっている。
職人である操作キャラクターは、途絶えることのない冒険者たちの需要に応えるべく、日々の業務をルーティーン通りに、淡々とこなしていく。朝目覚めたら、まずは材料(金属塊、グリップ、ガード)の在庫チェックから始める。不足分は仕事場の注文ボードに書き込んで発注。材料が揃ったら鞴(ふいご)を踏み、銅や鉄の塊を炉に投げ込んで溶解する。続いて金床(アンヴィル)で鍛造し、形状が整ったら水で冷却。あとは作業台で武器のグリップおよびガード(つば)と組み合わせて完成させる。ダガー、片手剣、両手剣(グレートソード)、ポールアーム、ハンマーと商品ごとに必要な材料とその個数を覚えることで作業効率を高めていく。
武器の売価は、仕入れ値の数%分の利益を上乗せし、そこに商品提供スピードおよびカリスマボーナスを追加した額となる。最初のうちは安い銅製の武器しか扱えないため粗利は少額。地道に貯蓄を貯め、鉄やミスリルといった高価な材料に手を出すことで資本を増やすのだ。商品はオーダーを受けてから都度製造してもよいが、納期は日を追うごとに短くなっていく。在庫がなければ大慌てで槌を打つはめになる。焦ればミスにもつながるだろう。来客のない空き時間を使ってストックを用意しておくのも手だ。また鍛冶屋としての経験を積み、レベルアップを図れば、筋力、機敏さ、カリスマを上げられる。筋力を強化すれば鍛造時間を短縮できるし、機敏さを上げれば移動速度が向上する。カリスマ職人になれば売価を引き上げて粗利を上乗せできる。
はじめてオーダーを取るときには右も左もわからず、店内に落ちている説明書と図面を頼りに、手探りで製造に取り掛かることになる。かといって訪れる客は店側の都合なんて考慮してくれない。商品が手に入らなければ黙って店を出てしまう。売上を逃さないよう、なんとか商品を届けなくてはならない。
とはいえ、そんな初々しい感覚は仕事に慣れるにつれて薄れていく。いつの間にか商品の扱いが雑になるし、「今すぐグレートソードを寄越せ、90秒だけ待ってやる」なんて無茶なオーダーにも文句ひとつ言わず、機械のように黙々と業務をこなせるようになるだろう。いや、人によっては無言で立ち去っていく客の背中に毒を吐きたくなるかもしれない。そんなやさぐれた気分になったとしても、いざ1日の仕事が終わり、店じまいがてら外に出れば、カラフルでやさしいローポリゴンの世界がプレイヤーを迎えてくれる。
本作の配信が開始された1月当時のビルドでは仕事場が室内に収まっていたが、その後のアップデートにより炉と金床が店の外に移動した。つまり作業中にも緑豊かな外界の様子が飛び込んでくるようになったわけだ。ビビットなカラーが目の保養となり、単調な作業に華を添えてくれる。業務内容が同じでも、職場の環境が変わるだけで印象が異なってくる。プレイヤーの心を鎮める、のどかな北欧ファンタジー風の音楽も快適な職場空間づくりに貢献している。
仕事に飽きてきたら、散歩に出かけて気分転換を図るのも良いだろう。行動範囲は限られているが、往来する冒険者たちの姿を眺めながら、のどかな田舎道を散策できる。売り出し中の家が目に入り、「稼ぎが増えれば、いずれマイホームにできるかも」なんて小さな夢が芽を出すかもしれない。このように本作は、忙しい鍛冶屋業の合間に安らぎのひとときを挟むことで、優しい気持ちにさせてくれるジョブ・シミュレーションゲームなのだ。
『My Little Blacksmith Shop』の正式リリース時期は未定。販売プラットフォームとしてはSteamが検討されている。なお今後のロードマップにはマルチプレイ対応、製造品の種類追加などが含まれている。