発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第413回目は『A Mortician’s Tale』を紹介する。
本作は葬儀社に勤める主人公チャーリーとして日々の業務をこなしながら、故人の死と遺族のグリーフに触れるナラティブ重視のジョブ・シミュレーションゲームである。チャーリーの1日は早朝のデスクワーク、依頼主・同僚とのコミュニケーションからはじまり、臨終後の遺体安置、場合によってはエンバーミング処置を経て、納棺、葬式、埋葬まで一連の流れを追っていく。遺体のケアだけでなく、葬式当日には遺族の言葉に耳を傾けることで、彼らがどのようにしてグリーフに対処し、痛みを和らげようとしているのかを見届ける。
開発を担当するのはカナダのインディーデベロッパーLaundry Bear Games。共同創設者のひとりであるGabby DaRienzo氏は、「ゲームにおける死」をテーマにしたPodcast番組「Play Dead」のプロデューサーでもあり、かねてから死というテーマと真摯に向き合ってきた人物である。本作では紫を基色としたローポリゴンのアート、かわいらしいゴシック系の女性主人公、あえて生々しさを抑えた遺体ケアの表現、そしてささやかなユーモアを交えながら、多くの人にとって馴染みのないであろう題材を咀嚼しやすい形で届けようとしている。
エンバーミング時には、実際の手順と似たように、整顔、切開、防腐剤の注入、マッサージまでをこなしていく。こうしたゲームメカニックについては『超執刀カドゥケウス』シリーズから影響を受けているという。DaRienzo氏はGlixelとのインタビューで「多くの人にとって抵抗のある題材であることは認識しており、そうした人でもプレイできるような見せ方を心がけています」と語っており、実際の施術時には避けられない体液の漏出をふくめ、一部の描写は意図的に除外しているという。
本作はもともと、葬儀業界関係者が立ち上げた「The Order of the Good Death」の活動にインスパイアされ開発を開始したプロジェクトである。忌避すべきものとして扱われる死を、人生の一部として受け入れやすくすることを目的とした団体で、葬送文化・歴史をブログ、ビデオ、集会(デス・サロン)を通じて広めている。Podcast「The Shelf」のインタビューによると、DaRienzo氏はこうした「死のプロフェッショナル」への取材を進めていくうちに、最もショッキングなケースというのは遺体の状態ではなく、故人や遺族のバックストーリーに由来することが多いということを学んだ。そのため主人公が担当する各ケースを「身体切断や溺死」といったビジュアルで差別化することは避け、ルーティン業務としての施術をこなしながらも、背景を知ることでプレイヤーの中で違った感情が湧き出るような語り方を試みているという。
また同インタビューによると、本作では仕事を通じて故人と遺族に関する理解を深めるだけでなく、主人公が勤める家族経営の小さな葬儀社と、買収を狙う大手葬儀社との関係についても触れられていく。ビジネスとしての葬儀も忘れてはいないのだ。
スコアやペナルティとしてのゲーム的な死でも、プロットデバイスとしての死でもない。パーソナルな体験談でもなく、日々の業務としての、日常的な死を題材とした『A Mortician’s Tale』。その表現方法にはセンシティブになりつつも、丁寧に、肯定的に死を捉えようとする本作は、葬送文化の異なる日本においても静かに感情を揺さぶってくれるだろう。
『A Mortician’s Tale』のリリース時期は2017年を予定。対象プラットフォームはPC/Mac、販売プラットフォームはSteam/Humble Store/itch.ioとなっている。