「おまえ今日死ぬよ」と死神に告げ知らされた男の物語。即死トラップ満載の2Dアクション『Rage In Peace』
発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第365回目は『Rage In Peace』を紹介する。
本作は初見殺しの即死トラップが満載な横スクロールアクションである。罠の配置を暗記しながらジリジリと進めていく死にゲー&覚えゲーだ。じっくり観察すれば避けられるなんて生易しい罠はほとんどない。執拗なほど初見殺しにこだわっている。その理不尽さは通常であれば良いレベルデザインとは呼べない類のものだろう。だが『Rage In Peace』は理不尽なゲームプレイとの親和性が強い物語を添えることで、死にゲーであること自体に確かな意味を持たせようとしている。
https://www.youtube.com/watch?v=_dyDVu-ceIY
主人公の名はティミー。保険会社に勤めている、マシュマロのような頭をした27歳のサラリーマンだ。感情を読み取れない黒い目、死体のように真っ白な肌。大きな野望はなく、毎日をルーティン通りに生きている。ゲーム説明文によると「異常なほど平凡」な男だという。だがそんな彼にも一つだけ譲れない夢がある。夢、もしくは自らの死に様に対するこだわりでもある。自宅の中でパジャマを着たまま天に召されたい。なんのドラマもなく、安らかな眠りにつきながら。
今日もいつも通り朝6時に起床。ため息をつきながら身支度をして通勤電車に揺られるティミー。そのまま何の感情も表に出さないまま会社のエレベーターに乗り込む。すると彼の前に死神(グリム・リーパー)が姿を現した。死神はティミーにこう告げる。「おまえ、今日死ぬよ。頭がちょんぎれて死ぬよ」。
それでもティミーは悲しまない。ただ残念そうに頷く。運命は覆らないが、救いはある。「いつ」「どこで」死ぬかは決まっていないのだ。ティミーの夢を知った死神は「一日は長いし、まだ間に合うよ!」と明るく声をかける。ティミーは己の夢を叶えるため、必死の一日を必死に生き抜く。
本作のゲームプレイ自体はシンプルな2Dアクションであり、左右移動とジャンプ、そして死神から授かった二段ジャンプを駆使してデス・トラップを回避していく。二頭身のティミーがトコトコと走る様子はとってもキュート。ただし死神の予言通りトラップに引っかかると頭がちょんぎれるため、軽いゴア表現に注意したい。
トラップのほとんどは初見での回避が不可能に近い。とことん理不尽なのだが、納得のいく筋立てにはなっている。そもそも死神から通告された死は「避けられない」はずなのだから。つまりティミーは不可避の死を無理矢理かいくぐろうとしている。死を先延ばせば先延ばすほど、運命はティミーに手厳しくなる。先に進むにつれてトラップの内容がエスカレートするのは必然だろう。
モアイ像の頭が乗ったスケートボードが猛スピードで直進してきたり、オフィスビルの床から竹槍が飛び出してきたりと、ティミーの身を襲うのは想像の斜め上をいく超常現象ばかりだ。初見では絶対に抜けられないよう二重三重にトラップが仕掛けられている。作中でも「死は予期せぬときに訪れるもの」というセリフが繰り返され、それを嫌というほど思い知らされる。その突拍子のなさはコミカルでもある。
死を繰り返すゲームではあるが、重苦しさはない。「むふふ」が口癖の死神、オフィスビルで黙々と人間観察をするゾンビ、身体だけでなく魂の保存にも成功したミイラとの交流はコメディタッチで描かれる。「オフィスで働く人間は心ここにあらずでゾンビと大差がない」と説くゾンビ。「多くの人は未来を楽しみにしているのに、その先にある死からは目を背けている」と指摘するミイラ。彼らとの会話からは、生と死に目を向けた本作のテーマ性が感じとれる。説教にならないよう、ほんのりとマイルドに語られる。「人生は振り返ることでしか理解できないけれど、前方にしか進むことはできない」というミイラのセリフは、本作でティミーの過去が関わってくることを示唆しているのだろう。
ティミー自身も無口ではない。感情こそないがユーモアは備わっている。死神から死の通告を受けたティミーは「若くして死ぬのも悪くない……いや、もう若くして死ねるほど若くはないか」とつぶやく。未来を予知してあげようと声をかけてくるミイラに対しては「今朝人生のネタバレを食らったので、これ以上は教えてくれなくて結構です」と返す。
そんなティミーはなぜ感情の起伏が乏しいのか、決死の冒険を経て彼の内面にどのような変化が訪れるのか。魂をあの世へと導く役割である死神がなぜティミーの手助けをするのか。先の展開を気にさせる作品である。
『Rage In Peace』の開発を担当しているのはインドネシアのインディーデベロッパーRolling Glory Jam。哀愁漂うオルタナ・ロック調の楽曲とアンビエントなサウンドは、ゲーム向けのサウンド制作に特化したスタジオMonkey Melodyによるものだ。リリース目標は2018年初旬。対象プラットフォームはPCである。Macへの対応も検討されているが、チーム内のプログラマーは一人であるためPC向けにリソースを集中している。デモ版はitch.io/Gamejolt/indiedbよりダウンロード可能。Steam Greenlightプログラムにも登録済みだ。