発売前や登場したばかりのインディーゲームから、まだ誰も見たことがないような最前線の作品を紹介してゆく「Indie Pick」。第343回目は『Epic Battle Simulator』を紹介する。
本作はその名の通り「壮大な戦いをシミュレーション」するためのゲームだ。なにをもって壮大としているかというと、それは兵士の人数。戦場に送り込むことができる兵士の数に制限が設けられていないのだ。プレイヤーのPCの能力が許す限り、千人だろうが1万人だろうが思うがままの戦いをシミュレートすることができる。
一言に兵士といっても思い浮かぶ姿は人それぞれだろうが、本作にはさまざまな時代、種類の兵士が用意されている。古代ローマ帝国の兵士であったり、中世の兵士や騎兵、あるいは第二次世界大戦時のアメリカ兵などもいる。また、ゲームらしくファンタジー要素も忘れてはいない。ゾンビやオーク、トロールといった架空の生き物、そしてなぜかニワトリまでをもユニットとして戦場に配置することが出来る。
兵士の種類によって持っている武器や戦法はもちろん異なる。剣と盾を持って攻め込む兵もいれば、馬を駆って敵の軍勢に切り込むもの、あるいは遠方から火矢を放ったり、ライフル銃で乱射する兵種など、それぞれの時代に合わせたものが存在している。そして本作の魅力のひとつが、本来交わるはずのない時代の兵士同士を戦わせることができることだ。たとえば、銃を持つ近代的な兵士の攻撃力は圧倒的だが、ではそれに対して何倍もの人数のローマ帝国軍を用意すれば勝つことができるのだろうか。ゾンビとニワトリの大群同士が出会ったとき、一体どのような戦いになるのだろうか。そんなことを試してみることができるわけだ。
戦いの舞台となる戦場には、山々に囲まれた広大な平原や、ゴツゴツとした岩が転がっている荒野など、気候や時間帯の違いも含めさまざまな環境が用意される。戦場には勾配や崖など高低差もあり、あまり高いところから転落すると兵士は死んでしまう。それぞれの兵士ユニットはプレイヤーが自由に配置することができるため、あえて大群を転落死させる悪趣味なシミュレーションも可能である。
実際のゲームプレイでは、どの兵士をどれだけの人数選び、そしてどのように配置するかによって勝負が決するまでの時間は大きく変わる。開発者によると1分程度で終わってしまうこともあれば、30分間も戦いが続くこともあるという。そういったゲームの設定項目についてはあまり明かされていないが、開発途中の映像では5つの軍勢が大乱戦を演じており、複数の軍を戦わせることが可能なようだ。また、ほかの映像ではVRを使って一人の兵士として戦場に立って弓を引いているものもある。
本作を手がけるBrilliant Game Studiosによると、ゲーム開発環境「Unity」に1万人ものキャラクターを扱うことができる群衆レンダリングシステムはほとんどなかったため、本作のために数か月をかけて自ら作り上げたそうだ。それぞれのキャラクターが独立して敵と戦うよう動作するため、影などのエフェクトは控えめにしてパフォーマンスを優先している。その一方、鎧の金属などが反射する光の表現などにはこだわっていて、オリジナルのライティングエンジンを開発して使用しているとのこと。同スタジオはこういった技術をUnityのアセットストアで販売もしているため、本作に使用した群衆レンダリングシステムも将来的には販売することを目指しているのかもしれない。
大量の人間などの動きを表現する群衆シミュレーションは、わざわざたくさんの役者を雇う必要がないため、すでに広く利用されている技術だ。上に掲載したのは3DアニメーションソフトMaya用の群衆シミュレーションツールGolaemを使用した映像で、さすがに映画などで使用されているだけあるリアルな表現である。Golaemは実写の映像だけでなく、ゲームのムービーなどでも使用されている技術だ。
こういった月額数万円のライセンス料が必要な専用ツールの映像と比べると本作はどうしても見劣りしてしまうが、戦場での合戦に目的を絞った上で、手軽かつリアルタイムに大群衆の動きを楽しむことができるという点でユニークといえる。その一方でゲームとして見た場合、本作はあくまでシミュレーターとして大軍同士を戦わせるだけである。そのため、ひとたび戦闘を開始させると後はその様子を眺めているだけになり、すぐに飽きてしまうのではないかと危惧してしまう。もし前述した開発中のVR映像のように、プレイヤーとして戦場に立って戦闘に加わることができる要素が実際に収録されるのであれば、また違った楽しみができそうなのだが。
『Epic Battle Simulator』はWindows向けに開発中で、現在Steamでの販売を目指してSteam Greenlightに登録している。そして十分な支持を集めることができた場合、はやくも来年1月には発売する予定だとしている。