大ヒット作『Valheim』の開発チームは「わずか8名」。競合ゲームが増えまくる中でも、少数精鋭にこだわる狙いは何なのか
「大阪・関西万博」にて『Valheim』の開発者にインタビューを実施。同作の開発体制などをうかがった。

大阪にて2025年4月13日から10月13日まで開催されている国際博覧会「Expo 2025 大阪・関西万博」。万博では世界各国のパビリオンが話題となる中、北欧館では北欧に拠点を置くゲーム会社やクリエイターが集うカンファレンスNordic Play(Games) Dayが9月22日に開催された。
今回弊誌は北欧のゲーム会社、開発者の中から『Valheim』を手がける、スウェーデンのデベロッパー、Iron Gateにインタビューを実施。『Valheim』といえば2021年から早期アクセス配信されている、オープンワールドサバイバルクラフトゲームだ。北欧のバイキングの世界観が採用されている点が特徴で、ストリーマー人気なども相まって大きなブームを巻き起こした。

今回は『Valheim』についての裏話や、9月25日から9月28日まで幕張で開催された「東京ゲームショウ 2025」への出展も含め、リードエンジニア兼ゲームデザイナーを務めるJonathan Smårs氏より、さまざまな話をうかがうことができた。
――今日はよろしくお願いいたします。Jonathanさまは日本にはよく来られるのですか。
Jonathan Smårs氏(以下、Jonathan氏):
よろしくお願いします。私は日本の食や人も好きで、過去に七回来たことがあります。温泉だけでなく街の銭湯にも行ったり、観光用のパスを使って北海道や鹿児島までいろいろなところに行ったりしました。ちなみにこのカンファレンスが終わったら、明日はニンテンドーミュージアムに行く予定です(笑)
――7回も日本に来られているのですね。日本を満喫していらっしゃるようで何よりです。ところで今回は東京ゲームショウにも出展されると聞いております。
Jonathan氏:
2年前に東京ゲームショウに出たことはあるのですが、今回は初めてのブース開設になります。特に今回は『Valheim』を2026年にPlayStation向けにも展開するにあたっての出展で、多くの人に触れてほしいですね。これにあわせてトレイラーも数日前(9月16日)に公開しました。
東京ゲームショウでは多くのゲーマーの反応が見られるのが楽しみです。プレイアブル出展以外にもプレゼントなども用意していて、大きな竜の装飾も見てもらえると思います。お土産も用意しているし、プレイヤー以外にも日本の開発者にも来てほしいですね。
――出展を楽しみにしています。ところで『Valheim』といえば北欧文化が大きく取り込まれていますが、日本ユーザーを含め、アジア圏などさまざまな地域の人に楽しまれています。どんな風にバイキングの文化を深掘りし、ゲームに取り入れたのでしょうか。
Jonathan氏:
北欧文化に関心をもってもらえることは非常に嬉しいですね。バイキングなどの文化の深掘りにはもちろん時間をかけていて、考証には主に文献を多く読むことで対応していますが、中にはスタッフが実際にバイキング博物館や現地の村に行って、剣を振ったり斧を振ったりという体験をしたこともありました。とはいえ、歴史に忠実になりすぎないようには注意をしていました。
――こだわって作り込まれた部分なんですね。ちなみにIron Gateのスタッフさまは合計で16名とお聞きしましたが本当ですか?
Jonathan氏:
はい、Iron Gateには現在16人のスタッフが在籍しており、『Valheim』はその半分の8人で開発をしています。よく、スタッフの人数を増やさないのかと聞かれるのですが、開発メンバーは友人のような関係で、いいものを作ることに集中できています。それだけでなく、私たちはワークライフバランスも大切にしています。この「古き良き」ともいえる開発方法で『Valheim』を作り、運営していきたいという考えを多くのプレイヤーが支持してくれていて、コミュニティとも良好な関係を築くことができていると思います。
――少人数体制を保つことで、開発に没頭できる環境を構築しているわけですね。とはいえ、オープンワールドのサバイバルクラフトゲームというジャンルには多くの類似作品も登場しています。それらの作品からプレッシャーを感じることはありませんか。
Jonathan氏:
感じないですね。わたしたちのゲームに続いてくれることは嬉しいですから。どちらかといえば、『Valheim』などにおける成功例を共有できたら良いと思っています。ノウハウを共有し、サバイバルクラフトゲームというジャンル自体が広がっていくのであれば、巡り巡って私たちにも良い結果になると考えています。
――ジャンルのファンベースの増加が『Valheim』にも還元されるとお考えなんですね。ところでワークライフバランスについてお聞きしたいのですが、開発メンバーのリラックス手段にはどういったものがありますか。
Jonathan氏:
実はIron Gateには仕事時間中に受けられる1時間のマッサージがあります。ほかにも、毎週ランニングやジムで汗を流したり、バーにいったり、旅行に行ったりしてリラックスして開発をしています。
――運営は長期的になりますからリラックスも大切ですね。またリラックスの一環でゲームを遊ばれることもあるかと思います。開発者目線で面白いと思ったゲームを教えてください。
Jonathan氏:
多くのインディーゲームをプレイしていて、『Hollow Knight』や『Frostpunk』は面白く感じました。デザイナーとしてほかの作品のメカニクスに興味がありますし、デベロッパーとしてはゲームを遊ぶことを止めずに刺激を受けていきたいと思っています。『Hollow Knight: Silksong』は少しだけ遊びましたが、日本に来る準備であまりプレイできていません。メンバーも仕事終わりにプレイするのを楽しみにしています。
――ではJonathanさまが個人的に一番好きなゲームは何でしょうか。
Jonathan氏:
1本には絞り込めませんが、特に好きなのは『スーパードンキーコング3』と、『スーパーマリオワールド』ですね(笑)

――ゲームの開発においては、着実な進行を心掛けていても遅れが発生する可能性もあるかと思います。そういう時はどのように対処していますか。
Jonathan氏:
開発が遅れた時は、大きなアップデートや小さなアップデートのリリース時期を差し替えたりして、大きなアップデートが遅れないようにしています。ユーザーの声は大切にしていて毎月ブログやSNSで発表をしています。発表ではすべてを伝えずサプライズ要素も用意しています。
――そのユーザーですが、公式Discordサーバーにはどのくらいの参加者がいるのでしょうか。大規模であればコミュニティマネージャーの仕事量も膨大になるかと思いますが、いかがでしょうか。
Jonathan氏:
10万人は超えていますね。過去にハッキング攻撃を受けて少し参加者が離れましたが、今はそのくらいです。コミュニティマネージャーは、ボランティアもいるおかげで上手く回っています。私もDiscord内で開発に関するコメントや意見を促す投稿をしていて、オープンな交流でファンと直接コミュニケーションが取ることができています。おかげで貴重なフィードバックも得られています。
――大変多くのプレイヤーが参加しているのですね。それほど注目と大きな支持を得ている『Valheim』ですが、開発から今までにもっとも大変だったエピソードを教えてください。
Jonathan氏:
リリース後のプレイヤーの急増は想定外でした。100万人以上のプレイヤーがいたので各プレイヤーのアセットが壊れないようにとても神経を使いました。でも心配ばかりするより開発に注力しようと考えて作業に集中しました。
とはいえ、ゲーム業界での成功は、簡単ではありません。『Valheim』のヒットは誇らしいことだと思っています。
――ありがとうございました。
『Valheim』はPC(Steam/Microsoft Store)およびXbox One/Xbox Series X|S向けに早期アクセス配信中。Xbox/PC Game Pass向けにも提供されている。またPlayStation向けにも2026年に発売予定だ。