『ソニックレーシング クロスワールド』開発者インタビュー。「快適さ」「競技性」「ノウハウ」で他作品とは差別化、セガの集大成的レースゲームに
レース展開が次から次へと変わっていく本作の魅力について話を聞くことができたので、この記事で紹介したい。

『ソニックレーシング クロスワールド』は、ソニックたちが登場するレースゲームの集大成といえる作品だ。「クロスワールド」と題されたように、レース中に別の世界へ行くという驚きの詰まったコース設計となっている。「Summer Game Fest 2025」では最新トレイラーが解禁されており、本作の発売日が2025年9月25日に決定した(関連記事)。
AUTOMATONはほかのメディアと合同で、プロデューサーの瀧隆一氏とクリエイティブディレクターの小早川賢氏にインタビューを行う機会に恵まれた。レース展開が次から次へと変わっていく本作の魅力について話を聞くことができたので、この記事で紹介したい。


アーケードとコンシューマーの開発ノウハウが本作に凝縮
――最初に、瀧さんと小早川さんの自己紹介をお願いいたします。
瀧隆一氏(以下、瀧氏):
『ソニックレーシング クロスワールド』プロデューサーの瀧と申します。これまでは、アーケードゲームやスマートフォンゲームなどの複数のタイトルでプロデューサーを担当していました。アクション、MOBA、レース、TCG、音楽ゲーム、RPGなどの多彩なジャンルでプロデューサーを務めた経験があります。本日はよろしくお願いいたします。
小早川賢氏(以下、小早川氏):
『ソニックレーシング クロスワールド』クリエイティブディレクターの小早川と申します。本作では開発現場の総責任者でありながらも、担当マネージャーとしてメンバーのアサインやPRなどのさまざまな分野にも携わっています。そうしたことから本作ではディレクターではなくクリエイティブディレクターとして名乗らせていただいております。ここ10年ぐらいはアーケード向けの音楽ゲームを担当していました。具体的には『maimai(マイマイ)』(2012年)、『CHUNITHM(チュウニズム)』(2015年)、『オンゲキ』(2018年)の3タイトルですね。メディア向けには「コハD」として顔出しもさせていただいております。
――瀧さんと小早川さんとは『maimai』や『CHUNITHM』などアーケード向け音楽ゲームに携わってきたイメージが強いです。そうしたタイトルで得たノウハウは本作にどのように活かされているのでしょうか?リズムアクション要素が本作にある場合は、そちらについても教えてください。
瀧氏:
リズムアクション要素は『ソニックレーシング クロスワールド』にはありません(笑)しかしながら、言語化しにくい直感的な気持ち良さや爽快感を生み出すことに関しては、音楽ゲームを開発した経験が活かされていると思います。たとえば、本作の「ガジェット」と呼ばれるシステムの着想を得るときは『CHUNITHM』のスキルシステムが参考になりました。『ソニックレーシング クロスワールド』は発売後のアップデートを計画しているのですが、そこにもアーケード向け音楽ゲームを制作した経験が活かされていると思いますね。
小早川氏:
本作にリズムアクションパートは存在しませんが、音楽ゲームの開発で培ったノウハウはきちんと継承されています。具体的にはコースデザインに関してですね。音楽ゲームの開発と同じように、トライアンドエラーを繰り返す方法でコースデザインを作りました。まるで何十年もレースゲームを作っているかのように質の高いコースデザインを実現できたので、その出来栄えには自信をもっているんですよ。音楽ゲームだけでなく、『頭文字D』シリーズのチームやソニックチームも開発に携わっています。そうした意味では、セガのアーケードゲーム部門とコンシューマーゲーム部門の1つのコラボレーション企画という形で本作は開発されたといえます。
――アーケードレーシングゲーム『頭文字D THE ARCADE』のチームが本作の開発に携わっていると公式Xアカウントで目にしました。リアル志向の『頭文字D』とエンタメ寄りの『ソニックレーシング』が融合することで、どのようなゲームになるのでしょうか?
瀧氏:
『頭文字D THE ARCADE』のチームは、レースゲームをおもしろくできる知識と方法を知っています。『頭文字D THE ARCADE』のチームメンバーはもちろんレースゲームの制作経験が豊富ですし、『アウトラン』(1986年)や『セガラリーチャンピオンシップ』(1995年)といったセガの過去作についても把握していますね。「もっとアウトランっぽくしようよ」や「セガラリーってそういえば……」という話がスッと通じたところが、開発現場としては一番助かったかもしれません。さらに、コンシューマーゲームならではのソニックの魅力を表現している。その結果として、本作はキャッチーな要素がありながらも飽きない対戦を両立させることができたと思います。
小早川氏:
アーケードゲームの『頭文字D』シリーズも長く続いているシリーズで、作品を経るごとに操作しやすいように進化しているんですよ。昔の『頭文字D』は難しいレースゲームとして知られていたんですが、最新作の『頭文字D THE ARCADE』では峠の厳しいカーブも気持ちよく曲がることができるようになっています。そうした『頭文字D THE ARCADE』のメンバーが本作に携わっているので、『ソニックレーシング クロスワールド』のカーブも気持ちよく曲がることができるようになっていますね。プレイヤーの思うようにカーブを曲がれるということが『頭文字D』チームを軸に本作を開発できた成果だと思っていますし、それを本作のプレイヤーに届けたいという強い気持ちがあります。

――小早川さんと瀧さんがソニックに携わった経験があれば、それぞれ教えてください。また、セガのマスコットであるソニックに対する思い入れが個人的にあれば、そちらもぜひ教えてください。
瀧氏:
制作のリーダーとしては本作が初めてになりますが、セガが約5年前から開発部門を統合したことにもともなってソニックのさまざまなタイトルに携わっています。ソニックはセガを代表するIPですので、ゲームや映像作品でソニックを見かけることが多いですね。プライベートでもソニックに触れていますので、一緒に見ていた自分の子供もソニックのファンになってしまいました(笑)
小早川氏:
それは羨ましいなぁ(笑)
瀧氏:
仕事として初めてソニックと関わったのは、たぶん『maimai』だったと思います。『ソニック カラーズ』のオープニングテーマである「Reach For The Stars」を『maimai』に実装させてもらったんですよ。ソニックチームの飯塚隆に当時お願いしたことを覚えています。個人的に「Reach For The Stars」という楽曲がとても好きだったのでうれしかったですね。
小早川氏:
「Reach For The Stars」が追加楽曲として『maimai』に登場したのが2012年のことですから、もう10年以上前のことですか。懐かしいですね。ソニックのタイトルに携わるのは私も本作が初めてですが、『maimai』に「Reach For The Stars」を登場させてもらったようにソニックチームとは交流がありましたね。ソニックへの個人的な思いを語らせていただけるとしたら、ソニックファン以外にも本作をプレイしてほしいと願っていますね。ソニックは欧米での人気の高さと比較すると、日本では馴染みの薄いキャラクターかもしれません。本作はソニックの魅力を知っていただけるような構成のゲームになっていると思います。それを私も開発中のテストプレイで実感しました。そうした意味ではソニックのことを知らない日本のプレイヤーにも本作でソニックの魅力に触れていただければと思います。
「クロスワールド」のコンセプトはほかIPとのコラボにも
――『ソニックレーシング クロスワールド』のコンセプトはどのように生まれたのでしょうか?「クロスワールド」という言葉に込められた思いについてお聞かせください。
瀧氏:
ソニックたちが暮らしている世界だけでなくて、いろいろな世界に移動できる方が楽しいだろうということから「クロスワールド」が本作のコンセプトになりました。レースゲームとしてルールと操作を増やしていくことよりも、走っているだけで感じられる新しい驚きの方が大事なんじゃないかと思っています。異なる世界にワープすることを「トラベルリング」と私たちは呼んでいますが、これは私の幼少期の体験にもとづいています。私は子供の頃に北海道に住んでいたのですが、長いトンネルを抜けると雪景色が広がっているような場所がありました。父の運転する車のなかからそうした風景を見たのが、個人的にはインパクトのある体験だったんです。
小早川氏:
シリーズ初代作『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』に登場する「ビッグリング」のように、ソニックにはリングを通してワープするというアイデアが元々あったんですよ。ワープするというアイデアは映画『ソニック・ザ・ムービー』シリーズでも使われており、シーンが目まぐるしく変わる体験ができました。映画を観ることがアトラクションを体験しているような感覚になっていると思いましたね。そうしたアトラクション体験をゲームで得られるようにしたいと考えて、『ソニックレーシング クロスワールド』を開発しました。本作はさまざまな世界につながるということをコンセプトとしていることから、ほかのIPとのコラボレーションも考えています。ソニックファンだけでなく、ソニックファン以外の方も本作を楽しみにしていてください。
瀧氏:
『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』に登場する「ビッグリング」については、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズを観て再認識できました。映画を観たときに思いついたことが本作で表現できていると思います。


――異なる世界をまたぐレースゲームというアイデアに対して、開発チーム内で盛り上がったエピソードがあれば教えてください。
瀧氏:
本作は1つのコースを3周走って順位を競うレースゲームになっています。プレイヤーに驚きを与えることが大切ですが、周回を重ねるなかでも驚いてもらえるようにするにはどうしたらいいのかということを考え抜きました。1周目と3周目は同じコースを走るんですけど、アイテムの配置やショートカットの有無などの変化があります。3ラップ目を盛り上げるためのアイデアについては、開発チーム内でも熱く議論しましたね。
小早川氏:
本作は1つのコースのなかでさまざまな世界に行くことができますので、プレイヤーに行ってもらう世界を考えるのも開発チームとしては盛り上がったところですね。端的に言ってにぎやかなゲームになっていると思います。また、本作はさまざまなIPとのコラボレーションも企画しています。開発チーム内でもコラボしたいIPが次から次へと挙げられて、とても盛り上がりました。今回は『Minecraft』とのコラボを発表させていただきましたが、ほかのIPとのコラボも考えておりますのでご期待ください。
瀧氏:
『Minecraft』とのコラボではコース、マシン、キャラクターの配信やオンラインイベントの開催を予定しています。「Summer Game Fest 2025」で公開されたトレイラーでは、初音ミク、『龍が如く』の春日一番、『ペルソナ5』のジョーカーとのコラボも発表させていただきました。ソニックの世界に多様なIPが参戦することは、まさに『ソニックレーシング クロスワールド』という作品名を体現するものだと考えています。続報を楽しみにしていただけると幸いです。
小早川氏:
トレイラーで発表されたように、『ソニックレーシング クロスワールド』の発売日が2025年9月25日に決定しました。デジタルデラックスエディションでは予約特典として『ソニックワールドアドベンチャー』で初登場したウェアホッグが付いてきますので、ウェアホッグのファンの方はそちらもぜひチェックしてください。
――本作がエンタメ志向のレースゲームになるとしたら、既存のレースゲームとはどのように差別化がなされているのでしょうか?
瀧氏:
本作では快適な操作性と高い競技性にこだわりました。オンライン対戦においては、すべてのプラットフォームでのクロスマッチが可能です。オンライン対戦での高い競技性を実現するために、約1万通りのカスタマイズのバリエーションを用意しました。車の種類はもちろん、パーツやカラーリングもプレイヤーの独自のカスタマイズが可能なんですよ。それに加えて、プレイヤー独自の走り方を追求できる「ガジェット」というゲームシステムが本作には存在します。「クロスワールド」のコンセプトによって社の内外を問わないコラボレーションを生み出すというのも、本作がほかのタイトルと差別化を図っているポイントですね。
小早川氏:
カスタマイズ性が極めて高いので、オンライン対戦をプレイしても自分の車を見失わないと思います。カラーチェンジのだけでも、シートカラーやハンドルカラーなどのすべてをそれぞれカスタマイズできるんですよ。まったく同じデザインの車が存在しないといった状況を作ることができました。本作がこだわっている競技性の高さは、アーケードゲームの開発で培ってきたものが活かされていると考えていますね。わたしたちアーケードゲームの開発メンバーは、1プレイ1コインでプレイヤーを楽しませてきたという自負があります。日本のアーケードゲームは世界的に見ても早い段階でオンライン対戦に対応してきた歴史があるんですよ。そのノウハウを本作の開発に注ぎ込んで、世界中のプレイヤーに『ソニックレーシング クロスワールド』で競い合っていただけるようにしました。


充実したソロプレイと未知の展開が起こるオンライン対戦
――2025年2月にはクローズドベータテストを実施したとのことですが、参加者からはどのような反応が得られましたか。また、その反応は製品版にどのように取り入れられるのでしょうか?
瀧氏:
クローズドベータテストは2日間限定で実施されました。チュートリアルなしでいきなりオンライン対戦をプレイしていただく形だったので不安もあったのですが、2日間で100万回ものレースが行われたんですよ。1レース最大12人まで参加できますので、かなり多くの方にプレイしていただけたのかなと思います。トラベルリングのメカニズムや陸・海・空のトラップ変化などは、驚きとともに好評を得られましたね。その一方で、アイテムのバランスについては参加者からの貴重な意見の数々をいただきました。そうした意見を製品版に反映することができましたので、テストを実施して本当に良かったと思っています。
小早川氏:
テストで実施された100万回のレースについては、開発チームでさまざまなデータを収集しています。アイテムをコースのどの場所で使ったのかということを含めて、かなり細かく分析できました。参加者の方からは何万件ものアンケートに回答していただいて、アイテムについての意見も数多く寄せられましたね。特定のアイテムの出現率についての意見や、アイテムの効果の強弱についての意見が多かったように思います。そうした意見を反映させて、製品版は最適なバランスに仕上げることができました。
――オンラインプレイとソロプレイに対応する本作ですが、どのような特徴がありますか?
瀧氏:
本作はソロプレイも重視していて、プレイヤーとCPUが競い合うライバルシステムを搭載しました。ライバルになったキャラクターとプレイヤーキャラクターの掛け合いが見られるんですよ。レースで競うという根源的な体験ができるようになっていますし、プレイヤーとCPUが競い合って成長していけるようなシステムになったと感じています。CPUのスピードによる難易度の付け方というのはこの手のゲームでよく見られることですが、本作には10段階もの難易度を用意しています。レースゲームとしてこれまでにないほど、ソロプレイは充実していると思いますね。
小早川氏:
本作にはシリーズのさまざまなキャラクターが登場します。グランプリモードではプレイヤーキャラクターと対決するライバルが登場して、2人の白熱した掛け合いが生まれるんですよ。あるキャラクターとまた別のキャラクターが『ソニックレーシング クロスワールド』の世界で出会ったらどのような会話をするのだろうと。もしものライバル関係を本作で無数に作りました。ステージが変わればキャラクターのセリフも変わるので、ボイスの量が凄まじいことになっています。


――過去のソニックのレースゲームと比較して、本作ではどのような体験をプレイヤーに届けたいと考えましたか?
瀧氏:
わくわくするような驚きを提供することと、状況が常に変化していくということを意識しました。飽きずに競い合うということを実現するために、さまざまな驚きを用意しています。変化が大きいゲームであるからこそ、同じような展開が発生しにくいレースゲームになっていると考えていますね。
小早川氏:
本作では「ガジェット」を体験してほしいと思っています。ガジェットは、ゲームシステムをプレイヤーがカスタマイズできるといっていいほどの大胆な変化を及ぼすゲームシステムです。ガジェットの組み合わせを含めた自分なりのカスタマイズをしたうえで、オンライン対戦でほかのプレイヤーと競うのが白熱するんですよ。全プレイヤーがガジェットを駆使して戦いますので、まったく同じ展開のレースになることは、ほとんどないと言っていいでしょう。ほかのゲームとは違うと実感していただけると思いますので、オンライン対戦もプレイしていただければ幸いです。
過去作の要素も満載でソニックのレースゲーム集大成に
――独自のプレイスタイルを構築できるガジェットですが、性能やバランス調整で苦労した点があれば教えてください。
瀧氏:
アーケードゲームの開発で培ったノウハウが、ガジェットの性能やバランスの調整に活きていると思います。本作にはレース中に走るコースがランダムで変化する要素などが存在しますので、どんなときも最強のガジェットという組み合わせは生まれにくいはずですよ。簡単に最強が決まらないように私たちは工夫して開発しています。
小早川氏:
私がセガに入社して初めて開発に参加したのは、アーケード向けカードゲームの『アヴァロンの鍵』でした。同作のバランス調整に携わったのですが、尖った部分のある方が絶対的におもしろいということを学びましたね。もっと正確に表現すると、尖らせたうえでバランスを取ることが大切だと考えています。本作はそのようなバランスを目指していますし、発売後もアップデートなどでより良いタイトルにしていきます。
――エクストリームギアの復活に非常に驚きました。『ソニックライダーズ』シリーズを彷彿とさせるこの要素をどのように本作に融合させたのでしょうか?世界観構築やゲームバランス調整について苦労された点はありますか?
瀧氏:
本作は、これまでに発売されてきたソニックのレースゲームの集大成になっています。『ソニックライダーズ』シリーズの要素もありますが、『ソニック&オールスターレーシング TRANSFORMED』で採用された陸・海・空なども取り入れられていますね。過去作の要素を発展させたものと本作ならではの要素を組み合わせて、『ソニックレーシング クロスワールド』を開発しました。『ソニックライダーズ』シリーズのファンに喜んでほしい気持ちもありましたので、同シリーズに登場した空を飛ぶ「エクストリームギア」でレースできるようにしたんです。開発的にはキャラクターのモーションを増やさなければならなくなるので大変でしたが、ソニックらしいクールさも出せる要素として搭載して良かったです。
小早川氏:
エクストリームギアのいいところは、キャラクターの立ち姿が見えることですね。車に乗ってしまうと、せっかくのキャラクターが見えないともったいないという話はずっとしていました。『ソニックライダーズ』シリーズからは、空中でトリックを決める「エアトリック」の要素も取り入れています。エアトリックを決めることでスピードが上がるというメリットがありますので、レースゲームとしても積極的に狙っていけるものになりました。
瀧氏:
エアトリックを決めれば決めるほど良い効果を得られますので、宙に浮いたら積極的に挑戦してほしいですね。高くジャンプすることができたときは、連続でエアトリックを決めることもできます。ガジェットをエアトリック重視の構成にすることもできますので、そちらを試してみるのもいいかもしれません。エアトリック自体は初心者から上級者まで楽しんでいただけると思います。

──ありがとうございました。

『ソニックレーシング クロスワールド』は、2025年9月25日発売予定。プラットフォームは、PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/Nintendo Switch 2/Nintendo Switch/PC(Steam/Epic Gamesストア)となっている。