セガ新作『SHINOBI 復讐の斬撃』は、「フランスの開発元との共鳴」で完成度が上がった。なぜその開発元?なぜ『忍』復活?開発者に訊いた

『SHINOBI 復讐の斬撃』は、現代を生きる忍者が主人公のアクションゲームだ。本作はセガの『忍』シリーズの十数年ぶりとなる新作であり、メガドライブで発売された『ザ・スーパー忍』(1989年)と『ザ・スーパー忍II』(1993年)のテイストを色濃く残す。本作の開発には、『ワンダーボーイ ドラゴンの罠』(2017年)や『ベア・ナックルIV』(2020年)などで知られるLizardcubeが携わっている(関連記事)。

AUTOMATONはほかのメディアと合同で、プロデューサーの大原徹氏とディレクターの寺田貴治氏にインタビューを行う機会に恵まれた。シリーズ復活を期す本作について貴重な話の数々を聞くことができたので、この記事で紹介したい。

プロデューサーの大原徹氏。
ディレクターの寺田貴治氏

『忍』新作はセガのIP復刻プロジェクトの一環

――最初に、大原さんと寺田さんの自己紹介をお願いいたします。

大原徹氏(以下、大原氏):
セガで『SHINOBI 復讐の斬撃』のプロデューサーをやっている大原と申します。セガに企画職として入社してからは、『サクラ大戦』(1996年)などのコンシューマーゲームの開発に参加しました。近年は『三国志大戦』シリーズなどのアーケードゲームに携わっていましたが、本作で再びコンシューマーゲームの開発に戻ってきた形です。ディレクターの寺田とは『サクラ大戦2 〜君、死にたもうことなかれ〜』(1998年)で一緒に開発に参加していました。

寺田貴治氏(以下、寺田氏):
セガで『SHINOBI 復讐の斬撃』のディレクターの寺田です。私は『ファンタシースターポータブル』シリーズや『サクラ大戦』シリーズで多彩なジャンルの開発に携わってきました。アクションゲームの開発は『SHINOBI 復讐の斬撃』が初めてですので、自分でも楽しみながら本作を開発することができました。

――お二人が過去の『忍』シリーズに携わった経験があれば、教えていただけますか。

大原氏:
実は、過去の『忍』シリーズに携わった経験が私にはありません。そういう意味では、新鮮な気持ちで『SHINOBI 復讐の斬撃』の開発に参加できていますね。私自身はアクションゲームがあまり得意ではありませんが、そうしたプレイヤーを代表する1人として本作に携わることができていると認識しています。

寺田氏:
私はPS2で発売された『Shinobi』(2002年)の開発に携わった経験があります。同作で主人公だった秀真(ほつま)のアクションを中心に担当しました。短時間で敵を倒すことで攻撃力が上昇していき、どんな敵でも一撃で倒すことのできるようになる「殺陣(たて)」というアクションを『Shinobi』の開発陣のみんなで考えたことを今でも覚えていますね。今回の『SHINOBI 復讐の斬撃』ではディレクターとして開発に携わっているので、不思議な縁があると思っています。

――なぜ、このタイミングで『忍』シリーズの新作が作られることになったのでしょうか?お二人が携わることになった理由も教えてください。

大原氏:
しばらく音沙汰のないIPを復活させていこうという動きがセガ全体であります。The Game Awards 2023で発表されたように、『忍』シリーズも復活予定のIPに含まれていました。『忍』シリーズは、メガドライブで発売された『ザ・スーパー忍』と『ザ・スーパー忍II』がとくに人気です。私と寺田が『SHINOBI 復讐の斬撃』にアサインされたのは、メガドライブをよく知っている年代の開発者であることや若いスタッフを取りまとめる立場であることが大きな理由だと考えています。

寺田氏:
『SHINOBI 復讐の斬撃』はセガとLizardcubeが共同して開発するタイトルです。私と大原のほかにも、アートやプログラミングのディレクションといった部分でセガのスタッフが開発に参加していますね。合計で10人弱のセガのスタッフが開発に参加していると思います。

大原氏:
当時の『ザ・スーパー忍』に携わった開発者はすでにセガにいませんでしたが、『ザ・スーパー忍』をやり込んだという人はセガに何人もいます。そうした人たちの意見は本作にも反映されていますね。具体的には難易度の高さについて議論しました。高い難易度でありながらも、それを乗り越えていけるような主人公を作り上げるのが本作の目標でした。

――本作のジャンルについて教えてください。探索が重要なメトロイドヴァニアなのでしょうか、それともリニアなステージクリア型のアクションゲームなのでしょうか?

大原氏:
『SHINOBI 復讐の斬撃』は、いわゆるメトロイドヴァニアではありません。ステージを1つずつクリアしていくタイプのアクションゲームです。マップの探索要素がメインのメトロイドヴァニアとは異なります。ジャンルでいうと2Dプラットフォーマーですが、移動アクションだけでなくバトルの楽しさも追求したゲームになっています。主人公が新しい技を習得することで探索可能な場所が広がっていきますので、本作には少しだけメトロイドヴァニアの要素も含まれるといった方が正しいかもしれませんね。

寺田氏:
ステージにはメインルートのほかに、特定のアイテムを入手することで行けるようになるサブルートも存在します。サブルートは結構難しいのですが、そうした場所では珍しいアイテムを入手できますので攻略する価値があるものになっています。

大原氏:
2Dプラットフォーマーというジャンルにしたのは、Lizardcubeと組んで『忍』シリーズを復活させようという気持ちが一番大きかったです。『忍』の新作を作りたいという願いを、セガとLizardcubeの両方が持っていました。Lizardcubeと作るのであれば、Lizardcubeの長所であるアートスタイルを活かすべきということはわかっていました。『ベア・ナックルIV』で優れたビジュアルを実現していましたし、その開発経験を活かしてもらうといった形ですね。そうしたことを念頭に、『SHINOBI 復讐の斬撃』は2Dプラットフォーマーのゲームとして磨き上げられていきました。

セガとLizardcubeのタッグで完成度の高いゲームに

――セガとLizardcubeが組んで『SHINOBI 復讐の斬撃』を開発して良かったと思うことはどのようなものでしょうか?

大原氏:
セガとLizardcubeで『SHINOBI 復讐の斬撃』を作って良かったと思うことは、大きく分けて2つあります。1つめはLizardcubeによる本作のアートスタイルです。過去のシリーズ作にはなかった新しい表現になっていますので、『忍』シリーズに新たな命を吹き込んでくれています。もう1つは、ゲームデザインやバトルデザインについてもLizardcubeのポリシーを反映して良いものにできたことですね。そこには、プレイヤーに自由な選択肢を提供することや自由な操作感を追求することが含まれています。いいゲームを生み出すための仲間として、セガとLizardcubeは切磋琢磨していきました。

寺田氏:
Lizardcubeの持っているセンスの良さは元々すばらしいものです。それだけでゲームになるかと問われたら、確実に「なる」と答えられます。ただし、コンシューマーゲームとして発売するための提案をセガも数多く出しました。プレイヤーに長く楽しんでもらえるシステムといった提案ですね。Lizardcubeの良さとセガの良さが混ざりあった結果として、『SHINOBI 復讐の斬撃』は総合力の高いゲームになりました。

――開発を進めていくなかで、本作がうまくいくことを確信できたタイミングを教えてください。

大原氏:
モノづくりに関するLizardcubeのセンスの良さは『ベア・ナックルIV』でわかっていたので、おもしろいゲームになるだろうという期待は最初からありましたね。本作の開発においても、ステージ構成や背景ビジュアルのアウトプットは迅速でした。質の高いアウトプットを継続的に作り出すLizardcubeは異次元のレベルにあるといっていいでしょう。開発期間の全体を振り返っても、Lizardcubeの仕事には常に期待感をもつことができていました。そうしたことを含めて開発は進んでいったのですが、アクションが敵と戦うだけで楽しくなってきたときにLizardcubeに任せてよかったと実感しましたね。

寺田氏:
アクションゲームは動かしているだけで楽しいものであるべきということがよく言われますが、そのようなゲームは存在しないと個人的に思っていました。そうした私の認識を覆すような出来栄えになっていましたので、このアクションを作り上げたLizardcubeにはすごい人たちが集まっているんだなと思いましたね。

基本的なアクションの質の高さにくわえて、忍者の一撃必殺を具現化する技の「シノビ・エクスキューション」が生まれたときの衝撃が忘れられません。複数の敵をまとめて倒すときの気持ちの良さに唸ったことを記憶していますし、アクションゲームとして1つ上の高みに行くことができたような気がしました。

――Lizardcubeならではのビジュアルとして、どのような特徴があるのでしょうか?

大原氏:
Lizardcubeは、ステージの背景のビジュアルにこだわっていました。主人公が飛び跳ねるだけでも楽しいという感覚を追求していましたね。『忍』シリーズの世界観としては現代が舞台で忍者が出てくることを満たせば、そのほかはわりと自由です。柔軟な発想でステージのビジュアルを表現できていると思います。各ステージにふさわしい背景を用意することはもちろんですが、Lizardcubeは遊び心ももっています。過去作のオマージュが散りばめられていますし、「ネオシティ」と呼ばれるステージではセガのロゴが看板になっているところもありますよ。

寺田氏:
本作のステージは、想像できないような風景が次から次に出てくるような構成になっていると思いますね。ネオシティのようなサイバーパンク風のステージもあれば、ヘリから飛び降りてサーフボードで水の上を走るステージもありますよ。とあるステージでは山の中にある基地に忍び込むことになるのですが、なぜか巨大な仏像が描かれていますね。Lizardcubeのイメージする山岳ステージには仏像があるんだと驚きました。

大原氏:
すべてのステージが特徴的なのはもちろんですが、それぞれのステージのなかだけでもさまざまな風景が登場するんです。最初のステージとして登場する「朧の里」だけでも雪、竹林、崖の下、屋敷の中といった場所が登場しますね。それぞれの場所にかなりの数のグラフィックが用意されていますので、ステージ進行に応じて変化する風景にも注目してほしいです。たとえ一度は完成したグラフィックだとしてもブラッシュアップは継続的に行っていましたし、開発中にグラフィックを差し替えることも頻繁にありました。Lizardcubeはモノづくりに対する情熱にあふれています。

技が増えることで格ゲーのようになっていくアクション

――本作のアクションについてはどのような特徴があるのでしょうか?

大原氏:
ゲーム内ショップで技を買って、主人公のアクションを増やしていくのが本作の特徴ですね。使用可能な技を入れ替えることができるゲームはほかにも数多く存在しますが、本作は主人公の技が純粋に増えていく仕組みです。既存の技と新しい技を組み合わせることでコンボがつながったり、吹き飛ばした相手に追い打ちをかけられるようになったりします。最初はシンプルなアクションゲームですが、やり込むうちに格闘ゲームのようなプレイフィールへと変わっていきます。

寺田氏:
どの技をどのように使うかはプレイヤーの自由です。もちろん相手によって攻略しやすい技はあるんですけど、プレイヤーの工夫によって答えを見つけていけるゲームになっています。

大原氏:
この技でなければこの敵は倒せない、というような考え方で本作は作られていないんです。主人公の1つの技にしても、Lizardcubeはプレイヤーの自由な選択につながるようにするというポリシーを持っていました。プレイヤーの選択肢が増えていくことで、より自由で爽快な戦い方を追求できるのが本作のポイントです。

――試遊では攻撃が命中したときに動きが止まるヒットストップの演出が印象に残りましたが、どのようなこだわりがあったのでしょうか?

寺田氏:
ヒットストップについても、Lizardcubeのこだわりが強く反映されている部分ですね。開発中に何度も調整したことを覚えています。ときにはヒットストップがかかりすぎて、プレイする度に酔ってしまうというようなこともありましたからね。試行錯誤を繰り返し、洗練されて残ったものが本作のアクションです。

大原氏:
バトルはとにかく爽快感を追求しています。主人公のジョー・ムサシが動き続けることを重視していましたので、演出でムサシの動きが止まることを極力避けていました。ストーリーやキャラクターについての描写は過去作よりも増えていますが、重厚長大なストーリーというわけではありません。主人公のジョー・ムサシになりきって戦っていくことを目的としたものになっています。ストーリーについては、Lizardcubeが考えたものを寺田がリライトしています。

寺田氏:
作品名に『SHINOBI 復讐の斬撃』とあるように、本作のストーリーのテーマは復讐です。ジョー・ムサシが復讐を遂げていくのにプレイヤーが共感できるストーリーを目指しました。道中ではジョー・ムサシを助けてくれる仲間が増えていきます。復讐をテーマにしているため楽しいだけとはいえませんが、頼れる仲間と旅をしているようなストーリーになっていますね。

――ストーリーをクリアするまでの難易度はどのようなものになっているのしょうか?

大原氏:
『ザ・スーパー忍』と『ザ・スーパー忍II』のような過去作の当時から、ファンは「あんなに難しいゲームはほかにはない」ということを語っていました。そのシリーズの最新作になるわけですから、『SHINOBI 復讐の斬撃』をヌルいゲームにするべきではないという前提がまずありましたね。そのうえで、主人公のジョー・ムサシをとにかく強くするということを意識しています。結果的に高難易度と強い主人公でバランスが取れていると思います。

寺田氏:
主人公のジョー・ムサシのスペックが高すぎて、プレイヤーがやり込めばやり込むほど使い勝手が良くなっていく存在なんですよ。ストーリーのクリアは決して簡単なことではありませんが、ジョー・ムサシを使いこなせればクリアできます。『SHINOBI 復讐の斬撃』はそうした難易度のゲームですね。

大原氏:
とはいえ、アクションが苦手な場合でもクリアまで楽しんでいただけるように難易度を下げるオプションを用意しました。

寺田氏:
本作にはプレイ中いつでも難易度を調整できる機能が搭載されています。この難易度を調整する機能はかなり細かく設定が可能ですね。たとえば、敵のHPや攻撃力を半分にすることもできれば、敵の攻撃頻度を下げることもできます。いつでも難易度を調整できるので、ボス戦でゲームオーバー直前でも難易度を変更することができます。いついかなるときに難易度を調整していただいてもかまいません。

――ゲームの全体のボリュームはどのくらいになるのでしょうか?クリアまでにかかる時間を教えてください。

大原氏:
ざっくり言うと、15時間くらいですかね。

寺田氏:
アクションが得意な場合は、ストーリーモードを10時間くらいでクリアできる方もいらっしゃるかもしれません。やり込み要素としては、ハイスコアを目指すアーケードモードも搭載しています。ストーリーモードでは1つのステージにつきシネマティックなイベントシーンが1つあるような感じですが、アーケードモードではイベントシーンがカットされます。そういう意味では純粋にアクションを楽しみたい場合のモードになっていますね。

インディーゲームのように口コミで広まることも意識

――公式サイトやトレイラーでは過去作を彷彿とさせるシーンが数多く登場していますが、どのようにして本作に取り入れられたのでしょうか?

大原氏:
セガとLizardcubeでお互いにアイデアを出し合ってはいますが、オマージュしたいという気持ちはLizardcubeの方が強かったですね。本作には過去作の要素が散りばめられていますが、過去作をまったく知らなくても楽しめますし、過去作を知っていればより楽しめる作品になっていると思いますね。

寺田氏:
ストーリーにつきましても、過去作の知識が必須というわけではありません。過去作の設定を知らないと本作のストーリーを読み解けないということはありませんね。

――セガのタイトルとしては3300円(税込)という価格は珍しいと思うのですが、なぜこのような価格にしたのでしょうか?

大原氏:
この価格設定は本作の掲げるチャレンジの1つであるとも思っています。Lizardcubeというインディーゲームを開発してきたスタジオと組んで『忍』シリーズを蘇らせようとするのもチャレンジだと思いますし、インディーゲームのような価格設定やプロモーションをしてもいいかもしれないと考えたんです。

寺田氏:
今の時代に2Dプラットフォーマーをどれだけの方に手にとっていただけるかを、考えた結果だと思います。

大原氏:
実際にほかの2Dプラットフォーマーのタイトルでいうと、そこまで高い価格で販売されていませんからね。本作はユーザーから口コミで広がるインディーゲームのようになってほしいと思っていますし、ほかのユーザーからおすすめされたときに手に取りやすい価格で提供したいです。アクションゲームの場合は、実際にプレイしないとその良さがわからないところもありますからね。予約すると2970円(税込)とさらにお買い得になりますので、より多くの方に本作をプレイしてもらえれば幸いです。

――発売前にユーザーが本作に触れられる機会がありますか?

大原氏:
まだ詳細は話せませんが、そういう機会を作りたいと思います。いまいろいろと準備をしているところです。楽しみに待っていてください。

寺田氏:
スケジュールはどうなっているんだと、いわれている最中です(笑)

──ありがとうございました。

SHINOBI 復讐の斬撃』は、2025年8月29日発売予定。プラットフォームは、PS5/PS4/Nintendo Switch/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)となっている。通常価格は3300円(税込)だが、予約すると特別価格の2970円(税込)で購入可能(PS5/PS4版はPS Plus会員のみの割引)。なお、Nintendo Switch版のストアページは後日あらためて公開予定となっている。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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